3.24.2009

「春の嵐」風はさまざまな人間の声色を真似できる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈風はさまざまな人間の声色を真似(まね)できる〉と、スチーブン・キングの恐怖小説「シャイニング」(深町真理子訳、文春文庫)の一節にある

 町なかに暮らしていると、いつもは騒音に掻(か)き消されて風の音を意識することはあまりないが、きのうは関東から北日本にかけての広い地域を春の嵐が吹き荒れた。人の叫ぶような、歌うような、風の声帯模写に耳をすました方もあったに違いない

 お天気博士の倉嶋厚さんによれば、〈3月はライオンのようにやってきて子羊のように去る〉と、英語のことわざにあるという。ライオンは温帯低気圧の嵐を、子羊は移動性高気圧の春うららを指す。列島からはまだライオンが去らない

 成田空港では強風のなか、貨物機が着陸に失敗して炎上、米国人の乗員2人が死亡する惨事が起きた。飛行機や列車はもちろんのこと、自転車も走行中に突風にあおられて転倒すれば命にかかわる事故になる。春の嵐に神経の休まらぬ季節がつづく

 亡くなった機長は54歳、副操縦士は49歳、ともに働き盛りである。窓を揺らして過ぎる風のなかに、最期の悲鳴が聞こえるようでつらい。

3月24日付 編集手帳 読売新聞
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