3.31.2009

「あきらめて濡れて行きな」いずれが先に世論から邪魔がられるのか・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 にわか雨に降られ、軒先を借りて雨宿りをする。もう小降りになるか、そろそろやむかと思っているうちに雨脚が強まり、往生した経験は誰にもあろう。〈本降りになって出ていく雨宿り〉の江戸川柳そのままに、土砂降りのなかを駆け出すこともないではない

 民主党の小沢一郎代表もいま、雨宿りをしている。違法献金事件で公設第1秘書が起訴されても代表職にとどまったのは、世論の降らす批判の雨が小降りになるのを待っているのだろう

 千葉県知事選挙の結果を見ると雨勢は増している。降り始めのころに辞任していれば…と悔いる日がくるかも知れない

 自民党は自民党で、事件がわが身に及ぶことに怯(おび)えて空模様をうかがう。時とともに支持率が上向くとみて麻生首相が解散・総選挙を先に延ばしているのならば、こちらもずぶぬれで駆け出す危険と隣り合わせである

 〈おまえがた本降りだよと邪魔(じゃま)がられ〉という句もある。「本降りだからあきらめて濡(ぬ)れて行きな」と、軒先を追われる人を詠んでいる。与野党の主役ふたり「おまえがた」の、いずれが先に世論から邪魔がられるのかは知らない。

3月31日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.30.2009

薄れゆく旬「一年中が旬」ハイテク植物工場が増えている・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 食べ物の旬は、季節を先取りする「走り」や、よく出回る「出盛り期」を指す。春を迎えた今ごろは、新タケノコに続いて初鰹(はつがつお)がまもなくだ。旬の味を楽しみにしている方は多いだろう

 対照的なのが「一年中が旬」である。天候に左右されず、季節にも関係ない。太陽光のほか、蛍光灯や発光ダイオード(LED)などを使って、湿度や温度、養分をコンピューターで制御する。計画生産の可能な“ハイテク植物工場”が増えている

 カゴメは、契約菜園を含めた全国30か所のガラスハウスで、年1万トンを超える量のトマトを生産し、生食用に出荷する。「エコ作」というブランドで販売されているのはJFEライフのレタスやサラダ菜だ

 南極の昭和基地では、ベンチャー企業製のプラントで越冬隊員が南極産の新鮮なレタスを味わった。政府はこうした工場を「農商工連携」の有望株と考え、普及に弾みをつけようと狙う

 日本の農業は生産性が低いといわれるが、ハイテク工場では20期作以上ができる緑野菜も夢ではない。薄れゆく旬は少々さみしくもあるが、旬を感じさせない農業がこれからの旬らしい。

3月30日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.29.2009

「燃油サーチャージ」あの原油価格の狂乱ぶりは何だったか・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 油にまつわる慣用句は多い。調子づいて物事を誇張することを〈油を乗せる〉という。人を叱(しか)る時の〈油を絞る〉には別の意味もあるらしい。日本国語大辞典によれば「他者にさんざん苦労させて、その利益を自分のものにする」ことにも用いる

 航空運賃に燃料の急騰分を上乗せする「燃油サーチャージ」が、4月から大幅に下がるそうだ。昨年末に比べると、JALとANAの欧米線で片道3万3000円も上乗せされていたのが、3500円になる

 夏休みにはゼロになるかな、結構じゃないか、と喜ぶだけではお人好(ひとよ)しが過ぎよう。あの原油価格の狂乱ぶりは何だったか

 昨年の夏には1バレル=150ドルに迫り、200ドルもあり得ると見られていたのに、今は50ドル前後である。得体(えたい)の知れない投機マネーが〈油を乗せ〉、世界中の消費者から〈油を絞った〉。サーチャージ分のお金は、誰の懐に入ったのだろう

 …と、声がつい大きくなるのも、不況の出口が見えないせいか。庶民は〈油の涙〉(=非常に悲しく、つらく、苦しい時の涙)を流しているのに、政治の動きは〈油を売っている〉としか見えない。

3月29日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.28.2009

歳月と風土が育てた言葉の魅力「津軽弁」標準語で適宜補足する・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「奥の細道」の旅で芭蕉は青森県に寄らず、岩手県でUターンした。「言葉が通じにくいので」とは弘前市出身のタレント伊奈かっぺいさんの説だそうで、永六輔さんが「おしゃべり文化」(講談社)で紹介している

 津軽弁はむずかしい。太宰治の作品「ダスゲマイネ」は「ンダスケ、マイネ」(=だから駄目なんだ)という津軽弁をドイツ語風の題名にしたといわれるが、こういう遊びができるのも難解さゆえだろう

 警察の取調室でも方言は使われる。供述調書にそのまま記せば、県外出身の転勤族で裁判員に選ばれた人は戸惑うかも知れず、さりとて、標準語に直せば供述の生々しさが損なわれる。青森県警も頭を悩ませたらしい

 方言はそのままに、標準語で適宜補足することに落ち着きそうだ、という記事を読んだ。「うんでもいでまるど」には「腕をもいでしまうぞ」と注釈がつくようである

 容疑者の脅し文句にさえ、風雪の音が響く。国を挙げての大騒動の割に意義のあいまいな裁判員制度だが、歳月と風土が育てた言葉の魅力に触れる機会となるならば、転勤族には制度のささやかな功徳だろう。

3月28日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.27.2009

「負けられぬ一局」手を抜けば、勝負師たるおのれを否定することになる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 プロ棋士にとって、意地でも負けられない一局とは何だろう。タイトル戦でも、昇段のかかる一番でもないと、将棋の永世棋聖、米長邦雄さんは言う

 語録にある。〈勝ち負けが自分には影響がなく、だが、対戦相手にはこの上なく重い意味をもつ一局、そういう勝負こそ全身全霊で勝たねばならない〉と

 どうせ勝ったところで…と手を抜けば、勝負師たるおのれを否定することになる。「意識の外に自分を消し去り、相手を消し去り、盤上だけが残ったときに神が降りてくる。イチロー選手の上に降りてきたように、ね」。引用の正確を期すべく確認すると、米長さんは電話口で付言してくださった

 「負けられぬ一局」を相撲に例えれば、自分はすでに負け越しが決まって、勝ち越せるかどうか瀬戸際の相手を迎えた取組がそうだろう。残念ながら一方的な無気力相撲もときにはある

 週刊誌の「八百長」報道をめぐる名誉棄損訴訟はきのう、東京地裁で力士側勝訴の判決が言い渡されたが、無気力相撲にはこれからも疑惑の目が向けられよう。春場所も終盤、土俵上に神の降りてくる相撲が見たいものである。

3月27日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.26.2009

金の裏に隠された物言う「声」、用事を言いつけられるのか。褒められるのか。・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 江戸川柳に、〈うなるのは嘘(うそ)だが金は物を言い〉とある。「金がうなるほどある」というのは誇張だが、「金が物を言う」(=力を発揮する)のは本当だね、と。物を言うだけあって、金にも声がある

 「小遣いをやるぞ」と言われた子は、喜ぶ前に「なんで?」と理由をきく。用事を言いつけられるのか。褒められるのか。金の裏に隠された物言う「声」には、子供でさえも敏感である

 西松建設の献金と知らなかった。その説明が本当ならば、巨額の献金を正体不明の団体からもらっていたことになる。どなた様だ、まさか下心はあるまいね…普通は献金の背後に耳をすますところを、小沢一郎民主党代表の金銭感覚は謎である

 目と違って耳は自分で閉じられない。「なぜか」と問うたのは寺田寅彦だが、政治家の耳に限れば答えははっきりしている。四六時中、世の声に聴き入るためであり、四六時中、金の出入りに聴覚を働かすためである

 政策の腕は未知数でも、説明する口と、聴く耳は民主党の売り物だったはずである。自慢の器官をわが手でふさいだ党首のもとで、総選挙をいかに戦うつもりだろう。

3月26日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.25.2009

「あすの真珠たちに幸あれ」過ちと悔いを核にして「痛み」のなかから成長する・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 通勤の道すがら、中学生の男の子がいる家の前を通る。ここ数日、ガラス戸に立てかけて野球のグラブが置いてある。中にボールを収め、指の部分をゴムひもで結んでいる

 遠い少年の昔、母親の靴下留めを借り、おろしたてのグラブに使いやすく型をなじませたことを懐かしく思い出した。その家の前を通るたび、何かに似ている…と感じつつ、真珠を抱く貝の姿だと気づいたのは、きのう、テレビ桟敷でのことである

 あれほど苦しみ、のたうつイチロー選手を知らない。第2回WBCの開幕以来、幾度も好機で凡退する姿には誰しも目を疑っただろう。その人が決勝の韓国戦で“ここぞ”の決定打を放ち、日本連覇の偉業を成し遂げる立役者の一人となった

 痛める貝にのみ真珠は宿る、といわれる。体内に入った異物を核にして、真珠は育つ。天才と呼ばれる人でさえ、過ちと悔いを核にして「痛み」のなかから成長することを、赤く潤んだイチロー選手の目に教えられた

 きょうもどこかの空の下で、「へたくそ」の声に傷つき、歯を食いしばって球拾いをする少年がいるだろう。あすの真珠たちに幸あれ。

3月25日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.24.2009

「春の嵐」風はさまざまな人間の声色を真似できる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈風はさまざまな人間の声色を真似(まね)できる〉と、スチーブン・キングの恐怖小説「シャイニング」(深町真理子訳、文春文庫)の一節にある

 町なかに暮らしていると、いつもは騒音に掻(か)き消されて風の音を意識することはあまりないが、きのうは関東から北日本にかけての広い地域を春の嵐が吹き荒れた。人の叫ぶような、歌うような、風の声帯模写に耳をすました方もあったに違いない

 お天気博士の倉嶋厚さんによれば、〈3月はライオンのようにやってきて子羊のように去る〉と、英語のことわざにあるという。ライオンは温帯低気圧の嵐を、子羊は移動性高気圧の春うららを指す。列島からはまだライオンが去らない

 成田空港では強風のなか、貨物機が着陸に失敗して炎上、米国人の乗員2人が死亡する惨事が起きた。飛行機や列車はもちろんのこと、自転車も走行中に突風にあおられて転倒すれば命にかかわる事故になる。春の嵐に神経の休まらぬ季節がつづく

 亡くなった機長は54歳、副操縦士は49歳、ともに働き盛りである。窓を揺らして過ぎる風のなかに、最期の悲鳴が聞こえるようでつらい。

3月24日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.23.2009

フェアプレイを発揮すべきは、道義をわきまえた相手だけだ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 日本にもファンが多い中国の文人、林語堂と魯迅は大正の末期、吠(ほ)えて人を咬(か)む犬が水に落ちたらどうすべきか、論争をしたことがある

 「欧米のフェアプレイ精神を見習い、悪い犬でも助けるべし」と説く林に、魯は反論した。「助けた犬は悠然と身をふるい、しぶきをはねかけて逃げるだろう。フェアプレイを発揮すべきは、道義をわきまえた相手だけだ」

 いささか非人道的にも聞こえるが、恩を仇(あだ)で返された経験は誰にもあろう。米国のオバマ大統領も金融危機の大波に落ちた保険最大手のAIGを救って、こっぴどいしぶきを浴びた

 巨額の公的資金を得ながら、幹部に総額160億円、最高6億円のボーナスを払った。強欲の果てに世界同時不況の引き金を引いた張本人にボーナスとは、世界中の誰もが納得すまい。AIGのトップは議会で「法的に支給を拒めなかった」と弁明したが、聞きたいのは即時、全額返金の確約だ

 どうやら米当局も支給の2週間前にはAIGから報告を受けていたらしい。世界の金融センターを背負う道義があるのか。こうなると、救う側のフェアプレー精神も問われる。

3月23日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.22.2009

「赤字国債」埋蔵金などというものは、そうそう当てにはできまい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 東京は日本橋、日本銀行本店の旧館は1896年(明治29年)のきょう、落成披露された。東京駅と同じ、辰野金吾の設計である。江戸時代に金座があった場所を、三井組から買って建設した

 昭和20年代に経済ジャーナリストが裏話をまとめた本に面白いくだりがある。〈土には金分が含まれているだろうと、基礎工事で掘り返した土を選鉱、精錬させたところ、予想以上の純金がとれ、土地の代金以上のものになった〉(三宅晴輝著「日本銀行」)

 後ろに〈――という話も伝わっている〉と続くので、どこまで事実かは定かでないものの、日銀のホームページにも「整地前に金粒の採取を実施した」とあり、文字通りの埋蔵金が出たことは確からしい

 だからといって、埋蔵金などというものは、そうそう当てにはできまい。現代の埋蔵金として、特別会計の積立金などが経済対策の財源になっている。だが、これは本来、国債の償還に使うべきものを転用するだけのことだ。結局のところ、赤字国債の発行と変わらない

 埋蔵金の夢は、110年以上も昔のエピソードの中に埋めておくのが賢明のようである。

3月22日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.21.2009

企業・団体献金を全面禁止「猫の魚辞退」内心では望んでいるのに、うわべは遠慮すること・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 貴重な小判をもらったところで価値の分からぬ身では無意味だろうよ、と馬鹿(ばか)にされたり、くるくる変わる目玉を変節漢の形容に用いられたり、慣用句やことわざの世界で猫は気の毒である。〈猫の魚辞退(うおじたい)〉もその一つだろう

 好物の魚をやったら、猫が「いりません」と断った。本心とは思われず、裏に思惑があるらしい――ということで、「内心では望んでいるのに、うわべは遠慮すること」のたとえである

 民主党の小沢一郎代表が企業・団体献金を全面禁止する意向を表明したことが波紋を広げている。違法献金疑惑の渦中に巻き込まれるくらい“好物”なのだろうと勝手に思っていたので、〈魚辞退〉の提案には戸惑った

 企業・団体献金をもらうにしても節度を守り、疑惑を招かぬ政治家は大勢いる。火の不始末でボヤを出した人が「全戸で火の使用を禁止しよう」と唱えているような、筋違いの印象も禁じ得ない。与党野党を問わず、「あなたが火の用心をなさい」と言い返したい議員は多かろう

 政治家を猫にたとえるのは考えてみるとずいぶん失礼な話で、猫の皆さんには取りあえず謝っておく。

3月21日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.20.2009

彼岸「見合わせ桜」故人の面影に歳月を重ねてみる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 江戸の昔には〈見合わせ桜〉という言葉があったという。鶴ヶ谷真一さんの随筆集「月光に書を読む」(平凡社)を読んでいて教えられた

 遠方の桜の開花を知るために、江戸人はそれと開花期を同じくする近くの桜を見定め、これを〈見合わせ桜〉と呼んだという。例えば、奈良の春日神社で大鳥居の左右にある一対の桜は吉野山の〈見合わせ桜〉とされていたそうで、鳥居の傍らで花を仰ぎつつ人は、満山これ桜の吉野山を脳裏に描いたのだろう

 遠方にお孫さんのいる方が近所に住む同じ年ごろの子供を見て、「孫の背丈もこのくらいに伸びたかな」と想像する心にもどこか似ている

 きょうは彼岸の中日、桜の開花は例年よりも幾らか早いと聞く。ほころびた花の下、墓前に香華を手向ける人の姿があちらこちらで見られるかも知れない

 墓参りの道すがら、行き会う人を〈見合わせ桜〉にして、亡き母も達者でいればこの人のようであろうか、幼くして逝ったわが子もほんとうならばこのくらいの年恰好(としかっこう)であろうか…と、故人の面影に歳月を重ねてみる方もおありだろう。心眼にだけ映る天上の花がある。

3月20日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.19.2009

わが恋ふる平和なる国の平和なる科学・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 早世の惜しまれる詩人や歌人がいる。相良(さがら)宏もそのひとりである。〈わが坐(すわ)るベッドを撫(な)づる長き指告げ給(たも)ふ勿(なか)れ過ぎにしことは〉

 結核を病み、1955年(昭和30年)に30歳で死去した。「長き指」の人は思慕する女性であったか。「相良宏歌集」(白玉書房)に収められた歌はどれも透明な悲しみをたたえている

 結核はかつて死亡率の高い疫病として恐れられ、日本では大正から戦後期にかけて蔓延(まんえん)した。ストレプトマイシンなどの特効薬の開発で克服への道をたどるのは1950年代以降のことである

 天皇陛下はきのう、都内で開かれた結核予防全国大会の式典で「私自身、新薬の恩恵に浴したものの一人です」と、ご自身の病歴を明かされた。宮内庁によれば1953年(昭和28年)12月、20歳の誕生日直前に結核と診断され、投薬治療で4年後にほぼ治癒の判断を得たという

 戦時下で発病を知り、戦後の混乱期を病床で過ごした相良に、すがるような一首がある。〈涙して結核患者わが恋ふる平和なる国の平和なる科学〉。平和なる国の…おそらくは陛下がかみしめておられるのもそのことだろう。

3月19日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.18.2009

「真相報道」誤報に至った経緯の詳しい説明がないままに・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 詩人、土井晩翠の飼い犬がどこからか蝦蟇口(がまぐち)を拾ってきた。銀貨が2枚入っていた。晩翠は警察署に届けた

 署員はどういう茶目(ちゃめ)っ気でか、「犬が自分で警察署を訪れ、くわえた蝦蟇口を署員に渡した」と面白おかしく新聞記者に話し、数紙にそのまま載った。随筆「名犬の由来」にある

 記事には飼い主晩翠の名前もあり、裏付け取材はその気になれば容易であったろう。骨惜しみと、「面白いから、まあいいか」という甘えと、報道に携わる者には“永遠の敵”である。岐阜県庁の裏金をめぐって報道番組が誤報を流した責任を取り、日本テレビの社長が辞任した

 腑(ふ)に落ちないのは、誤報に至った経緯の詳しい説明がないままに最も重い処分がなされたことである。洗いざらいを明かした上での辞任ならば潔い進退にもなっただろうに、何か隠された裏があるのでは――との疑念がいまは先に立つ。「職を辞したことがすべての説明」という言葉に納得した視聴者はいまい

 飼い主と名犬がともども苦笑いして終わった誤報とは、誤報の重みが違う。綿密な検証なくしては、番組に冠した「真相報道」が泣こう。

3月18日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.17.2009

「泣くかわりに笑った」もっと力を合わせれば・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈僕の家は貧乏で、山元村の中でもいちばんぐらい貧乏です〉。作文を書いたのは中学2年生、江口江一さんである。父はとうに亡く、今また大黒柱の母を亡くした。弟と妹は親類にもらわれていき、自分は祖母と家に残る。一家離散が題材である

 母は家族にも村の人にもめったに笑顔を見せない人だった。笑わない母が臨終の病床でにこりとした。〈それは「泣くかわりに笑ったのだ」というような気が今になってします〉とある

 無着成恭さんが教鞭(きょうべん)をとった“山びこ学校”の舞台、山形県上山市の山元小中学校がこの春限りで休校になる。一昨日の卒業式で最後の生徒3人が巣立った。若い彼らには遥(はる)かなる先輩、昭和20年代半ばに在籍した生徒たちの作文を岩波文庫「山びこ学校」で読み返している

 少年は作文の結びで、家業の炭焼きを手伝って学校に通えない友の身を案じている。〈僕たちの学級には、僕よりもっと不幸な敏雄君がいます。僕たちがもっと力を合わせれば、敏雄君をもっとしあわせにすることができるのではないだろうか〉と

 この歳月、私たちは何を手にし、何をなくしたのだろう。

3月17日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.16.2009

「日本を明るく強い国にする」相手の身になって喜怒哀楽を感じようと努めなければ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 作家をホテルなどに閉じ込めて執筆に専念させることを「カンヅメ」にするという。1947年に編集者だった宇野千代が小林秀雄を神奈川県奥湯河原温泉の加満田旅館に逗留(とうりゅう)させたのが始まりだそうだ

 番頭の師星照男さん(72)は、ひいき筋となった晩年の小林から大著「本居宣長」のサイン本をもらった。難しくてさっぱりわからないとぼやいていたら、水上勉に諭された。「お前ねえ、小林への心の寄せ方が足らないんだよ」

 好意を抱き、相手の身になって喜怒哀楽を感じようと努めなければ、他人を理解することはかなわない。出会いも別れも多いこの季節。巷(ちまた)には、解雇だ、貸し渋りだと世知辛い不況風が吹いている

 「日本を明るく強い国にする」と麻生内閣が船出したのは半年前。経済危機の嵐にもみくちゃにされ、雇用不安、生活不安の暗雲が立ち込めている。国を率いる自負のみならず、民の苦しみに思いを馳(は)せる想像力を持たなければ為政者は務まるまい

 首相は16日から各界有識者を集めて危機克服の策を練る。英知を大胆に活(い)かせるか。“儀式”で終わるか。「心の寄せ方」ひとつである。

3月16日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.15.2009

2016年の五輪招致をめざす東京都、金色の水引細工・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 遣隋使がもたらしたものは数々あるが、祝儀袋などに欠かせぬ水引もそうらしい。小野妹子が帰朝した際、隋の答礼使からの贈り物に紅白の麻紐(あさひも)が結ばれていたことが始まり、とされる

 航海の無事と平穏を祈ったものという。この知識は長野県の飯田水引協同組合のホームページに教えてもらった。飯田市は日本一の水引の産地である

 水引も単に華やかな和紙の紐と思っては間違いで、多彩に編み上げられる水引細工は芸術品だ。長野五輪の記念品やパラリンピックの入賞者に贈られた月桂冠(げっけいかん)は、飯田水引で作られていた

 2016年の五輪招致をめざす東京都に先日、金色(こんじき)の大きな宝船の水引細工が届いた。飯田の職人10人が3か月をかけた縁起物である。東京五輪・パラリンピックのシンボルマークが五色の水引をデザインしていることもあって、招致熱は東京以上と聞く

 開催地決定まで、あと半年。近く来日するIOC委員には、東京は無論のこと、日本中の期待をアピールしなければならない。最後の高波を乗り切れるか否かという時、招致決議に手間取っている国会よりよほど、水引の応援は心強い。

3月15日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.14.2009

寝台特急「富士」「はやぶさ」東京駅発のブルートレインは姿を消す・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 医師として東京で暮らす斎藤茂吉は「母、危篤」の報に、夜汽車で郷里・山形に向かう。〈みちのくの母のいのちを一目(ひとめ)見ん一目見んとぞいそぐなりけれ〉。切迫した息遣いが聞こえるようである

 夜行列車に乗る人の鼓動を速めるのは焦燥や憂悶(ゆうもん)だけではない。井沢八郎さんが「ああ上野駅」で〈人生があの日ここから始まった〉と歌ったように、希望に胸を弾ませて駅に降り立った人もいただろう

 東京と九州を結ぶ寝台特急「富士」「はやぶさ」がきのうの出発便を最後に廃止され、半世紀の歴史に幕をおろした。東京駅発のブルートレインは姿を消すことになる。約3000人の鉄道ファンに見送られてホームを離れる列車をテレビで眺め、遠い記憶をつむいだ方もあったに違いない

 1年ほど前、「はやぶさ」で熊本を訪ねた。東京から片道18時間、食堂車も車内販売もない夜をただ揺られつつ、過去に向かって時間を旅しているような不思議な感覚に包まれたのを覚えている

 憂いや、悲しみや、希望の詰まった旅行かばんを置くのに、あの狭い寝台の枕元ほど似合う場所はほかにないのかも知れない。

3月14日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.13.2009

財団法人「日本漢字能力検定協会」“もうけすぎ”…ご心配をおかけしております・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 姿形からいろいろな空想が生まれるのも漢字の面白いところだろう。〈国という字は/王さまがざぶとんにすわって/しゃぼん玉を/ふいているような字だなあ〉。以前、本紙に載った小学生の詩である

 漢字の面白さを広める仕事だからといって、上に立つ人が王様気取りで組織を私物化していいわけもなく、ましてや世間から浴びる疑惑のまなざしはどこ吹く風と、座布団でのほほんと遊んでいてよかろうはずがない

 財団法人「日本漢字能力検定協会」による公益事業とは名ばかりの“もうけすぎ”の実態に、文部科学省の検査が入って1か月がすぎた。改善を指導する文書も出ている

 理事長親子が代表を務める四つの会社に協会から、業務委託費の名目で過去3年間に66億円が支払われていたというのに、何ひとつ説明するでもない。協会のホームページには「弊協会の報道に関する件で…ご心配をおかけしております」と、報道機関が騒動の発生源とでも言いたげな一文を掲げるのみである

 座布団を外し、相手にしっかり顔を向け、誠意をもって語る。しゃぼん玉を吹くための口ではないでしょ、王様。

3月13日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.12.2009

北朝鮮の重い扉、世間並みに「うちの母」とも「おふくろ」とも呼べぬまま・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 長屋の八五郎が大家のもとを訪ねて言う。〈うちの婆(ばば)アがね、「大家さんとこへ急いで行け」ってんで…なんでがす?〉。落語の「妾(めか)馬(うま)」である。「婆ア」とは、自分の母親を指す

 文部科学省から表彰されるような言葉遣いではないし、もとより広めようという魂胆もないが、「うちの婆ア」と呼ぶことができた八五郎の幸せを今はかみしめている

 飯塚耕一郎さん(32)はきのうの韓国釜山(プサン)市での記者会見で、生き別れの母を「田口八重子さん」と呼んだ。1歳で北朝鮮に母(当時22歳)を拉致され、その面影も声も知らない子は世間並みに「うちの母」とも「おふくろ」とも呼べぬまま、“さん”付けになったのだろう。これほど哀(かな)しく、せつない呼び方を知らない。むごい国である

 拉致されてからの八重子さんを知る金賢姫元死刑囚(47)は耕一郎さんと面会し、「お母さんは生きています」と励ました。家族が胸にともした希望の灯を一人でも多くの国民が分かち合い、北朝鮮の重い扉を叩(たた)いていくしかない

 53歳になった母に、「八重子さん」ではなく「おかあさん」と呼ばれる日が必ず来ると信じている。

3月12日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.11.2009

おじいちゃん“形無し“おじいちゃん“裸の王様”おじいちゃん・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 届いたばかりの月刊「五行歌」3月号に、ほほえましい一首を見つけた。〈「そういう時は/ごめんなさいって/謝るんだよ、/おじいちゃん」/孫娘(あなた)しか言えません〉。作者は「みやび」さんという

 ワンマンのおじいちゃんなのだろう。家人が日ごろ思っていて口にできない諫言(かんげん)をさらりと告げた愛らしい孫娘、首をすくめる家族一同、にが笑いのおじいちゃん…団欒(だんらん)のひとこまが浮かぶ

 民主党の小沢一郎代表がきのう、「違法献金」疑惑を初めて国民に陳謝した。1週間前には「おわびする理由は見あたらない」と語っていた人がいかなる理由を見つけたにせよ、ずいぶん遅い「ごめんなさい」である

 政治家に妙なカネと縁切りさせるべく、国民は税金で政党交付金を負担している。潔白の主張は主張として、疑念を招いたことをまず謝るべきだと諫(いさ)める孫娘は党内にいなかったか

 首相を差し置いて閣僚が内閣改造や解散時期に言及し、やんちゃな孫だらけでおじいちゃん形無しの家庭も困る。「異議なし」の拍手に取り巻かれ、おじいちゃんが“裸の王様”の家庭も困る。憂鬱(ゆううつ)な選択の時はいつだろう。

3月11日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.10.2009

定額給付金「蛍の光」生活をかすかに照らし、消えていく・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 卒業式はすでに記憶の古層に埋もれたという人も〈蛍の光 窓の雪…〉をふと、口ずさむ季節である。古代中国の人、車胤(しゃいん)は家が貧しく、絹の袋に蛍を入れて書物を照らし、勉強したという

 「数と量のこぼれ話」(日本規格協会刊)によれば、読書に最低必要な照度は30ルクスほどで、蛍1匹の明るさを約3ルクスとして10匹分にあたる。袋を通せば光は弱まり、明滅して飛び交うから車胤さんも目が疲れただろう

 生活をかすかに照らし、はかない命で消えていく。でも、ないよりはまし――とりとめなき連想ながら、定額給付金は蛍の光に似ている

 一部の自治体で支給がはじまった。窓口でつつましく感謝の言葉を述べて受け取る人々の笑顔に共感しつつ、失業対策など世の中をもっと明るく照らす使い道があったはずだと、政策としての疑問符はいまも消えない

 「窓の雪」のほうは月明かりでもない限りは読書の役に立たないという。世を明るくもせず、心は冷え込むばかり、例えれば政治とカネの醜聞であろうか。与党の「蛍の光」に野党第1党の「窓の雪」、永田町から届く貧しい贈り物の歌にも聞こえる。

3月10日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.09.2009

「中国社会に渦巻くマグマ」貧しくとも皆が平等だった・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 中国で「9(チュウ)」は「久(チュウ)」と同じ発音になり、「永(ヨン)久(チュウ)」にも通じる縁起の良い数字だ。だが、現代中国の歴史では「9」のつく年は必ずしも喜ばしいことばかりではない

 1949年には新中国が誕生したが、59年はチベット動乱、大躍進の失敗で大飢饉(ききん)に襲われた。69年は文化大革命の嵐の真っただなか。79年には中越戦争が起き、89年は民主化弾圧の天安門事件で世界的に孤立した。99年は在ユーゴの中国大使館が米軍機の誤爆を受け、反米デモが沸き起こった

 09年は、世界同時不況の津波を受け、高度成長路線に黄信号が点滅し始めた。北京では今、国会に相当する全国人民代表大会が開かれ、内需拡大をテコにした景気回復策について審議が続く

 金持ちと貧者。都会と地方。都市と農村。それぞれに格差は開くばかりだ。社会主義・中国が、資本主義・米国を上回る格差社会になったとの指摘もある

 業を煮やした人々が、新政党「中国毛沢東主義共産党」の創設に乗り出したという。貧しくとも皆が平等だった毛時代への郷愁なのだろう。中国社会に渦巻くマグマが、破裂する年になるのだろうか。

3月9日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.08.2009

「東京スカイツリー」藍白(あいじろ)、天空を背景としながら多彩な色を包容する白・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 東京タワーが黄色と黒の縞(しま)模様だったら、どうだろう。阪神ファンは大喜びだと思うが、景観的にはちょっと遠慮したい気がする。これは冗談ではなく実際に検討されていた

 いきさつを記した「東京タワー物語」(前田久吉著)によると、航空機の安全のためにタワーを目立たせる必要があり、真っ先に提案されたのが、道路工事などの危険表示に用いる黄色と黒の縞模様だったそうだ

 さすがにそれは…という声が勝って、インターナショナル・オレンジと呼ばれる朱色と白のコンビに落ち着いたらしい。念のため、巨人のチームカラーがオレンジであることとは関係がない

 半世紀を過ぎて今、2代目タワー「東京スカイツリー」の工事が進んでいる。どんな装いになるのかと期待半分、不安半分でいたところ、先日、基本カラーは「藍白(あいじろ)」と発表された

 かすかに青みがかった白磁のような色で、「天空を背景としながら多彩な色を包容する白」という。派手な色遣いでなくとも、航空機対策は高性能点滅灯で大丈夫とのことだ。景観を大切にしたい時代にふさわしいタワーとして、姿を現してもらいたい。

3月8日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.07.2009

独り言「配達の苦労に負けない執筆の苦労をお前さんはしたかね」・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 漫談家で随筆や小説も手がけた徳川夢声に一句がある。〈書くといふこと何かヒキョーに似たりけり〉。書き留めた日記に説明はなく、どういう背景があっての吟詠かは分からない

 日々のコラムを書いていて似た後ろめたさを覚えるときがある。たとえば警察の捜査ミスに追及の筆を走らせつつ、「お前さんは机の前で偉そうに批判ばかりしているね」と、もう一人の自分の声を聞く

 雨の朝、新聞配達の人に出会ったときも同じ声が聞こえる。「配達の苦労に負けない執筆の苦労をお前さんはしたかね」と

 きのうの朝、奈良県香芝市の踏切で読売新聞の配達員、芦高喜代子さん(65)が電車にはねられて亡くなった。配達のバイクで転倒し、落ちた新聞を拾い集めていた時の事故という。読者に早く届けねば、その一心であったのだろう

 線路上に散乱した新聞には「編集手帳」も載っていた。命をかけて拾ってくれた芦高さんの霊前で恥じることのない、心のこもった記事であったかどうか。読者の皆さんにはかかわりのない話だが、ほかの何を論じる気にもなれぬまま、独り言を聞いていただいた次第である。

3月7日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.06.2009

「道連れ」天国行きも一緒、地獄行きも一緒、絶対に・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 北京五輪柔道の金メダリスト石井慧さんが母校の中高生に凱旋(がいせん)の報告をしたのは昨年9月である。「人生のアドバイスをしたい。絶対に…」と、そこでひと呼吸を置いた

 「…夢をあきらめない」とでも説くのかと思えばさにあらず、「(借金の)保証人にならない」と続けて満場がどっと沸いたのをニュースの映像で記憶している。保証人のハンコはときに、借金地獄の道連れにされることを承諾するしるしにもなり、用心の教えは有益に違いない

 民主党役員会は違法献金疑惑を巡る小沢一郎代表の、説明とも言えぬ説明を鵜呑(うの)みにし、深くただしもせずに了承したという。代表との道連れを覚悟し、連帯保証の判を押したことになる

 疑惑が晴らせるのならばいい。そうならず、捜査の展開によって小沢氏が辞任に追い込まれたときは、保証人の面々も無傷でいられない。政権奪取の天国行きも一緒、党内総懺悔(そうざんげ)の地獄行きも一緒――その連帯を美しいと見るか、愚かしいと見るかは別にして、怖い賭けではある

 「人生のアドバイス」をいつか、ほろにがくかみしめる日が来なければ、ご同慶の至りである。


3月6日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.05.2009

野球の世界一を競う第2回WBC、光り輝かせる炎を見せてくれる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 英国の化学者ファラデーは「ロウソクの科学」に書いている。〈ダイヤモンドの夜の光輝は、それを照らす炎のおかげでしかありません〉。野球場の各塁を結ぶ四角形もダイヤモンドと呼ばれる

 光り輝かせるのはもちろん選手たちだが、ベンチ入りのメンバーだけが炎ではない。野球の世界一を競う第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)について書かれた短い記事が胸に残っている

 日本代表候補33選手による宮崎市での合宿が終わり、代表メンバー28選手が決まったのは先月22日である。広島カープの栗原健太内野手は落選を告げられたあと、合宿の解散で閑散とした室内練習場に居残り、一心にバットを振り続けていたという

 その心を察するに、「悔しいぞ」の一語に尽きるのだろう。押しも押されもしないプロの花形選手が、がむしゃらで、多感で、ひたむきな野球少年の昔に立ち戻る。WBCとはそういう大会である

 きょうの日本―中国戦で幕が開く。勇躍して立つロウソクの、不運にして立てなかったロウソクの、炎に照らされたダイヤモンドはどんな光輝を見せてくれるだろう。

3月5日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.04.2009

「明日の桜」どちらが首相にふさわしいか・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 古歌にいわく〈明日ありと思う心の仇(あだ)桜(ざくら) 夜半(よわ)に嵐の吹かぬものかは〉。明日があると思う心は、はかない花に似ている。夜半の嵐に散るかもしれないのに、と。伝承では親鸞聖人9歳当時の吟詠という

 その人の胸に描く桜がいずれ咲くのか、幻影のまま散るのかはまだ分からないが、嵐の渦中に立ったのは確かである。裏金事件の準大手ゼネコン「西松建設」から違法な政治献金を受けていた疑いで小沢一郎民主党代表の公設第1秘書が逮捕された

 麻生首相27%、小沢氏39%――本紙が今年1月の世論調査で「どちらが首相にふさわしいか」を問うた結果だが、一寸先の読めないのが政界であるらしい

 小沢氏は疑惑を否定し、民主党内からは「陰謀だ」との声も聞こえる。そんな手の込んだ陰謀を仕組めるほど知恵の回る政権ならば、定額給付金をもらう、もらわぬのゴタゴタや朦朧(もうろう)会見騒動は起きていないだろうから、陰謀説はどんなものだろう

 口の重い小沢氏は3年ほど前、代表就任の弁で「まず私が変わらねば…」と語った。差しあたり、国民に納得のいく説明が「明日の桜」を散らせぬ道である。

3月4日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.03.2009

雛飾りの前で、幼い姉妹がおめかしをして座っている・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 お屋敷の幼い若様が穴あき銭を拾った。丸い中に四角い穴があき、表には字が、裏には波形の模様が彫ってある。銭を知らない若様は「お雛(ひな)さまの刀の鍔(つば)かしら」と考える。落語「雛鍔(ひなつば)」である

 霞(かすみ)を食べて生きられる身ではなし、その浮世離れは真似(まね)ようもないが、どこそこの会社は赤字が何千億円、失業者は何十万人と、重苦しい数字を耳にしない日はない。若様のように金銭をしばし意識の外に追い払えたら…と、思うときがある

 飲み代を切りつめるのは仕方ないとしても、慶応義塾創立記念「福沢諭吉展」の記事を見て、学識や業績より先にお札が頭に浮かぶのは我ながら情けない

 吉野弘さんに「一枚の写真」という詩がある。雛飾りの前で、幼い姉妹がおめかしをして座っている。〈この写真のシャッターを押したのは/多分、お父さまだが/お父さまの指に指を重ねて/同時にシャッターを押したものがいる/その名は「幸福」〉

 お金のことを忘れていれば金銭の苦労が消えてなくなるわけではないが、今日はせめてひと時、小さな幸福の手を借りて、家族で「一枚の写真」を残すのもいいだろう。

3月3日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.02.2009

「イラク国立博物館」略奪された展示品は依然不明のまま・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 460億円超。個人所蔵品の競売としては世界最高の落札額を記録した。仏デザイナー、故イブ・サンローラン氏の遺品のオークションは、大変盛況だったようだ

 中国政府が返還を要求していた2体の動物の頭部像も高額で落札された。19世紀の第2次アヘン戦争の際、英仏連合軍兵士が北京の清朝離宮・円明園から略奪した、とされる品である

 売買中止を求めた訴えを、パリの裁判所が退ける一幕もあった。合法か否かはともかく、その時、故人と共に出品者として名を連ねた仏人実業家が発した言葉に、いささか違和感を覚えた

 「中国政府が人権に配慮するなら、すぐに像を差し上げよう」というのだ。中国の人権軽視は批判されてしかるべきだが、ここで持ち出すのは筋違いだろう。「人権」を言い募り、文物がたどった運命など忘れようというのかと、勘ぐりたくなった

 パリで競売が開幕した日、バグダッドでは、6年ぶりにイラク国立博物館が開館した。が、旧政権崩壊時に略奪された展示品のうち約7000点は、依然不明のままだ。はるか時を経た後、どこかで姿を現すことがあるだろうか。

3月2日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

3.01.2009

残すべき建築物とは何か。近代都市美の象徴なら超高層ビルにする・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 <丸ビル、新丸ビル、国鉄、中央郵便局など大建築の立ち並んだ東京駅前の景観は近代都市美の象徴として日本一のものであろう>。昭和32年の本紙読者欄にあった投書の書き出しである

 この後が、今読むとちょっと面食らう。<その間にあって東京駅のあの怪物のような赤い建物は、完全に周囲の風景と反発している><ただ官力の偉大さを誇示しようとした明治時代の遺物であって、今日では何のとりえもない>

 投書の主は、時代錯誤的な駅舎を早く建て替えよ、と主張している。これに対して別の読者が、<周辺のアメリカナイズされた建造物の白々しさに対して、東京駅こそ重みがある>と反論の投書を寄せた

 残すべき建築物とは何か。その時には分からないものかもしれない。今、赤レンガ駅舎は創建当時の姿に復元して保存する工事が進行中だ。近代都市美を構成したビルは消え、最後に残った中央郵便局を保存せよとの声が上がっている

 外観の一部だけ残して超高層ビルにするという日本郵政の計画に鳩山総務相が国会で待ったをかけた。どうすべきか、50年後の読者に問えればよいのだが。

3月1日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge