製薬会社の副工場長は肩書の「副」が不満で、その字を呪(のろ)うほど嫌っていた。ある日、新薬に添付する説明書の草稿に目を通してほしいと秘書に言われ、内容にかまわず「副」の字を削った。刷り上がった説明書にいわく、〈本薬はいかなる作用もありません〉
相原茂さんのジョーク集「笑う中国人」(文春新書)にある。どういう言葉もやみくもに目の敵にしていれば、ときに策を誤る。「ダム」も、そうだろう
無駄な公共事業の代表格として評判の悪いダムにも、例外がないではない。国土交通省が群馬県に建設中の八ッ場(やんば)ダムは、流域の1都5県が利水・治水の要として完成を待ちかねている
建設中止を公約に衆院選を戦った民主党には思案のしどころだろう。工事継続を新政権が検討しても、メンツにこだわらない「変化」を有権者は褒めこそすれ、「変節」とはみなすまい
工事を中止すればしたで、支出済みの自治体負担分は国が返還しなくてはならず、国庫は相当に傷む。税金の無駄をなくすはずが、あとあと、〈本改革はいかなる作用もありません〉でした…と説明書が付くようでもいけない。
9月4日付 編集手帳 読売新聞
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9.04.2009
9.03.2009
駆け込み「天下り」政権交代を後押ししたのは官僚不信の猛火・・・ 編集手帳 八葉蓮華
その昔、東京・浅草に味(み)噌(そ)を商う店があり、いまで言えばシャッターにあたる大戸をいつも半開きにして営業していた。中は薄暗く、店側も客も不自由したことだろう
先代のときに火事を出し、息子に店を譲ったあとも、息子一代の間は謹慎の心をこめて半開きの営業をつづけさせたのだという。劇作家の高田保が「火の用心」という随筆に書いている
政権交代を後押ししたのは官僚不信の猛火であり、火元をたどれば年金の社会保険庁とともに事故米の農水省に行き当たる。業者の不正を告げる情報を握りながら大甘の検査で見過ごした無気力な仕事ぶりに、あきれた方は多かろう
昨年9月に引責辞任した農水省の前次官が、省所管の社団法人会長に就任した。味噌屋さんを見習えとは言わないが、謹慎の心はどこへやら、民主党政権が発足する前に駆け込みで天下りとは、もらい火で焼け落ちた自民党もなめられたものである
戯(ざ)れ唄(うた)に〈小言聞くときゃ頭をお下げ 下げりゃ意見が通り越す〉とある。通り越したと読んだのであれば了見違いだろう。霞が関の受ける荒療治がもっと手荒くなるだけである。
9月3日付 編集手帳 読売新聞
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先代のときに火事を出し、息子に店を譲ったあとも、息子一代の間は謹慎の心をこめて半開きの営業をつづけさせたのだという。劇作家の高田保が「火の用心」という随筆に書いている
政権交代を後押ししたのは官僚不信の猛火であり、火元をたどれば年金の社会保険庁とともに事故米の農水省に行き当たる。業者の不正を告げる情報を握りながら大甘の検査で見過ごした無気力な仕事ぶりに、あきれた方は多かろう
昨年9月に引責辞任した農水省の前次官が、省所管の社団法人会長に就任した。味噌屋さんを見習えとは言わないが、謹慎の心はどこへやら、民主党政権が発足する前に駆け込みで天下りとは、もらい火で焼け落ちた自民党もなめられたものである
戯(ざ)れ唄(うた)に〈小言聞くときゃ頭をお下げ 下げりゃ意見が通り越す〉とある。通り越したと読んだのであれば了見違いだろう。霞が関の受ける荒療治がもっと手荒くなるだけである。
9月3日付 編集手帳 読売新聞
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9.02.2009
首相指名選挙「征途の感」国のためにするべきこと・・・ 編集手帳 八葉蓮華
流罪に等しい左遷の処分を受けた人にして、この気魄(きはく)はどうだろう。アヘンの害毒を除くべく果敢な措置を講じたことを逆に咎(とが)められ、清国皇帝から大臣の職を解任された林則徐(りんそくじょ)は、任地・新疆に向かう旅で詩を残している
〈我の来たるは別に征途の感あり/衰齢の為(ため)に賜環(しかん)をのぞまず〉。「賜環」とは罪を許されることを言う。失意の旅ではなく、国のために新しい戦場へ赴くような心地がする。老齢を理由に赦免など望みはしない、と
するべきことをして皇帝に嫌われたその人と、するべきことをしないで有権者に嫌われた自民党と、左遷の経緯は似ても似つかないが、せめて旅立つ心組みぐらいは似せてほしいものである
自民党は総裁選を今月末に先送りするという。特別国会の首相指名選挙では、辞意を表明している現総裁の麻生首相を形ばかり推挙するつもりらしい。あれこれ理由はつけても、歴史的惨敗の放心状態が少し薄れるまでは、新しい戦場に出向くのは勘弁して――ということだろう
この期に及んで麻生さんに1票を投じる集団に、「征途の感」はどうやら無い物ねだりのようである。
9月2日付 編集手帳 読売新聞
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〈我の来たるは別に征途の感あり/衰齢の為(ため)に賜環(しかん)をのぞまず〉。「賜環」とは罪を許されることを言う。失意の旅ではなく、国のために新しい戦場へ赴くような心地がする。老齢を理由に赦免など望みはしない、と
するべきことをして皇帝に嫌われたその人と、するべきことをしないで有権者に嫌われた自民党と、左遷の経緯は似ても似つかないが、せめて旅立つ心組みぐらいは似せてほしいものである
自民党は総裁選を今月末に先送りするという。特別国会の首相指名選挙では、辞意を表明している現総裁の麻生首相を形ばかり推挙するつもりらしい。あれこれ理由はつけても、歴史的惨敗の放心状態が少し薄れるまでは、新しい戦場に出向くのは勘弁して――ということだろう
この期に及んで麻生さんに1票を投じる集団に、「征途の感」はどうやら無い物ねだりのようである。
9月2日付 編集手帳 読売新聞
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9.01.2009
新人143人「チルドレン」世間にしっかり顔を見せ、声を聞かせて欲しい・・・ 編集手帳 八葉蓮華
〈逢(あ)いたくて 逢いたくて/星空に呼んでみるのだけど…〉。小沢一郎さんに恋慕の情は抱いてはいないが、衆院選で民主党を歴史的な大勝利に導いたお祝いに、昔、園まりさんの歌った「逢いたくて逢いたくて」を贈る
民主党の当選議員308人のなかには新人が143人いる。その多くが小沢代表代行(選挙担当)の手で公認候補に選ばれ、資金と戦術を授けられた、いわば“小沢チルドレン”である
すでにして党内最大勢力の小沢グループがさらに膨張するのは確かで、首相のいすに座る鳩山由紀夫代表も小沢氏の意に反する政権運営はむずかしかろう
現在の代表代行職には定例の記者会見をひらく義務もない。党内はおろか国政をも動かせる「数」を握った人には閣内であれ、閣外であれ、世間にしっかり顔を見せ、声を聞かせるポストに就いてもらうとしよう。「逢いたくて逢いたくて」である
万が一にも二重権力だ、黒幕だ、闇将軍だといった風評を招いては、民主党自慢の透明度に曇りが生じる。「逢いたくて…」の詞を借りれば、1票を託した人々も〈せつなくて涙がでてきちゃう〉だろう。
9月1日付 編集手帳 読売新聞
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民主党の当選議員308人のなかには新人が143人いる。その多くが小沢代表代行(選挙担当)の手で公認候補に選ばれ、資金と戦術を授けられた、いわば“小沢チルドレン”である
すでにして党内最大勢力の小沢グループがさらに膨張するのは確かで、首相のいすに座る鳩山由紀夫代表も小沢氏の意に反する政権運営はむずかしかろう
現在の代表代行職には定例の記者会見をひらく義務もない。党内はおろか国政をも動かせる「数」を握った人には閣内であれ、閣外であれ、世間にしっかり顔を見せ、声を聞かせるポストに就いてもらうとしよう。「逢いたくて逢いたくて」である
万が一にも二重権力だ、黒幕だ、闇将軍だといった風評を招いては、民主党自慢の透明度に曇りが生じる。「逢いたくて…」の詞を借りれば、1票を託した人々も〈せつなくて涙がでてきちゃう〉だろう。
9月1日付 編集手帳 読売新聞
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8.31.2009
天下分け目「政権交代」歴史のページは偉人がめくるとは限らない・・・ 編集手帳 八葉蓮華
〈赤い糸 夫居ぬ間にそっと切る〉という川柳がある。“万年政権党”と結ばれていた「赤い糸」の絆(きずな)を有権者がそっと切ったのはいつだろう。衆院選の開票結果は長く連れ添った夫婦の熟年離婚を思わせる
麻生政権の発足当時、自民党の支持率は民主党より高かった。見限られたのはそれ以降、政権交代の立役者はやはり麻生さんになる。歴史のページは偉人がめくるとは限らない
不手際つづきで不人気は隠れもないその人を、天下分け目の一戦にかつがざるを得なかった自民党――人材の枯渇ぶりに、「もはやこれまで」とサジを投げた有権者は多かろう
相手の自壊作用にも助けられて歴史的な勝利を手にした民主党だが、政策の財源や外交の進路をめぐる人々の不安は、いまに至るも解消できていない。「きっと何かが変わるはず」という漠然たる希望に、不安がひとまず席を譲っただけである
亀井勝一郎の「青春論」にいわく、〈人はしばしば、結婚してから失恋するものである〉。新しい伴侶の座を射止めた鳩山民主党ものぼせてはいられない。希望が失望に変わるとき、「赤い糸」ははかないものである。
8月31日付 編集手帳 読売新聞
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麻生政権の発足当時、自民党の支持率は民主党より高かった。見限られたのはそれ以降、政権交代の立役者はやはり麻生さんになる。歴史のページは偉人がめくるとは限らない
不手際つづきで不人気は隠れもないその人を、天下分け目の一戦にかつがざるを得なかった自民党――人材の枯渇ぶりに、「もはやこれまで」とサジを投げた有権者は多かろう
相手の自壊作用にも助けられて歴史的な勝利を手にした民主党だが、政策の財源や外交の進路をめぐる人々の不安は、いまに至るも解消できていない。「きっと何かが変わるはず」という漠然たる希望に、不安がひとまず席を譲っただけである
亀井勝一郎の「青春論」にいわく、〈人はしばしば、結婚してから失恋するものである〉。新しい伴侶の座を射止めた鳩山民主党ものぼせてはいられない。希望が失望に変わるとき、「赤い糸」ははかないものである。
8月31日付 編集手帳 読売新聞
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8.27.2009
誰よりも飲酒運転を憎んでいい警察官が自ら悲劇の種をまいて・・・ 編集手帳 八葉蓮華
〈あんたがおまわりさんになったら それこそ大事件やねぇ〉。広告会社の電通が編集した「時代を映したキャッチフレーズ事典」によれば大阪府警が10年前、警察官募集のポスターに使った文章という
何にでも笑いの調味料を加える大阪人の面目躍如だが、大事件を起こす警察官が現実にいないと確信すればこそ掲げられるので、いたら洒落(しゃれ)にならない。博多弁に書き直しても、福岡県警はポスターに使えないだろう
酒酔いのひき逃げ事故で相手に打撲傷を負わせた小倉南署巡査部長(49)の血液から、基準の4倍を超すアルコール分が検出されたという
逮捕された日は、福岡市職員の飲酒運転で幼児3人の命が奪われた事故から丸3年の命日だった。命日との遠近で罪が決まりはしないが、同じ県内で、ましてや警察官で、誰よりも飲酒運転を憎んでいい者がみずから悲劇の種をまいてどうする。全国に数多くいる同様事故の遺族も、心に打撲傷を負っただろう
3年前、幼子たちのあどけない遺影に、あなたの目も潤みましたか――「大」の字をつけてもいい事件を起こしたその人に聞いてみたい気がする。
8月27日付 編集手帳 読売新聞
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何にでも笑いの調味料を加える大阪人の面目躍如だが、大事件を起こす警察官が現実にいないと確信すればこそ掲げられるので、いたら洒落(しゃれ)にならない。博多弁に書き直しても、福岡県警はポスターに使えないだろう
酒酔いのひき逃げ事故で相手に打撲傷を負わせた小倉南署巡査部長(49)の血液から、基準の4倍を超すアルコール分が検出されたという
逮捕された日は、福岡市職員の飲酒運転で幼児3人の命が奪われた事故から丸3年の命日だった。命日との遠近で罪が決まりはしないが、同じ県内で、ましてや警察官で、誰よりも飲酒運転を憎んでいい者がみずから悲劇の種をまいてどうする。全国に数多くいる同様事故の遺族も、心に打撲傷を負っただろう
3年前、幼子たちのあどけない遺影に、あなたの目も潤みましたか――「大」の字をつけてもいい事件を起こしたその人に聞いてみたい気がする。
8月27日付 編集手帳 読売新聞
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8.26.2009
「宇宙の旅」人込み見物に出かけたような夏休みの行楽・・・ 編集手帳 八葉蓮華
地球を飛び立ち、月面に立つ宇宙基地を科学者が訪問した。基地の行政官には〈宇宙生まれ第一世代〉の子供がいる。8歳ほどに見える少女だが、年を聞けば4歳になったばかりだという
驚く科学者に、父親の行政官が言う。「ここの低重力では子供の成長も早い。それでいて老けるのはおそい。――われわれよりずっと長生きするだろう」と。アーサー・クラークのSF小説「2001年宇宙の旅」(早川書房刊)のひとこまである
理化学研究所と広島大学の共同研究が教えるところではどうやら、その楽しい夢に至る道のりはなかなか遠いらしい
ほぼ無重力状態でマウスの体外受精を試みたところ、子の生まれる割合は通常の4分の1にとどまり、哺乳類(ほにゅうるい)の受精卵が育つには一定の重力が必要なことが分かった。重力の弱い月では子供ができにくいかも知れない
地球を訪ねてみたい? 問われて、宇宙生まれの少女は首を横に振った。「人がたくさんいすぎるわ」と。人込み見物に出かけたような夏休みの行楽を終えたばかりの身にはお説の通りで、こちらのほうは小説そのままに進んでいるようである。
8月26日付 編集手帳 読売新聞
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驚く科学者に、父親の行政官が言う。「ここの低重力では子供の成長も早い。それでいて老けるのはおそい。――われわれよりずっと長生きするだろう」と。アーサー・クラークのSF小説「2001年宇宙の旅」(早川書房刊)のひとこまである
理化学研究所と広島大学の共同研究が教えるところではどうやら、その楽しい夢に至る道のりはなかなか遠いらしい
ほぼ無重力状態でマウスの体外受精を試みたところ、子の生まれる割合は通常の4分の1にとどまり、哺乳類(ほにゅうるい)の受精卵が育つには一定の重力が必要なことが分かった。重力の弱い月では子供ができにくいかも知れない
地球を訪ねてみたい? 問われて、宇宙生まれの少女は首を横に振った。「人がたくさんいすぎるわ」と。人込み見物に出かけたような夏休みの行楽を終えたばかりの身にはお説の通りで、こちらのほうは小説そのままに進んでいるようである。
8月26日付 編集手帳 読売新聞
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8.25.2009
優勝旗を手にし、記憶のアルバムをいっぱいにして、夏がゆく・・・ 編集手帳 八葉蓮華
冒険の旅に出た少年たちを一瞬、稲光が照らす。主人公がつぶやく。〈神がわたしの写真をお撮りになった〉。スティーブン・キングの小説「スタンド・バイ・ミー」(新潮社)の一場面である
きのうの夕、東京の職場でテレビの高校野球中継を見ていると、表彰式の場面で空がゴロゴロ鳴り、窓に数えるほどの雨粒が落ちた。見ていて手の汗ばむ決勝戦を終えた両校ナインを称(たた)え、神様が記念に遠くから一枚お撮りになったのかも知れない
敗れたとはいえ九回二死から5点を連取して1点差まで迫った日本文理(新潟)ナインの、力を出しきったすがすがしい笑顔がよかった。耐えに耐えて優勝旗を手にした中京大中京(愛知)ナインの、万感の涙がよかった
準決勝で敗れた花巻東(岩手)の選手たちも忘れがたい。泣くにつけ、笑うにつけ、“仲間”と呼び合える間柄とはこういうことなのだと、嫉妬(しっと)に似たものを感じたことを白状しておく
稲光のストロボ付きカメラを首からさげた高校野球好きの神様も、この甲子園は被写体に恵まれて大忙しだったろう。記憶のアルバムをいっぱいにして、夏がゆく。
8月25日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
きのうの夕、東京の職場でテレビの高校野球中継を見ていると、表彰式の場面で空がゴロゴロ鳴り、窓に数えるほどの雨粒が落ちた。見ていて手の汗ばむ決勝戦を終えた両校ナインを称(たた)え、神様が記念に遠くから一枚お撮りになったのかも知れない
敗れたとはいえ九回二死から5点を連取して1点差まで迫った日本文理(新潟)ナインの、力を出しきったすがすがしい笑顔がよかった。耐えに耐えて優勝旗を手にした中京大中京(愛知)ナインの、万感の涙がよかった
準決勝で敗れた花巻東(岩手)の選手たちも忘れがたい。泣くにつけ、笑うにつけ、“仲間”と呼び合える間柄とはこういうことなのだと、嫉妬(しっと)に似たものを感じたことを白状しておく
稲光のストロボ付きカメラを首からさげた高校野球好きの神様も、この甲子園は被写体に恵まれて大忙しだったろう。記憶のアルバムをいっぱいにして、夏がゆく。
8月25日付 編集手帳 読売新聞
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8.24.2009
ゴールドラッシュで沸いた「黄金の州」が財政再建を訴える・・・ 編集手帳 八葉蓮華
I owe you(私はあなたに借りがあります)―略して「IOU」と呼ばれる借用書を米カリフォルニア州が発行したのは先月である。財政危機に瀕(ひん)したシュワルツェネッガー州知事が、税金還付などで州民に支払うカネの代用手段として決断した
かつてゴールドラッシュで沸いた「黄金の州」が、皮肉にも「金欠州」に転落だ。州の新年度予算が成立し、財政破綻(はたん)はとりあえず回避されたが、綱渡りが続く。州の景気悪化も深刻だ
映画スターでもある知事が、「私を信じて欲しい」と財政再建を訴える姿は、スクリーンでみせた強靱(きょうじん)なターミネーターとは違う。カリフォルニア州は、住宅バブル崩壊と金融危機の打撃が大きかった。IOUは、そんな苦境を象徴しているようだ
2期目のシュワルツェネッガー知事に、3選は認められない。金融危機は最悪期を脱しつつあるが、全米最大州の財政悪化に歯止めをかけ、経済を再生させる持ち時間は限られる
ターミネーターは「終焉(しゅうえん)」や「断ち切る」などが語源である。“カリフォルニア火の車劇場”の幕引き役を担うターミネーター知事の責任は重い。
8月24日付 編集手帳 読売新聞
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かつてゴールドラッシュで沸いた「黄金の州」が、皮肉にも「金欠州」に転落だ。州の新年度予算が成立し、財政破綻(はたん)はとりあえず回避されたが、綱渡りが続く。州の景気悪化も深刻だ
映画スターでもある知事が、「私を信じて欲しい」と財政再建を訴える姿は、スクリーンでみせた強靱(きょうじん)なターミネーターとは違う。カリフォルニア州は、住宅バブル崩壊と金融危機の打撃が大きかった。IOUは、そんな苦境を象徴しているようだ
2期目のシュワルツェネッガー知事に、3選は認められない。金融危機は最悪期を脱しつつあるが、全米最大州の財政悪化に歯止めをかけ、経済を再生させる持ち時間は限られる
ターミネーターは「終焉(しゅうえん)」や「断ち切る」などが語源である。“カリフォルニア火の車劇場”の幕引き役を担うターミネーター知事の責任は重い。
8月24日付 編集手帳 読売新聞
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8.22.2009
語呂合わせ「円周率」身ひとつ、世ひとつ、生くるに無意味・・・ 編集手帳 八葉蓮華
3・14159265358…昔、円周率を長々と覚えた経験をもつ方もおありだろう。語呂合わせの暗記法〈身ひとつ、世ひとつ、生くるに無意味…〉が知られている
もう少し長いものでは、〈身ひとつ、宵、獄に向かう、惨たるかな医薬なく…〉というのもある。どちらも景気のよくない内容であるのは、嫌々ながら暗記した人の浮かない気分がおのずと映じているのかも知れない
小数点以下わずか数桁(すうけた)で降参し、いまも数字の羅列に恐れをなす身には、気の遠くなる数字である。筑波大学が最新のコンピューターで2兆5769億8037万桁まで計算したという
これまでの世界一、小数点以下1兆2411億桁を一気に2倍以上に伸ばして記録を塗り替えた。恐る恐る電卓を叩(たた)いてみると、ひと桁を1秒ずつ眺めて全部の桁を見終えるには、この先8万年ほどかかる計算になる
「3・14」で満足し、貧しい頭脳の記憶容量は時節柄、各党の公約を頭に叩き込む作業に使うことにする。若い人が、高齢者が、〈身ひとつ、世ひとつ、生くるに無意味…〉と感じることのない明日をつくる選挙である。
8月22日付 編集手帳 読売新聞
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もう少し長いものでは、〈身ひとつ、宵、獄に向かう、惨たるかな医薬なく…〉というのもある。どちらも景気のよくない内容であるのは、嫌々ながら暗記した人の浮かない気分がおのずと映じているのかも知れない
小数点以下わずか数桁(すうけた)で降参し、いまも数字の羅列に恐れをなす身には、気の遠くなる数字である。筑波大学が最新のコンピューターで2兆5769億8037万桁まで計算したという
これまでの世界一、小数点以下1兆2411億桁を一気に2倍以上に伸ばして記録を塗り替えた。恐る恐る電卓を叩(たた)いてみると、ひと桁を1秒ずつ眺めて全部の桁を見終えるには、この先8万年ほどかかる計算になる
「3・14」で満足し、貧しい頭脳の記憶容量は時節柄、各党の公約を頭に叩き込む作業に使うことにする。若い人が、高齢者が、〈身ひとつ、世ひとつ、生くるに無意味…〉と感じることのない明日をつくる選挙である。
8月22日付 編集手帳 読売新聞
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8.21.2009
むずかしい言葉「国語じ典でべん強」言葉がわかっておもしろい・・・ 編集手帳 八葉蓮華
ときどき、辞書を引き比べて遊ぶ。意味の分かりきった言葉が面白い。例えば「右」――岩波書店の広辞苑には〈南を向いた時、西にあたる方〉とある
三省堂の新明解国語辞典には〈アナログ時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示の有る側〉、大修館書店の明鏡国語辞典には〈人体を対称線に沿って二分したとき、心臓のない方〉とある。各社各様、苦心の知恵比べを愉(たの)しんでいる
暇な遊びはどうやらコラム書きだけのようで、ご飯をもりもり食べるように辞書をめくる子供たちもいる。数日前の本紙で「国語じ典でべん強」という小学3年生の詩を読んだ
分からない言葉を国語辞典で調べては、付箋(ふせん)を張る。〈今日一日で16まいはったよ/お兄ちゃんは11まいはった/言葉がわかっておもしろい〉とある。最近は学校でもそういう授業が広まっているそうで、日本語の未来にとって頼もしい限りである
夏休みも、もうすぐ終わる。日に焼けた顔でちょっとむずかしい言葉を口にし、先生を驚かせる子もいるだろう。国語辞典も、「右」に喜ぶおじさんに引かれるよりは、きっとうれしい。
8月21日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
三省堂の新明解国語辞典には〈アナログ時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示の有る側〉、大修館書店の明鏡国語辞典には〈人体を対称線に沿って二分したとき、心臓のない方〉とある。各社各様、苦心の知恵比べを愉(たの)しんでいる
暇な遊びはどうやらコラム書きだけのようで、ご飯をもりもり食べるように辞書をめくる子供たちもいる。数日前の本紙で「国語じ典でべん強」という小学3年生の詩を読んだ
分からない言葉を国語辞典で調べては、付箋(ふせん)を張る。〈今日一日で16まいはったよ/お兄ちゃんは11まいはった/言葉がわかっておもしろい〉とある。最近は学校でもそういう授業が広まっているそうで、日本語の未来にとって頼もしい限りである
夏休みも、もうすぐ終わる。日に焼けた顔でちょっとむずかしい言葉を口にし、先生を驚かせる子もいるだろう。国語辞典も、「右」に喜ぶおじさんに引かれるよりは、きっとうれしい。
8月21日付 編集手帳 読売新聞
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8.20.2009
本格的な流行の始まり「新型インフルエンザ」冷静に、あわてずに、全部やる・・・ 編集手帳 八葉蓮華
穏やかな表情で近づき、相手が気を許したと見るや、牙をむく。兵法三十六計のうち第十計、〈笑裏蔵刀〉はそういう戦術をいう
うさんくさい商品や利殖法を勧める連中の術策としては珍しくもないが、ウイルスはどこでこの悪知恵を仕込んだのだろう。この春に新型インフルエンザの第1波を経験して、「なあんだ、威力はこの程度だったの?」と気を許し、用心のカブトの緒を緩めかけた方もあったろう
晩夏の列島を見舞った第2波はいささか様相を異にしている。国内のシ者は3人を数えた。本格的な流行の始まりと見られる。甲子園につどう高校球児にも感染がおよんだという
こちらにも「科学」と「情報」二刀流の兵法がある。政府はワクチンなどの準備を急ぎ、自治体と医療機関は連携を密にし、各人は時と場合に応じてマスクの着用を怠らない。カブトの緒を締め直すことから始めよう
兵法の第三十五計〈連環〉の計は、敵の様子を細大漏らさず観察し、複数の策を連続して、あるいは同時に繰り出して敵の動きを鈍くする計略をいう。冷静に、あわてずに、全部やる。〈連環〉のときである。
8月20日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
うさんくさい商品や利殖法を勧める連中の術策としては珍しくもないが、ウイルスはどこでこの悪知恵を仕込んだのだろう。この春に新型インフルエンザの第1波を経験して、「なあんだ、威力はこの程度だったの?」と気を許し、用心のカブトの緒を緩めかけた方もあったろう
晩夏の列島を見舞った第2波はいささか様相を異にしている。国内のシ者は3人を数えた。本格的な流行の始まりと見られる。甲子園につどう高校球児にも感染がおよんだという
こちらにも「科学」と「情報」二刀流の兵法がある。政府はワクチンなどの準備を急ぎ、自治体と医療機関は連携を密にし、各人は時と場合に応じてマスクの着用を怠らない。カブトの緒を締め直すことから始めよう
兵法の第三十五計〈連環〉の計は、敵の様子を細大漏らさず観察し、複数の策を連続して、あるいは同時に繰り出して敵の動きを鈍くする計略をいう。冷静に、あわてずに、全部やる。〈連環〉のときである。
8月20日付 編集手帳 読売新聞
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8.19.2009
「人を敬う言葉です」言葉は、人の心を潤す魔法の水・・・ 編集手帳 八葉蓮華
ドイツのソプラノ歌手エリカ・ケートさんは言語の響きや匂(にお)いに敏感であったらしい。歓談の折に語った比較論を「劇団四季」の浅利慶太さんが自著に書き留めている
イタリア語を「歌に向く言葉」、フランス語を「愛を語る言葉」、ドイツ語を「詩を作る言葉」と評した。日本語は――浅利さんの問いに彼女は答えたという。「人を敬う言葉です」(文芸春秋刊「時の光の中で」)
一昨日、甲子園の高校野球中継で実例に接した。横浜隼人(神奈川)戦に完投した花巻東(岩手)菊池雄星投手の勝利インタビューである
「これまでも練習試合で対戦し、ずっと横浜隼人のようなチームになりたかった。きょう勝てて、少し近づけたかなと思う」。選抜の準優勝投手で、屈指の左腕で、文句なしの快投を見せた直後で、多少の大口は許されるだろうに、この言葉である
じつを言えば小欄は郷土の代表、横浜隼人を応援していたのだが、負かされた悔しさはどこかに消えていた。言葉は、人の心を潤す魔法の水だろう。折しも列島は選挙一色、激戦のなかでも「人を敬う言葉」は忘れずにいて欲しいものである。
8月19日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
イタリア語を「歌に向く言葉」、フランス語を「愛を語る言葉」、ドイツ語を「詩を作る言葉」と評した。日本語は――浅利さんの問いに彼女は答えたという。「人を敬う言葉です」(文芸春秋刊「時の光の中で」)
一昨日、甲子園の高校野球中継で実例に接した。横浜隼人(神奈川)戦に完投した花巻東(岩手)菊池雄星投手の勝利インタビューである
「これまでも練習試合で対戦し、ずっと横浜隼人のようなチームになりたかった。きょう勝てて、少し近づけたかなと思う」。選抜の準優勝投手で、屈指の左腕で、文句なしの快投を見せた直後で、多少の大口は許されるだろうに、この言葉である
じつを言えば小欄は郷土の代表、横浜隼人を応援していたのだが、負かされた悔しさはどこかに消えていた。言葉は、人の心を潤す魔法の水だろう。折しも列島は選挙一色、激戦のなかでも「人を敬う言葉」は忘れずにいて欲しいものである。
8月19日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
8.18.2009
悲劇あり、喜劇ありの「政治の季節」難題ぞろいのいま、ともかくも逃げない人・・・ 編集手帳 八葉蓮華
年配の時代劇ファンならば、旗本退屈男の額に残る傷あとを思い出すかも知れない。「パッ、天下御免(ごめん)の向こう傷」。弓形の冴(さ)えた月が夜空に懸かっている
江戸期の俳人、田捨女(でんすてじょ)に、三日月を釣り針に見立てた一句がある。〈出て見よと人釣り針か三ヶの月〉。月を見に出ておいで――人を釣っては戸外に誘い出すような月であることよ、と
解散からやけに長く感じられた前哨戦も終わり、きょうは衆院選の公示である。餌の甘言をちりばめた人釣り針ならぬ“票釣り針”が隠されていないか、投票日までじっくり、候補者の声に耳をすますとしよう
旗本退屈男のせりふにある「向こう傷」とは体の前面に受けた傷をいう。敵に正面から立ち向かった証しである。景気、年金、財政、安全保障と難題ぞろいのいま、ともかくも逃げない人を、政党を選ぶほかあるまい
三日月を釣り針ではなく、研ぎ澄ました匕首(あいくち)に喩(たと)えたのは俳人松本たかしである。〈雪嶺(せつれい)に三日月の匕首(ひしゅ)飛べりけり〉。なかには劣勢で、刃の感触をひんやり首筋に感じている候補者もいるだろう。悲劇あり、喜劇ありの「政治の季節」である。
8月18日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
江戸期の俳人、田捨女(でんすてじょ)に、三日月を釣り針に見立てた一句がある。〈出て見よと人釣り針か三ヶの月〉。月を見に出ておいで――人を釣っては戸外に誘い出すような月であることよ、と
解散からやけに長く感じられた前哨戦も終わり、きょうは衆院選の公示である。餌の甘言をちりばめた人釣り針ならぬ“票釣り針”が隠されていないか、投票日までじっくり、候補者の声に耳をすますとしよう
旗本退屈男のせりふにある「向こう傷」とは体の前面に受けた傷をいう。敵に正面から立ち向かった証しである。景気、年金、財政、安全保障と難題ぞろいのいま、ともかくも逃げない人を、政党を選ぶほかあるまい
三日月を釣り針ではなく、研ぎ澄ました匕首(あいくち)に喩(たと)えたのは俳人松本たかしである。〈雪嶺(せつれい)に三日月の匕首(ひしゅ)飛べりけり〉。なかには劣勢で、刃の感触をひんやり首筋に感じている候補者もいるだろう。悲劇あり、喜劇ありの「政治の季節」である。
8月18日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
8.16.2009
お盆にお墓を清め、お参りすること自体が貴重なものになりつつある・・・ 編集手帳 八葉蓮華
〈合併に村の名消えて他郷めく故郷に父母の墓を洗へり〉。先日編まれた平成万葉集の中に、印象深い一首があった。詠んだのは東京都の原澤●司さん76歳
もとより津々浦々の地名を知っていたわけではないが、このところ、ニュースの中に聞き覚えのない自治体の名が出てくることが多い。平成の大合併とやらで、味気ない地名や珍奇な地名も増えた
引き換えに、10年前は3200以上あった市町村の数は半減した。景色やにおいは変わらねど慣れ親しんだ村の名は消えて、故郷のような故郷でないような、しっくり来ない思いで墓参りをした人も多いのではないか
今ではお盆にお墓を清め、お参りすること自体が貴重なものになりつつある。〈迎へ火も送り火もなくマンションの盂蘭盆(うらぼん)静かに暮れてゆきたり〉。これは愛知県の佐々木よし子さん57歳の歌。寂しいと感じるか、時代の流れと感じるか、それぞれあろう
きのうときょう、ふるさとから都会へと帰るUターンのラッシュはピーク。この風物詩が続いていることに少し安堵(あんど)する。高速道路の渋滞など、大変でしょうが、みなさんお気をつけて。(●は「日」の下に「舛」)
8月16日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
もとより津々浦々の地名を知っていたわけではないが、このところ、ニュースの中に聞き覚えのない自治体の名が出てくることが多い。平成の大合併とやらで、味気ない地名や珍奇な地名も増えた
引き換えに、10年前は3200以上あった市町村の数は半減した。景色やにおいは変わらねど慣れ親しんだ村の名は消えて、故郷のような故郷でないような、しっくり来ない思いで墓参りをした人も多いのではないか
今ではお盆にお墓を清め、お参りすること自体が貴重なものになりつつある。〈迎へ火も送り火もなくマンションの盂蘭盆(うらぼん)静かに暮れてゆきたり〉。これは愛知県の佐々木よし子さん57歳の歌。寂しいと感じるか、時代の流れと感じるか、それぞれあろう
きのうときょう、ふるさとから都会へと帰るUターンのラッシュはピーク。この風物詩が続いていることに少し安堵(あんど)する。高速道路の渋滞など、大変でしょうが、みなさんお気をつけて。(●は「日」の下に「舛」)
8月16日付 編集手帳 読売新聞
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