早世の惜しまれる詩人や歌人がいる。相良(さがら)宏もそのひとりである。〈わが坐(すわ)るベッドを撫(な)づる長き指告げ給(たも)ふ勿(なか)れ過ぎにしことは〉
結核を病み、1955年(昭和30年)に30歳で死去した。「長き指」の人は思慕する女性であったか。「相良宏歌集」(白玉書房)に収められた歌はどれも透明な悲しみをたたえている
結核はかつて死亡率の高い疫病として恐れられ、日本では大正から戦後期にかけて蔓延(まんえん)した。ストレプトマイシンなどの特効薬の開発で克服への道をたどるのは1950年代以降のことである
天皇陛下はきのう、都内で開かれた結核予防全国大会の式典で「私自身、新薬の恩恵に浴したものの一人です」と、ご自身の病歴を明かされた。宮内庁によれば1953年(昭和28年)12月、20歳の誕生日直前に結核と診断され、投薬治療で4年後にほぼ治癒の判断を得たという
戦時下で発病を知り、戦後の混乱期を病床で過ごした相良に、すがるような一首がある。〈涙して結核患者わが恋ふる平和なる国の平和なる科学〉。平和なる国の…おそらくは陛下がかみしめておられるのもそのことだろう。
3月19日付 編集手帳 読売新聞
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