サンテグジュペリの『星の王子さま』で、狐(きつね)が王子さまに言う。〈肝心なことは目では見えないんだよ〉
誰かが誰かをコロす。神様が一部始終をビデオに収めていたならば、正視に耐えない凄惨(せいさん)な映像だろう。そういうビデオは、この世に存在しない。目に見えなくても、心には刻んでおきたい「肝心なこと」である
宇都宮市の宝石店放火サツ人事件などでシ刑が確定した2人のシ刑囚にきのう、東京拘置所で刑が執行された。千葉景子法相は足を運び、立ち会ったという。拘置所で「見た場面」には、思うところ、感じるところがいろいろあっただろう
自分の命令によって消える命の最後を見届けた行為には敬意を表しつつ、思う。シ刑制度の是非を議論する場合には「見た場面」だけでなく、「見ぬ場面」にも思いを致してほしい、と。6人の人間が縛られ、衣服にガソリンをまかれ、焼シする場面は、目で見ることができない
シ刑執行の報に「ああ、あの事件…」と思い出した。〈思ひ出すとは忘るるか 思ひ出さずや忘れねば〉(閑吟集)。遺族は事件を思い出しはしなかったろう。片時も忘れぬゆえに。
7月29日付 編集手帳 読売新聞
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8.03.2010
8.01.2010
才能発掘という仕事“目利き”の職人技が個々の編集者から文学賞に移って久しい・・・ 編集手帳 八葉蓮華
亡くなった作家の文業を称(たた)えて、追悼特集号が出るのは珍しくない。編集者を悼んで――というのは異例だろう。滝田樗陰(ちょいん)のシ去に際し、彼が在籍した総合誌『中央公論』から追悼特集号が出ている
身内の者を表立って称えるのを中央公論社はためらったが、作家たちの要望を受けて刊行したという。新人発掘の“目利き”として聞こえ、のちに菊池寛が〈文壇における勢威はローマ法王の半分ぐらいはあった〉と語った大編集者ならではだろう
芥川龍之介や佐藤春夫などとともに樗陰の導きによって文壇に名乗りを上げた作家の一人、室生犀星(さいせい)が初めての小説『幼年時代』の掲載を樗陰に懇願した手紙が見つかった
〈あなたが私を引きずり上げて下されば私はきつともつとよいものをかくにちがひない〉。1919年(大正8年)6月の手紙には、無名作家のすがるような心情が切々と綴(つづ)られている
“目利き”の職人技が個々の編集者から文学賞に移って久しい。〈或(ある)意味で私を砂利の内に見つけた人であるかも知れぬ〉。樗陰を悼む文章に犀星は書いた。才能発掘という仕事に、人の匂(にお)いがした昔がある。
7月27日付 編集手帳 読売新聞
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身内の者を表立って称えるのを中央公論社はためらったが、作家たちの要望を受けて刊行したという。新人発掘の“目利き”として聞こえ、のちに菊池寛が〈文壇における勢威はローマ法王の半分ぐらいはあった〉と語った大編集者ならではだろう
芥川龍之介や佐藤春夫などとともに樗陰の導きによって文壇に名乗りを上げた作家の一人、室生犀星(さいせい)が初めての小説『幼年時代』の掲載を樗陰に懇願した手紙が見つかった
〈あなたが私を引きずり上げて下されば私はきつともつとよいものをかくにちがひない〉。1919年(大正8年)6月の手紙には、無名作家のすがるような心情が切々と綴(つづ)られている
“目利き”の職人技が個々の編集者から文学賞に移って久しい。〈或(ある)意味で私を砂利の内に見つけた人であるかも知れぬ〉。樗陰を悼む文章に犀星は書いた。才能発掘という仕事に、人の匂(にお)いがした昔がある。
7月27日付 編集手帳 読売新聞
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7.31.2010
「グラス・シーリング」キャリア・アップを目指す女性に立ちはだかる・・・ 編集手帳 八葉蓮華
脆(もろ)くみえるガラスでも、たたき割れない強化ガラスがあるだろう。「グラス・シーリング」(ガラスの天井)は、米国などで長年、キャリア・アップを目指す女性に立ちはだかる壁に例えられてきた
そんな天井を突き抜けた先駆者がいる。代表がヒューレット・パッカード(HP)のカーリー・フィオリーナ元最高経営責任者(CEO)とインターネット競売大手イーベイのメグ・ホイットマン元CEOだろう
「最強の女性経営者」と評されたフィオリーナさんは秋の米中間選挙で、カリフォルニア州の上院選に共和党候補として名乗りを上げた。ホイットマンさんは、シュワルツェネッガー同州知事の後任の共和党候補だ
もたつく米国経済は、全米最大のカリフォルニアの復調に左右される。巨額赤字を抱える政府と、同州の財政再建も難問である。青い空が似合うカリフォルニアに暗雲がたれ込める
「人生は選択肢だらけ。何かを選ぶために何かを捨てる。でも後悔しない」。フィオリーナさんの人生哲学だ。実業界の経験をアピールするカーリー&メグ旋風は、民主党オバマ政権に脅威となりかねない。
7月26日付 編集手帳 読売新聞
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そんな天井を突き抜けた先駆者がいる。代表がヒューレット・パッカード(HP)のカーリー・フィオリーナ元最高経営責任者(CEO)とインターネット競売大手イーベイのメグ・ホイットマン元CEOだろう
「最強の女性経営者」と評されたフィオリーナさんは秋の米中間選挙で、カリフォルニア州の上院選に共和党候補として名乗りを上げた。ホイットマンさんは、シュワルツェネッガー同州知事の後任の共和党候補だ
もたつく米国経済は、全米最大のカリフォルニアの復調に左右される。巨額赤字を抱える政府と、同州の財政再建も難問である。青い空が似合うカリフォルニアに暗雲がたれ込める
「人生は選択肢だらけ。何かを選ぶために何かを捨てる。でも後悔しない」。フィオリーナさんの人生哲学だ。実業界の経験をアピールするカーリー&メグ旋風は、民主党オバマ政権に脅威となりかねない。
7月26日付 編集手帳 読売新聞
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7.30.2010
学校教育の情報化、総合学習の時間を使い、命の大切さを考える授業・・・ 編集手帳 八葉蓮華
「白血病です。5年生存率は3割」。そう医師に告げられた新潟県長岡市の小学校教師水谷徹平さん(33)は、入院先の無菌病室と担任だった5年生の教室をテレビ電話システムでつないで授業をした
闘病体験や命の大切さへの思い、みんなの手紙に励まされていることなどを話した。教室のスクリーンに大写しされる先生の姿を子供たちは真剣な表情で見つめた。快方に向かい、学校に戻れたのは奇跡と言えるだろう
総合学習の時間を使い、水谷さんは命の大切さを考える授業を始めた。誕生と成長の過程を調べて自分史を作らせたり、稲作体験や食物連鎖の学習で「いただく命」を考えさせたり、緩和ケアに携わる医師に「生とシ」を語ってもらったり
「命や生き方に対する子供たちの考え方が根本的に変わったと感じます」。3年にわたった「いのちの授業」の実践で、水谷さんは第59回読売教育賞を受けた
テレビ電話授業は「学校にパソコンやプロジェクター、校内ネットワークがあったからできた」と水谷さん。学校教育の情報化が進む。無機的なハイテク機材が人と人の心をつなぐこともある。
7月25日付 編集手帳 読売新聞
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闘病体験や命の大切さへの思い、みんなの手紙に励まされていることなどを話した。教室のスクリーンに大写しされる先生の姿を子供たちは真剣な表情で見つめた。快方に向かい、学校に戻れたのは奇跡と言えるだろう
総合学習の時間を使い、水谷さんは命の大切さを考える授業を始めた。誕生と成長の過程を調べて自分史を作らせたり、稲作体験や食物連鎖の学習で「いただく命」を考えさせたり、緩和ケアに携わる医師に「生とシ」を語ってもらったり
「命や生き方に対する子供たちの考え方が根本的に変わったと感じます」。3年にわたった「いのちの授業」の実践で、水谷さんは第59回読売教育賞を受けた
テレビ電話授業は「学校にパソコンやプロジェクター、校内ネットワークがあったからできた」と水谷さん。学校教育の情報化が進む。無機的なハイテク機材が人と人の心をつなぐこともある。
7月25日付 編集手帳 読売新聞
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7.29.2010
猛暑にはいつも厄介「ドッグデイズ」乗り切っていくしかあるまい・・・ 編集手帳 八葉蓮華
「土用」を英語で「ドッグデイズ」と言い表すことは、以前に和英辞典を引いて知っていた。どうして、“犬の日々”なのだろう
きのう、所用があって東京モノレールの線路沿いに羽田空港の近辺を炎天下、ひと駅ぶんほど歩いた。整備工場らしき建物が並ぶのみで、身を寄せる日陰はなし、のどを潤す店も自動販売機もなし、いつしか舌を出して息をしているわが身を顧みて、英単語の成り立ちを想像した
きょうは芥川龍之介の忌日にあたる。「あんまり暑いので、腹を立ててシんだのだろう」と述べたのは作家の内田百だが、芥川がみずから命を絶った83年前の気温は35~36度とか。午前中に各地で37度を超す今年は、それをもしのごう
屋内にいても熱中症には油断ができず、海や川には事故の危険がつきまとい、猛暑にはいつも厄介な道連れがいる。飲む水、浴びる水と上手に付き合って、乗り切っていくしかあるまい
われとわが身に気合を入れる号令がわりに、中村草田男の一句を。〈炎熱や勝利の如き地の明るさ〉。からだに障りさえしなければ、犬の物まねを競う夏らしい夏もいいものである。
7月24日付 編集手帳 読売新聞
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きのう、所用があって東京モノレールの線路沿いに羽田空港の近辺を炎天下、ひと駅ぶんほど歩いた。整備工場らしき建物が並ぶのみで、身を寄せる日陰はなし、のどを潤す店も自動販売機もなし、いつしか舌を出して息をしているわが身を顧みて、英単語の成り立ちを想像した
きょうは芥川龍之介の忌日にあたる。「あんまり暑いので、腹を立ててシんだのだろう」と述べたのは作家の内田百だが、芥川がみずから命を絶った83年前の気温は35~36度とか。午前中に各地で37度を超す今年は、それをもしのごう
屋内にいても熱中症には油断ができず、海や川には事故の危険がつきまとい、猛暑にはいつも厄介な道連れがいる。飲む水、浴びる水と上手に付き合って、乗り切っていくしかあるまい
われとわが身に気合を入れる号令がわりに、中村草田男の一句を。〈炎熱や勝利の如き地の明るさ〉。からだに障りさえしなければ、犬の物まねを競う夏らしい夏もいいものである。
7月24日付 編集手帳 読売新聞
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7.28.2010
政権交代から【1年】365回の失望から成る期間『アクマの辞典』・・・ 編集手帳 八葉蓮華
皮肉屋のアンブローズ・ビアスは『アクマの辞典』で「知人」を定義して言う。〈【知人】金を借りるほどには親しいが、金を貸すほどには親しくない間柄の人〉。金銭に限らず、何の貸し借りにも間柄の親疎が影響する
中国にとって、自民党政権下の日本は「知人」であったろう。こちらから円借款などを供与することはあっても、ここぞという場面で、あちらから力を貸してもらった記憶はあまりない
民主党政権になって「知人」から「友人」に格上げされたか、と感じたのは昨年12月である。小沢一郎幹事長(当時)率いる総勢600人の“超特大”訪中団は破格の厚遇を受けた
北朝鮮の後見役、中国の力を借りて拉致事件で圧力をかける――民主党政権が「友人」中国から拝借すべきは本来、そういう助力であり、一緒に記念撮影をしてもらう国家主席のお時間ではなかろう。新しい情報が得られなかった元北朝鮮工作員の日本訪問を実現させただけでは、仕事をしたことにはならない
夏がゆけば政権交代から1年になる。拉致問題では辞典の言葉を忘れまい。〈【1年】365回の失望から成る期間〉
7月23日付 編集手帳 読売新聞
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中国にとって、自民党政権下の日本は「知人」であったろう。こちらから円借款などを供与することはあっても、ここぞという場面で、あちらから力を貸してもらった記憶はあまりない
民主党政権になって「知人」から「友人」に格上げされたか、と感じたのは昨年12月である。小沢一郎幹事長(当時)率いる総勢600人の“超特大”訪中団は破格の厚遇を受けた
北朝鮮の後見役、中国の力を借りて拉致事件で圧力をかける――民主党政権が「友人」中国から拝借すべきは本来、そういう助力であり、一緒に記念撮影をしてもらう国家主席のお時間ではなかろう。新しい情報が得られなかった元北朝鮮工作員の日本訪問を実現させただけでは、仕事をしたことにはならない
夏がゆけば政権交代から1年になる。拉致問題では辞典の言葉を忘れまい。〈【1年】365回の失望から成る期間〉
7月23日付 編集手帳 読売新聞
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7.27.2010
“内助の功”男は女房にやりこめられて、いっそう強く見える・・・ 編集手帳 八葉蓮華
米連邦政府の特別捜査官を40年間にわたって務めた“強い男”ヘルツが、自宅に客を招いた席で、夫人にぽんぽんやりこめられる。マイケル・シェイボンの推理小説『ユダヤ警官同盟』(新潮文庫)の一場面である
人間心理の機微をついた一節がつづく。〈冷酷非情な仕事人だった老人が、友人知人の前で古女房に頭があがらないところを見せる。おかげでヘルツは、なぜかいっそう強い男であるように見えた…〉(黒原敏行訳)
働き盛りの菅首相は老人ではないし、伸子夫人も古女房呼ばわりは気の毒な若々しい女性とお見受けするが、ヘルツ夫妻式と呼んでいいだろう
首相に辛口の論評をつづった伸子夫人の新著が話題になっている。「この人が総理大臣でよいのだろうか…」「(所信表明演説には)身内でも合格点をあげられなかった」等々。世間の目に夫の姿をより大きく強く映らせるための、これも技巧を凝らした“内助の功”に違いない
家の外で強い男は女房にやりこめられて、いっそう強く見える。夫人にひとつ誤算があったとすれば、最近の菅さんが家の外であまり強そうでないことである。
7月22日付 編集手帳 読売新聞
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人間心理の機微をついた一節がつづく。〈冷酷非情な仕事人だった老人が、友人知人の前で古女房に頭があがらないところを見せる。おかげでヘルツは、なぜかいっそう強い男であるように見えた…〉(黒原敏行訳)
働き盛りの菅首相は老人ではないし、伸子夫人も古女房呼ばわりは気の毒な若々しい女性とお見受けするが、ヘルツ夫妻式と呼んでいいだろう
首相に辛口の論評をつづった伸子夫人の新著が話題になっている。「この人が総理大臣でよいのだろうか…」「(所信表明演説には)身内でも合格点をあげられなかった」等々。世間の目に夫の姿をより大きく強く映らせるための、これも技巧を凝らした“内助の功”に違いない
家の外で強い男は女房にやりこめられて、いっそう強く見える。夫人にひとつ誤算があったとすれば、最近の菅さんが家の外であまり強そうでないことである。
7月22日付 編集手帳 読売新聞
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7.24.2010
耳に痛い「国民負担」若い世代にツケを回すわけにいかない・・・ 編集手帳 八葉蓮華
世論は自ら痛みが伴うことへの実感が薄いと「エコは大事」程度の印象論で物事を判断しやすい。元通産官僚の澤昭裕氏が新著「エコ亡国論」で二つの世論調査のデータをもとに指摘している
麻生政権の温室効果ガス「15%削減」目標について、A社の調査では「妥当」との回答が49%にのぼったが、設問で1世帯あたり年間7万円超の負担増になることに言及したB社の調査では、「厳し過ぎる」が58%と出た
だからこそ政治家には、耳に痛い内容でも国民にきちんと説明する義務がある。澤氏はこう指摘し、「25%削減」目標を掲げる民主党が国民にどの程度の負担を強いることになるか、いまだ説明しないことを「国民負担を隠すほうが政治的に好都合、と考えているのか」と批判する
これは消費税問題にもあてはまる。菅首相は「増税することで経済が成長する」などと、増税への反発をかわす意図が透ける発言を繰り返すより、「負担が増えても若い世代にツケを回すわけにいかない」と率直に語りかけるべきではないか
民主党に求められるのは「国民負担を隠すほうが…」式の発想からの脱却だ。
7月19日付 編集手帳 読売新聞
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麻生政権の温室効果ガス「15%削減」目標について、A社の調査では「妥当」との回答が49%にのぼったが、設問で1世帯あたり年間7万円超の負担増になることに言及したB社の調査では、「厳し過ぎる」が58%と出た
だからこそ政治家には、耳に痛い内容でも国民にきちんと説明する義務がある。澤氏はこう指摘し、「25%削減」目標を掲げる民主党が国民にどの程度の負担を強いることになるか、いまだ説明しないことを「国民負担を隠すほうが政治的に好都合、と考えているのか」と批判する
これは消費税問題にもあてはまる。菅首相は「増税することで経済が成長する」などと、増税への反発をかわす意図が透ける発言を繰り返すより、「負担が増えても若い世代にツケを回すわけにいかない」と率直に語りかけるべきではないか
民主党に求められるのは「国民負担を隠すほうが…」式の発想からの脱却だ。
7月19日付 編集手帳 読売新聞
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7.22.2010
救いようがない「おはせしか」などと敬語を使いたくもない・・・ 編集手帳 八葉蓮華
〈先生が瓜盗人(うりぬすっと)でおはせしか〉(高浜虚子)。瓜どろぼうを捕らえてみれば、「先生、あなたでしたか…」。つかまった先生のしょっぱい顔が浮かんできて、おかしい
俳人の夏井いつきさんは著書『絶滅寸前季語辞典』(東京堂出版)に書いている。〈「瓜」なら盗んでいいとは言わないが、俳句にすらならないことをやってしまってはお仕舞(しま)いだ。「先生が暴行犯でおわせしか」では救いようがない〉と。その救いようのない先生が現実にいる
先生が連続強カン(ごうかん)致傷犯で…いや、「おはせしか」などと敬語を使いたくもない
東京・多摩地区で小学生の女児など5人が襲われた暴行事件は、東京都稲城市の市立小学校に勤務している男性教諭(29)の犯行であったという。警視庁の取り調べに対し、「4、5年前から、東京都内と神奈川県内で十数件やった」と供述している
英文学者の外山滋比古(とやましげひこ)さんは小学生のころ、先生を神様のように思い、「先生もオシッコをするさ」と言う友達とけんかしたという。神様とは言わずとも、この教師も児童の目には仰ぎ見る存在だったろう。裏切られた児童も被ガイ者である。
7月17日付 編集手帳 読売新聞
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俳人の夏井いつきさんは著書『絶滅寸前季語辞典』(東京堂出版)に書いている。〈「瓜」なら盗んでいいとは言わないが、俳句にすらならないことをやってしまってはお仕舞(しま)いだ。「先生が暴行犯でおわせしか」では救いようがない〉と。その救いようのない先生が現実にいる
先生が連続強カン(ごうかん)致傷犯で…いや、「おはせしか」などと敬語を使いたくもない
東京・多摩地区で小学生の女児など5人が襲われた暴行事件は、東京都稲城市の市立小学校に勤務している男性教諭(29)の犯行であったという。警視庁の取り調べに対し、「4、5年前から、東京都内と神奈川県内で十数件やった」と供述している
英文学者の外山滋比古(とやましげひこ)さんは小学生のころ、先生を神様のように思い、「先生もオシッコをするさ」と言う友達とけんかしたという。神様とは言わずとも、この教師も児童の目には仰ぎ見る存在だったろう。裏切られた児童も被ガイ者である。
7月17日付 編集手帳 読売新聞
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7.21.2010
この世の名残に思い浮かべ、耳に残した音は、5歳の子・・・ 編集手帳 八葉蓮華
詩人まど・みちおさんに『まわって あそぼう』という一編がある。〈いそいで まわろう/ぐるぐる ぐるぐる/いそげば けしきも/おおいそぎ/ぐるぐる ぐるぐる/めもまわる〉
遊園地のメリーゴーラウンドはいつも、幼い歓声に包まれている。日曜日の公園に行けば、お父さんやお母さんに抱き上げられ、ヘリコプターのプロペラのようにまわっている子がいる。「まわる」ことは子供たちにとって至福の時間のはずである
その子もまわった。木馬の上でも、親が差し上げた腕の上でもない。洗濯機のなかである
福岡県久留米市で、5歳の女の子、萌音(もね)ちゃんが母親に首を絞められてシ亡した。逮捕された母親(34)は、手足をひもで縛って洗濯槽に座らせるギャク待をしていたと供述し、「洗濯槽に水を入れてふたを閉め、スイッチを入れて回転させたことも何度か、あった」という。しつけのためだった、そう供述している
シぬ間際、萌音ちゃんがこの世の名残に思い浮かべた景色は何だったろう。耳に残した音は何だったろう。洗濯槽の壁か。あの振動音か。どうか、ほかのものであってほしい。
7月16日付 編集手帳 読売新聞
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遊園地のメリーゴーラウンドはいつも、幼い歓声に包まれている。日曜日の公園に行けば、お父さんやお母さんに抱き上げられ、ヘリコプターのプロペラのようにまわっている子がいる。「まわる」ことは子供たちにとって至福の時間のはずである
その子もまわった。木馬の上でも、親が差し上げた腕の上でもない。洗濯機のなかである
福岡県久留米市で、5歳の女の子、萌音(もね)ちゃんが母親に首を絞められてシ亡した。逮捕された母親(34)は、手足をひもで縛って洗濯槽に座らせるギャク待をしていたと供述し、「洗濯槽に水を入れてふたを閉め、スイッチを入れて回転させたことも何度か、あった」という。しつけのためだった、そう供述している
シぬ間際、萌音ちゃんがこの世の名残に思い浮かべた景色は何だったろう。耳に残した音は何だったろう。洗濯槽の壁か。あの振動音か。どうか、ほかのものであってほしい。
7月16日付 編集手帳 読売新聞
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7.19.2010
明日いかにならむは知らず今日の身の今日するわざにわがいのちあり・・・ 編集手帳 八葉蓮華
“残り時間”の過ごし方を綴(つづ)って忘れがたい文章がある。〈「いのち」の終りに三日下さい/母とひなかざり/貴方(あなた)と観覧車に/子供達に茶碗蒸(ちゃわんむ)しを〉(高知県・下元政代)。日本一短い手紙『一筆啓上賞』の秀作集にある
残り時間が無情にも区切られるのは「いのち」だけではない。「ひかり」のときもある。いつ失明しても不思議でない――医師からそう宣告されたとき、人は何をするのだろう。その人は土俵に立つことを選んでいる
この名古屋場所に力士としてデビューした大相撲の序ノ口西29枚目、「徳島」(15)(本名・田中司さん、香川県出身、式秀(しきひで)部屋)の記事を読んだ
まだ有効な治療法のない目の難病、レーベル病によって徐々に失われた視力は現在、左目0・01、右目0・3、「目が見える限り、土俵に立ちたい」という。歴史学者、津田左右吉(そうきち)の歌を思い出す。〈明日いかにならむは知らず今日の身の今日するわざにわがいのちあり〉。その人には今日の突き一つ、押し一つが“わがいのち”に違いない
今場所は中止でもいい、と考えたことがある。開催されてよかったと、いまは思う。
7月14日付 編集手帳 読売新聞
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残り時間が無情にも区切られるのは「いのち」だけではない。「ひかり」のときもある。いつ失明しても不思議でない――医師からそう宣告されたとき、人は何をするのだろう。その人は土俵に立つことを選んでいる
この名古屋場所に力士としてデビューした大相撲の序ノ口西29枚目、「徳島」(15)(本名・田中司さん、香川県出身、式秀(しきひで)部屋)の記事を読んだ
まだ有効な治療法のない目の難病、レーベル病によって徐々に失われた視力は現在、左目0・01、右目0・3、「目が見える限り、土俵に立ちたい」という。歴史学者、津田左右吉(そうきち)の歌を思い出す。〈明日いかにならむは知らず今日の身の今日するわざにわがいのちあり〉。その人には今日の突き一つ、押し一つが“わがいのち”に違いない
今場所は中止でもいい、と考えたことがある。開催されてよかったと、いまは思う。
7月14日付 編集手帳 読売新聞
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7.18.2010
傲りは厳禁“ねじれ国会”もっと謙虚におなりなさい・・・ 編集手帳 八葉蓮華
深海魚のからだは海底の大きな圧力に耐えられるようにできている。それがいきなり海面に浮上すると、外側の圧力が急に減るために、内臓が口から出てきたり、眼球が飛び出したり、悲惨な様相を呈するという
“お天気博士”倉嶋厚さんの『季節おもしろ事典』(東京堂出版)に教えられた。長い野党暮らしから一夜にして政権与党に躍り出た政党も、海面に急浮上した深海魚に似ているだろう
下積みの圧力から解放されて体内から飛び出すのは、内臓や眼球ではない。「傲(おご)り」である。秘書らが3人も逮捕・起訴されながら、党幹事長の要職にあった人がただの一度も国会の場で釈明していない事実ひとつにも傲りは見てとれた
ああ、そうか、権力を持ち慣れない政党は、手にした権力をこんなふうに使うのか。もっと謙虚におなりなさい――それが参院選の民主党大敗に示された民意だろう。野党に協力を仰いで“ねじれ国会”を乗り切るつもりならば、傲りは厳禁である
〈何となく自分をえらい人のやうに/思ひてゐたりき/子供なりしかな〉(石川啄木)。そろそろ、深海魚の子供は卒業していい。
7月13日付 編集手帳 読売新聞
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“お天気博士”倉嶋厚さんの『季節おもしろ事典』(東京堂出版)に教えられた。長い野党暮らしから一夜にして政権与党に躍り出た政党も、海面に急浮上した深海魚に似ているだろう
下積みの圧力から解放されて体内から飛び出すのは、内臓や眼球ではない。「傲(おご)り」である。秘書らが3人も逮捕・起訴されながら、党幹事長の要職にあった人がただの一度も国会の場で釈明していない事実ひとつにも傲りは見てとれた
ああ、そうか、権力を持ち慣れない政党は、手にした権力をこんなふうに使うのか。もっと謙虚におなりなさい――それが参院選の民主党大敗に示された民意だろう。野党に協力を仰いで“ねじれ国会”を乗り切るつもりならば、傲りは厳禁である
〈何となく自分をえらい人のやうに/思ひてゐたりき/子供なりしかな〉(石川啄木)。そろそろ、深海魚の子供は卒業していい。
7月13日付 編集手帳 読売新聞
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7.17.2010
発言のブレ「下知、下知」有権者の不安が透けて見える・・・ 編集手帳 八葉蓮華
芝居の敵役に梶原景時(かげとき)がいる。嫌われる虫ゲジゲジは「下知(げじ)、下知」(命令、命令)と、彼が源氏の威光を背に威張り散らしたことに由来する、ともいう
同じ源氏方に憎まれ役の景時がいたおかげで源義経がいっそう颯爽(さっそう)と映る。味方に引き立て役がいることの効用はかつて、小泉元首相が自民党内「抵抗勢力」を敵役にして人気を得たことでも分かる
菅首相の引き立て役は小沢一郎氏だろう。政治資金疑惑で世の反発を買った氏と距離を置き、発足当初の菅政権は支持を集めた。“景時効果”である
昨夜の開票結果を見れば、しかし、「颯爽」の賞味期限は短かったらしい。消費税発言のブレだけが原因ではあるまい。衆院の数の力を背に民主党は、国会での疑惑解明を望む世間の声を突っぱねた。このうえ参院でも数を握ることになれば政権が傲(おご)り、どんな無理難題の「下知、下知」が降ってくるか知れたものでない――有権者の不安が透けて見える
小沢氏と距離を置いた末に選挙で苦戦した首相には、小沢グループからの風圧が強まろう。余談ながら義経は、引き立て役の景時に足を引っ張られて失脚している。
7月12日付 編集手帳 読売新聞
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同じ源氏方に憎まれ役の景時がいたおかげで源義経がいっそう颯爽(さっそう)と映る。味方に引き立て役がいることの効用はかつて、小泉元首相が自民党内「抵抗勢力」を敵役にして人気を得たことでも分かる
菅首相の引き立て役は小沢一郎氏だろう。政治資金疑惑で世の反発を買った氏と距離を置き、発足当初の菅政権は支持を集めた。“景時効果”である
昨夜の開票結果を見れば、しかし、「颯爽」の賞味期限は短かったらしい。消費税発言のブレだけが原因ではあるまい。衆院の数の力を背に民主党は、国会での疑惑解明を望む世間の声を突っぱねた。このうえ参院でも数を握ることになれば政権が傲(おご)り、どんな無理難題の「下知、下知」が降ってくるか知れたものでない――有権者の不安が透けて見える
小沢氏と距離を置いた末に選挙で苦戦した首相には、小沢グループからの風圧が強まろう。余談ながら義経は、引き立て役の景時に足を引っ張られて失脚している。
7月12日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
7.16.2010
失墜した信頼を取り戻せるか、明と暗も次々中継される・・・ 編集手帳 八葉蓮華
きょう夕刻から半日で三つの「戦(いくさ)」に臨む心境と言えば大げさか。野球にたとえれば「ダブルヘッダー」ならぬ「トリプルヘッダー」であろう。陣取る場所はテレビの前。酒肴(しゅこう)の準備も抜かりなく
いきなり初戦の大相撲名古屋場所で出端(ではな)をくじかれそうである。取組数が減るのも痛いが、仕切りや花道での表情、呼び出しの声などが削られたダイジェスト番組はなんとも味気ない。お次は参院選の開票速報
こちらは日本の未来や明日の生活を票に託した候補者に審判が下る。当落判定や開票状況が驚きの速さで伝えられ、現場の明と暗も次々中継されるから見ていて飽きない。気がつけば、欧州の強豪同士がW杯を争う決勝戦の笛
米大リーグには最後のトリプルヘッダーとして1920年のパイレーツ、レッズ戦が記録されている。ラジオ放送は翌年からだから、1日3戦を生で味わったのは球場に足を運び、通しで見た熱心なファンのみである
賭博絡みの八百長で8選手が永久追放になった「ブラックソックス事件」はその前の年。失墜した信頼を取り戻せるか、どこか名古屋場所に似たシーズンだった。
7月11日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
いきなり初戦の大相撲名古屋場所で出端(ではな)をくじかれそうである。取組数が減るのも痛いが、仕切りや花道での表情、呼び出しの声などが削られたダイジェスト番組はなんとも味気ない。お次は参院選の開票速報
こちらは日本の未来や明日の生活を票に託した候補者に審判が下る。当落判定や開票状況が驚きの速さで伝えられ、現場の明と暗も次々中継されるから見ていて飽きない。気がつけば、欧州の強豪同士がW杯を争う決勝戦の笛
米大リーグには最後のトリプルヘッダーとして1920年のパイレーツ、レッズ戦が記録されている。ラジオ放送は翌年からだから、1日3戦を生で味わったのは球場に足を運び、通しで見た熱心なファンのみである
賭博絡みの八百長で8選手が永久追放になった「ブラックソックス事件」はその前の年。失墜した信頼を取り戻せるか、どこか名古屋場所に似たシーズンだった。
7月11日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
7.15.2010
能力を超えて千客万来を唱えても、不信感のほかには何も残らない・・・ 編集手帳 八葉蓮華
歌舞伎の初代中村吉右衛門は、何ごとにも神経の行き届いた人であったらしい。大切な手紙はポストに入れた後、相手宅に届く頃合いを見計らい、無事に着いたかどうかの確認に使いを出した、という挿話が残っている
苦労性の播磨屋いまありせば、気をもみすぎて胃が痛くなったに違いない。日本郵政グループの宅配便「ゆうパック」で大幅な配達の遅れが起きて10日、混乱はようやく収まりつつある
今月1日に日本通運のペリカン便と統合したのに伴い、慣れない情報処理端末で操作ミスが多発したのが原因という
お中元の繁忙期に統合した判断は良かったか、遅配の発生から発表まで数日かかったのはなぜか、「顧客第一」の視点が欠けていなかったか…検証すべきことは多々あろう。お中元やお歳暮は、もらった相手のほころぶ顔を思い浮かべつつ品を選び、贈るものである。あとで弁償してもらっても、傷んだ食品に鼻をつまんだり、眉(まゆ)をひそめたりする顔を想像するのはつらい
江戸川柳に〈千客万来みな来ると困る也(なり)〉とある。能力を超えて千客万来を唱えても、不信感のほかには何も残らない。
7月10日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
苦労性の播磨屋いまありせば、気をもみすぎて胃が痛くなったに違いない。日本郵政グループの宅配便「ゆうパック」で大幅な配達の遅れが起きて10日、混乱はようやく収まりつつある
今月1日に日本通運のペリカン便と統合したのに伴い、慣れない情報処理端末で操作ミスが多発したのが原因という
お中元の繁忙期に統合した判断は良かったか、遅配の発生から発表まで数日かかったのはなぜか、「顧客第一」の視点が欠けていなかったか…検証すべきことは多々あろう。お中元やお歳暮は、もらった相手のほころぶ顔を思い浮かべつつ品を選び、贈るものである。あとで弁償してもらっても、傷んだ食品に鼻をつまんだり、眉(まゆ)をひそめたりする顔を想像するのはつらい
江戸川柳に〈千客万来みな来ると困る也(なり)〉とある。能力を超えて千客万来を唱えても、不信感のほかには何も残らない。
7月10日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge
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