10.22.2010

「反日」デモの標的「市民」政権転覆の予行演習をさせている・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 永井荷風が東京・銀座の洋食店に入ると、先客に子供連れの一家がいた。躾(しつ)けがなっていない。1933年(昭和8年)の日記にある

 〈子供は猿の如(ごと)く、室内を靴音高く走りまはり、食卓の上に飾りたる果物草花を取り、またはナイフにて壁を叩(たた)く〉。親は周囲の迷惑顔もどこ吹く風、叱(しか)りもしない。荷風は嘆いた。〈今の世の親たちは小児のしつけ方には全く頓着せざるが如し〉

 してよいこと、悪いことのけじめを教わらなかった子供は、どうなっただろう。おそらくはロクな大人に育たず、親を泣かせたに違いない

 趣旨が「反日」であれ、何であれ、デモはしてよいことである。暴徒化し、日系企業を襲撃するのは、して悪いことである。そのけじめを教えず、実行犯を本気で摘発しようとしない中国当局は洋食店の親と変わらない。暴徒の標的が党本部や官庁に移ってから躾けを始めて間に合うとでも思っているのか。乱暴狼藉(ろうぜき)の放置は、市民に政権転覆の予行演習をさせているのと同じであることに気づいていい

 俗に〈三つ叱って五つ褒め七つ教えて子は育つ〉。叱らずに、最後に泣くのは親である。

 10月19日付 編集手帳 読売新聞
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10.04.2010

国の行く末「戦略的互恵関係」隣人と、どう付き合っていくか・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 『源氏物語』で光源氏が言う。〈さかさまに行かぬ年月よ〉。時間は逆向きに流れてくれぬ、と。老いを語った言葉だが、過去に戻ることができないのは万物の宿命でもある

 潮位が10メートル上がり、のちに10メートル下がれば海面の高さは元の通りだが、水が引いた陸地の光景は一変していることだろう。さかさまに行かぬ年月よ、である

 省エネ家電などの部品に欠かせないレアアース(希土類)の対日輸出を停止していた中国が、規制の手綱を緩めたという。「尖閣」で悪化した日中関係の修復を模索している、との観測もある

 仮にそうだとしても、日本の大使を休日の真夜中に呼び出したり、報復さながらに日本人の身柄を拘束したり、品のない振る舞いに、多くの日本人の中国を見る目が一変したあとである。「戦略的互恵関係」を無邪気に語れた過去に戻ることはできまい。この図体(ずうたい)の大きな傲(おご)れる隣人と、どう付き合っていくか

 民主党の代表選挙、内閣改造、尖閣と、政治に揺れた9月もきょうで終わる。〈かんがふる一机(いっき)の光九月尽(くがつじん) 森澄雄〉。菅首相にも秋の夜長、国の行く末をじっくり考えてもらおう。

◆9月30日付 編集手帳 読売新聞
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