卒業式はすでに記憶の古層に埋もれたという人も〈蛍の光 窓の雪…〉をふと、口ずさむ季節である。古代中国の人、車胤(しゃいん)は家が貧しく、絹の袋に蛍を入れて書物を照らし、勉強したという
「数と量のこぼれ話」(日本規格協会刊)によれば、読書に最低必要な照度は30ルクスほどで、蛍1匹の明るさを約3ルクスとして10匹分にあたる。袋を通せば光は弱まり、明滅して飛び交うから車胤さんも目が疲れただろう
生活をかすかに照らし、はかない命で消えていく。でも、ないよりはまし――とりとめなき連想ながら、定額給付金は蛍の光に似ている
一部の自治体で支給がはじまった。窓口でつつましく感謝の言葉を述べて受け取る人々の笑顔に共感しつつ、失業対策など世の中をもっと明るく照らす使い道があったはずだと、政策としての疑問符はいまも消えない
「窓の雪」のほうは月明かりでもない限りは読書の役に立たないという。世を明るくもせず、心は冷え込むばかり、例えれば政治とカネの醜聞であろうか。与党の「蛍の光」に野党第1党の「窓の雪」、永田町から届く貧しい贈り物の歌にも聞こえる。
3月10日付 編集手帳 読売新聞
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