9.30.2009

ゴールド系のネクタイ“勝負ネクタイ”取り換えても取り換えてもパッとしない柄ばかり・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 初めてネクタイを着用した日本人は、ジョン万次郎らしい。幕末に帰国した際、所持品を調べた長崎奉行所の記録に、「襟飾」や「胸飾」の記載がある。再び故国の土を踏む時のための“勝負ネクタイ”だったかも知れぬ

 鳩山首相がここぞという日に、夫人の見立てたゴールド系のネクタイを締めることはよく知られている。大舞台続きの訪米中は毎日がゴールドだった

 これだけ勝負ネクタイが知れ渡っては大変だろう。余計なことながら今後、赤や青の時に「きょうはリラックスモードですか」などと皮肉られはしないかと心配だ。もっとも、難題山積の現状からして在任中はずっと金色で通すことになるのかも知れない

 野党の自民党も総裁というネクタイを明日また新調するそうだ。年に1回、取り換えても取り換えてもパッとしない柄ばかりだったが、さて今度は勝負ネクタイとして通用するかどうか

 クールビズの季節が終わろうとしている。勝負ネクタイなどというしゃれたものはないけれど、久しぶりに襟元をキュッと引き締めて、社会人になった時の初心や緊張感を思い出してみるとしよう。

 9月27日付 編集手帳 読売新聞
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9.28.2009

温暖化対策、日本の中期目標25%削減、倒れてしまえば、上座も下座もない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 森繁久弥さんは売れない昔、古川ロッパ主宰の劇団で修業した。ある座敷で「先生、ぼくはどこに座ればいいのでしょう」と尋ねた森繁さんに、ロッパは答えたという。「どこへでも座れ。おまえの座ったところが下座だ」

 日本も国際会議の座敷で、「ぼくはどこに座ればいいのでしょう」と一座を見渡すことがままあったせいか、床柱を背負う上座がよほどうれしいのだろう

 温室効果ガスの排出量を25%削減する日本の中期目標を、鳩山首相が国連演説で言明した。称賛の拍手をもらい、閣内は高揚感に包まれている。自民党政権のもとでこれまで、「どうぞ、主役は奥へ、奥へ」と上座に通されたことがあったか、と

 温暖化対策の旗手たらんとする首相の志やよし、いい気分に水を差すつもりはないが、〈夏の馬鹿(ばか)は奥に座る〉という格言も頭の隅にしまっておいてもらおう。最大の排出国である米国と中国が同じ座敷に入らぬまま縁側で涼み、日本だけが床の間の前で経済悪化に歯を食いしばって一人ぼっちの我慢会をする――というのは願い下げである

 呼吸困難で倒れてしまえば、上座も下座もない。

 9月25日付 編集手帳 読売新聞
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9.25.2009

5連休「敬老の日」帰省し、お国訛りの会話は、心の凝りをほぐす・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 新聞社では、出先から電話で原稿を送ることがある。原稿中に「イトウ」とあれば、受け手は漢字を確かめねばならない。新聞記者出身の青木雨彦さんが「冗談の作法」(ダイヤモンド社刊)で体験談を披露している

 「イはイタリア(伊太利亜)のイだね?」「サンズイのイです」「サンズイ?」「イドのイです」「井戸のイにサンズイがある?」「あります、オイドのイだもの」「オイド?」「そうです、オイドニホンバシの…」

 この会話に笑みをこぼす人ばかりとは限るまい。郷里を離れて都会暮らしをした人のなかには、訛(なま)りでつらい思いをした記憶をほろ苦く過去から紡いだ方もあろう

 この5連休、勤め先や学校のある都会から帰省し、きのうは「敬老の日」をおじいちゃんやおばあちゃんと過ごした人もいたはずである。お国訛りの会話は、心の凝りをほぐす薬効つきのシャワーであったに違いない

 読売俳壇で目に留め、書き抜いた句がある。〈食(け)と言はれ食(く)とこたへ食ふづんだ餅(もち) 福島県 黒沢正行〉。食(け)(食べなさい)と食(く)(食べます)、1文字で心身の温まる魔法のようなシャワーもある。

 9月22日付 編集手帳 読売新聞
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9.23.2009

末永くお幸せに、100歳以上の高齢者が、今年初めて4万人超え・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈我が家にも政権交代夢にみる〉。敬老の日を前に、全国有料老人ホーム協会が募集した「シルバー川柳」の入選作だ。千葉県に住む76歳男性の作品。同感同感、と苦笑する亭主族の顔が浮かぶ

 〈夫婦仲社会福祉と妻は言い〉。これは広島県67歳男性の句。恐妻家をあけすけに気取ることができるのも長年苦楽を共にし、信頼し合う夫婦だからだろう。ごちそうさまと申し上げたい

 今年は夫婦愛をテーマにした応募作が増えて、全体の1割近くを占めたという。紹介したような“婦唱夫随”ネタも、裏を返せば愛情表現と見なしてカウントされている。「不況もあってか、頼りになるのはやはり配偶者、という雰囲気が強まっているのかも」とは主催者の分析だ

 100歳以上の高齢者が、今年初めて4万人を超えた。2人合わせて204歳になる夫婦もおられるという。その域までは達しなくとも、共に80代や90代で、元気かつ仲良い夫婦は珍しくない。あやかりたいものである

 〈五十年かかって鍋と蓋(ふた)が合う〉と詠んだのは秋田県に住む76歳男性。これも自(じ)嘲(ちょう)しているんだか、のろけているんだか。末永くお幸せに。

 9月20日付 編集手帳 読売新聞
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9.22.2009

鬼は勘弁して「桃太郎」愚痴り、舞台から逃げていては何も始まらない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 学芸会で「桃太郎」の劇を演じようとしたら、どの親も「うちの子を主役に」と言う。困った先生は台本を書き直し、桃太郎が3人の桃太郎を連れて桃太郎ガ島に桃太郎退治に出かけた…という小話がある

 自民党総裁の役も以前は、「桃太郎」級の人気があった。野党に転じ、首相との“一人二役”が解かれた今はそうでもないらしい。麻生後継に本命視されていた面々が総裁選に出馬を見送ったのも、衆院選で退治されてしまった「鬼」の親玉役は勘弁してよ――ということだろう

 とはいえ、「桃太郎」と「鬼」の配役が容易に入れ替わるのが2大政党制、小選挙区制である。役を愚痴り、舞台から逃げていては何も始まらない。苦難覚悟で立候補した3氏には、何が敗因で、総裁としてどう変えるのか、明快に語ってもらおう

 江戸川柳に〈桃太郎 供のけんくわに困ってゐ〉とある。お供の犬と猿は犬猿の仲で、桃太郎はケンカに難儀しただろう、と。主義主張が微妙に違う人々の寄り合い所帯である民主党政権の結束も、盤石とはいえない

 悩み、もだえ、苦しむ中で「桃太郎」復帰への道も見えてくる。

 9月19日付 編集手帳 読売新聞
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9.21.2009

官僚の記者会見「脱・官僚主導」バッジをつけたつもりで物を言え・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 のちに首相も務める大物代議士の佐藤栄作氏が、ある案件をめぐり、満座のなかで当時自治省の財政局長、奥野誠亮(せいすけ)氏を叱(しか)りつけたという。「バッジをつけてから物を言え」

 当時、自治省の官房長だった後藤田正晴さんが回想録に書いている。いまで言う脱・官僚主導のひと幕だが、後藤田さんの判定では叱った佐藤氏の負けだという。〈バッジをつけてから物を言え、なんていうのは、理屈で負けたということですよ〉

 首相官邸が官僚の記者会見を禁止し、各省庁に通知した。議員バッジなき身は語るべからず、ということだろう

 世の人々が官僚の発言に、「大臣の話よりも筋が通って説得力があるわね」と感心すれば、鳩山政権は立つ瀬がない。官僚の口を封じ、国民の耳をふさいでおけば、理屈の負けは知られず済む…ということなのか、意義のよく分からない改革である

 官僚を拡声機の代わりに使いこなしてこその政治主導だろう。「バッジをつけてから物を言え」ではなく、「バッジをつけたつもりで物を言え」と、背中の一つも叩(たた)いて記者会見場に送り出す。そのくらいの器量がなくてどうする。

 9月18日付 編集手帳 読売新聞
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9.19.2009

衆院選を勝ち抜いた新人議員「初登院」恐れず、臆せず、国政の難問奇問に体当たり・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 “昭和の名人”、落語の六代目三遊亭円生さんは豊富な持ちネタで知られたが、火の番小屋を舞台にした噺(はなし)「二番煎(せん)じ」は高座に掛けなかったらしい

 父親の五代目が得意にし、逸品と評された。「親父(おやじ)のを聴いたら、とてもやれるものじゃありません」。そう語っていたと、親交の深かった京(きょう)須偕充(すともみつ)さんが落語全集の解説に書いている

 先人の優れた芸を身近に知る世代は怖くて手が出せない。若い世代は怖いもの知らずで手を出す。どの世界に限らず、若返りの効用とはそういうことだろう。先の衆院選を勝ち抜いた大量の新人議員がきょう、初登院する。恐れず、臆せず、国政の難問奇問に体当たりすればいい

 ひどい例もある。4年前、小泉自民党が大勝した衆院選の初当選組には、「料亭に行ってみたい。給料は2500万円、議員宿舎は3LDKですよ」とはしゃいだ新人君もいた。自民党政権が全焼した火元をたどれば、そのあたりのマッチ1本の不始末に行き着くのかも知れない

 民主党の小沢一郎新幹事長にはとくに火の番小屋でしっかり、いわゆる小沢チルドレンの火の用心にあたってもらおう。

 9月16日付 編集手帳 読売新聞
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9.18.2009

9年連続200安打の偉業、野球の面白さは本塁打だけでないことを、バットで語りつづける・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 努力と向上の人、ファウスト博士を評して悪魔メフィストが言う。〈あいつは天上の一番美しい星を取ろうとしているかと思えば、地上の一番ふかい楽しみをきわめようとする。そして近いものも遠いものも、あいつのわきかえる胸を満足させない〉

 ゲーテの戯曲「ファウスト」の一節は、この人のためにあったのかと思うときがある。マリナーズのイチロー選手(35)が大リーグ史上で初めての9年連続200安打の偉業を成し遂げた

 大リーグ年間最多安打(262本)といい、日米通算3000本安打といい、「天上の星」を手に入れて満ち足りた顔をすることもない。ほっと安堵(あんど)の色を見せるのがせいぜいで、それもつかの間のこと、気がつけば修験者のように次の山坂を歩き出している

 記録樹立の200安打目は足を生かした内野安打で飾った。野球の面白さは本塁打だけでないことを、バットで語りつづける人でもある。星のコレクションはまだまだ増えるに違いない

 今宵(こよい)もどこかの夜空の下、生まれたての美しい星を仰いでは“未来のイチロー”を夢みて、一心にバットを振る少年がいるだろう。

 9月15日付 編集手帳 読売新聞
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9.17.2009

「第64回国連総会」世界全体で取り組まなければ対応できない問題はいくつもある・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 ある年の国連総会で、ある国の外相が代表演説をしたが、悪いことに割りふられた時間が昼食時だった。会場にいたのは、さる国の外相一人だけ。信義の厚さに感激してお礼を述べると、「どういたしまして、私はあなたの次に演説するものですから」という答えが返ってきた

 「何ともひどい話だが」と、国連創設以来、長年にわたって事務局本部の要職を務めたアークハート元事務次長が回顧録で紹介している

 それほどではないにせよ、退屈な各国演説が続くだけの光景は、毎年のように繰り返されてきた。しかし間もなく開幕する第64回国連総会は少し様子が変わるかもしれない

 「チェンジ」を掲げるオバマ米大統領が初めて出席し、日本からも民主党の鳩山代表が新首相としてデビューを飾る。リビアからは最高指導者のカダフィ大佐もやってくる。核拡散や金融危機、地球温暖化、感染症、テロなど、世界全体で取り組まなければ対応できない問題はいくつもある

 その解決を図りたいという意思は、どの国も持っているだろう。いかに合意し、具体化していくのか。各国首脳の口からそこを聞きたい。

 9月14日付 編集手帳 読売新聞
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9.16.2009

「国家戦略局」と「行政刷新会議」中身がきちんと伴うなら、いずれ違和感は消える・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 昔から新しい行政組織ができる際には、名前をめぐって議論があった。1937年(昭和12年)に厚生省の新設が決まった時も、当時の紙面が様々に報じている

 最初の名称案は「保健社会省」だったが、枢密院が「社会の字句は不穏当」と異を唱えた。戦前は「社会」という単語に思想的な印象を持つ人もいたらしい。結局、書経にある「厚生」の語を冠した案に替えられたが、これも「中国の江西省と間違われそうだ」と心配されたようである

 略称がまた厄介だ。現在の中央省庁も8年前の再編時に「国交省では外務省と混同する」「ケイサン省はお金の計算をする役所か」などと揶揄(やゆ)されて、定着するまで少々時間を要した

 鳩山政権は「国家戦略局」と「行政刷新会議」を新設するという。フルネームはまあいいとしても、国家戦略担当大臣は「国戦相」だと少し物騒じゃないかしら、行政刷新担当大臣が「行刷相」では文書印刷が所管のような…

 などと余計な心配が思い浮かぶところに、いよいよ新政権発足近しを実感する。新たな組織の名も、中身がきちんと伴うなら、いずれ違和感は消えるだろう。

 9月13日付 編集手帳 読売新聞
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9.15.2009

「モモ」緊密な連携が馴れ合いに堕するならば人心は離れていく・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 ミヒャエル・エンデの童話「モモ」に、人間の世界から時間を盗み取る秘密結社が登場する。少女モモが〈灰色の男たち〉と呼ばれる時間泥棒に戦いを挑む物語である

 農水省の「ヤミ専従」問題も、時間泥棒の物語であることに変わりはない。正規の勤務時間を盗み取って組合活動に充て、前秘書課長が偽造文書まで用いて実態を隠す労使馴(な)れ合いの秘密結社ぶりは、世間を驚かせた

 石破茂農相は刑事告発を見送るという。形の上では第三者委員会の意見を尊重したものだが、〈灰色の男たち〉がクロかシロかを判断するのは司法であり、「すでに処分を受けている」と農水省が情状を酌量するのは筋違いだろう。社会保険庁のヤミ専従を告発した厚生労働省に比べ、身内に甘い体質が透けて見える

 官僚をやみくもに敵視するのではなく、上手に使いこなすのが政治の仕事だが、緊密な連携が馴れ合いに堕するならば人心は離れていく。自民党が衆院選に惨敗した一因もそこにあろう

 労働組合をも支持勢力にもつ民主党政権がまもなく発足する。自民党政治の置き土産が「モモになれますか?」と問うている。

 9月12日付 編集手帳 読売新聞
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9.14.2009

身銭と公金の境目をわきまえて「廉吏」私欲のない正直な役人、遠くなりにけり・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 ある高等学校が入試の出題で「廉吏」の意味を問うたところ、「安月給の官吏」という解答が複数あった。最近のことではなく、詩人土井晩翠が1934年(昭和9年)に出版した随筆集「雨の降る日は天気が悪い」の一節である

 漢語が日常の身近にあった当時でもそうならば、「清廉」「廉直」よりも「廉売」「廉価」になじみの深い昨今の誤答率は、おそらく昔の比ではなかろう

 私欲のない正直な役人、正答の「廉吏」は遠くなりにけり。税金で卓球台やゲーム機などを買い、裏金をため込み、千葉県で発覚した不正経理は30億円にのぼるという

 “預け”と称する手口は納入業者に物品を架空発注し、代金を業者の口座にプールする。業者に見返りも与えずに不正の片棒をかつがせるとは、普通は考えにくい。汚職の苗床を見せられたような不潔感がつきまとう

 漢和辞典によれば「廉」には「境目」の意味がある。善悪の境目をわきまえて「清廉」、暴利との境目をわきまえて「廉価」になるらしい。身銭と公金の境目をわきまえて「廉吏」…と、いまさら社会人のイロハを説かねばならぬ馬鹿(ばか)らしさよ。

 9月11日付 編集手帳 読売新聞
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9.13.2009

温室効果ガス「25%削減」高速道路「無料化」公約分析計があれば・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 最新型の体重計は「増加傾向にお気をつけください」等々、音声でアドバイスをくれる。うれしい言葉が聞けるかしらと、わくわくして乗ったご婦人に音声が告げていわく、「一人ずつ乗ってください」

 早坂隆さん「続・世界の日本人ジョーク集」(中公ラクレ)の一節だが、太めの身にはつらい“食欲の秋”である。好きな物を腹いっぱい食べ、しかも見違えるようにやせる方法を、あの人ならばご存じかも知れない

 民主党は新政権のもとで高速道路を無料化すると約束している。その便利さ、快適さを存分に召し上がれ、と

 車がサッ到して渋滞になれば、満腹のツケは二酸化炭素排出量の増加という形で回ってくるはずだが、鳩山由紀夫代表は一方で、温室効果ガスを「2020年までに1990年比25%削減する」目標を言明してもいる。まもなく首相になる人に、減量の秘策を教わりたいものである

 「無料化」と「25%削減」をよその国の人が聞けば別々の政党の、別々の党首が話した言葉と思うだろう。体重計ならぬ公約分析計があれば、「一人ずつ話してください」と音声が告げてもおかしくない。

 9月10日付 編集手帳 読売新聞
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9.12.2009

少数会派「下駄」踏まれても、基本政策をも左右する・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 西條八十が美空ひばりさんのために書いた「江戸っ子寿司(ずし)」の4番は、朝の買い出しを歌う。〈いそぐ魚河岸 霧の中 その海老(えび) ゲタメで売らねえか…〉。下駄(げた)の穴三つを目にたとえ、「ゲタメ」は3のつく数字を指す符丁という

 連立政権を語るとき、しばしば下駄が引き合いに出される。自公政権下の公明党はときに、(自民党に踏まれてもついていく)「下駄の雪」と揶揄(やゆ)され、「われわれは下駄の雪ではなく鼻緒だ」と抗弁したこともある

 鳩山次期政権の基盤を固めるべく、民主、社民、国民新、“ゲタメ”3党の連立協議が大詰めを迎えている

 衆院選の獲得議席は民主308に対し、社民7、国民新3である。少数会派の両党が「雪」では気の毒だが、さりとて外交や安全保障といった基本政策をも左右する「鼻緒」になるようなら、有権者の示した民意にそむくことになろう。鳩山さんの下駄の履きようを見守るとする

 下駄が民主党ならば、草鞋(わらじ)は自民党である。政権に別れを告げ、野党の「草鞋を履く=旅に出る」刻限は迫れども、先導する人の影さえ見えてこない。旅の前途が案じられる。

 9月9日付 編集手帳 読売新聞
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9.11.2009

メジャー球界になくてはならない「千両役者」祝福の拍手に包まれた・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 歌舞伎の六代目尾上菊五郎は語ったという。〈その役者に悪評を下せば、その劇評家が笑われるような役者になることだ〉と。永六輔さんが「役者その世界」(岩波書店)に書き留めている

 俳優に限らず、筋の通らない酷評や、いわれのない反感を身に浴びることは、誰にでも経験がある。雑音は技芸を磨いてねじ伏せろ、という六代目の教えは、いつの世にも通じるだろう

 米国オークランドでの対アスレチックス戦で、マリナーズのイチロー選手がメジャー通算2000本目の安打を放った。“敵地”観客席の惜しみない祝福の拍手に包まれたという。渡米まもない8年前の春はそうではなかった

 どういう反感でか、打席のたびにブーイングを浴び、守備中にコインやアイスクリームを投げられた同じ場所である。その選手に不作法な接し方をすれば、観客のほうが笑われる――バットで、肩で、足で、メジャー球界になくてはならない「千両役者」となった証しだろう。自身の記録に冷静なその人も、感慨ひとしおであったに違いない

 記録の舞台に場所を選ぶ。野球の神様も味な演出をするものである。

 9月8日付 編集手帳 読売新聞
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9.10.2009

どのような理想を掲げるにせよ、国際情勢を見誤れば国を危うくする・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 若き貴族院議員の近衛文麿が中国の革命家、孫文から激励を受けたというエピソードがある。第1次世界大戦後のパリ講和会議に向かう日本全権団の随員として、近衛が寄港地の上海に立ち寄った時のことだった

 近衛は当時、英米両国が唱える平和主義は「持てる国」の利益を正当化するものだと批判する雑誌論文を発表していた。孫文はその英訳を読み、深い感銘を受けたという

 英米と距離を置くべきだとする論文の主張は20年後に、近衛内閣の東亜新秩序構想として形をなす。しかし、英米を頼る中国・蒋介石政権との溝は深まり、日中戦争は泥沼化していった

 民主党の鳩山代表の論文が米国内で波紋を広げている。米国の「覇権」が衰える中で東アジア統合が重要になるといった主張が、反米的と受け止められた。米国では全文が伝えられておらず、鳩山代表としては不本意だったにちがいない

 だが、「脱米入亜」の方向を模索しているとも読める点で鳩山論文は近衛論文と似通っている。どのような理想を掲げるにせよ、国際情勢を見誤れば国を危うくする。そうした歴史の教訓を忘れてはなるまい。

 9月7日付 編集手帳 読売新聞
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9.09.2009

「新旧政権」流れるようなバトンパスは無理でも、せめて落とさないで・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 今年は1993年と似ている点が多いようだ。16年前も日米で政権交代があった。日本では自民党から細川連立内閣に、米国でも共和党から民主党に政権が移った。夏は日照不足の冷夏。政府が6月に景気底打ちを宣言したのも同じだ

 底打ちの実感の乏しさも同様で、翌94年の流行語大賞で入賞した経済用語は「就職氷河期」と「価格破壊」の二つ。世間は景気の肌寒さを感じていたのに、政治の感度が鈍く、その後の大不況を防げなかった

 今年は戦後最悪の失業率と2%を超える物価下落が、デフレ警報を発している。新旧政権には、経済政策のバトンを上手につないでほしいが、ぎくしゃくしている

 総選挙の敗北後、現職3閣僚が金融や通商交渉の重要な国際会議を欠席した。最後まで全力で走らず、バトンを放り投げるチームを有権者は次も選びたくないと思わないか。これから走る新政権は、やっと閣僚の顔ぶれが固まってきたが、しっかり助走してバトンを受け取らないと、政策がスピードダウンしそうで心配だ

 日本陸上チームの流れるようなバトンパスは無理でも、せめて落とさないで、と祈る。

 9月6日付 編集手帳 読売新聞
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9.05.2009

「思い出」盗む悲しみと、殴られる痛みと、肩を落とした両親の後ろ姿と、・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 子供の泥棒が捕まって、親が呼び出された。「注意しなければ、駄目じゃないか」「注意をするんですが、奴(やつ)がドジなもので…」。以前、寄席で聞いた小話である

 笑いは、緊張がほどけた瞬間に生まれるという。「子供が捕まる」という緊張が、「じつは親が指図していた」という“ありえない展開”で緩和され、笑うことができる…いや、できた

 兵庫県明石市で、小学5年の長男(11)に10キロ入りのコメ袋などを万引きさせた派遣社員の父親(33)と、同居している元妻(31)が窃盗容疑で逮捕された。小話はもう笑えない

 父親は2年前から、「小学生は捕まらない。捕まったら、お金を落としたと言え」と教えていた。「いやだったけれど、お父さんに殴られるのが怖くてやった」。長男はそう話している

 子供に残せるのは思い出だけだ――「長崎の鐘」の永井隆博士が病床でつづった、いつの世、どこの親にも通じる言葉である。〈美しい、潔い、ゆかしい思い出をのこしてやりたい〉(「この子を残して」)。盗む悲しみと、殴られる痛みと、肩を落とした両親の後ろ姿と、そんな思い出を残してどうする。

 9月5日付 編集手帳 読売新聞
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9.04.2009

無駄な公共事業「ダム」税金の無駄をなくすはずが・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 製薬会社の副工場長は肩書の「副」が不満で、その字を呪(のろ)うほど嫌っていた。ある日、新薬に添付する説明書の草稿に目を通してほしいと秘書に言われ、内容にかまわず「副」の字を削った。刷り上がった説明書にいわく、〈本薬はいかなる作用もありません〉

 相原茂さんのジョーク集「笑う中国人」(文春新書)にある。どういう言葉もやみくもに目の敵にしていれば、ときに策を誤る。「ダム」も、そうだろう

 無駄な公共事業の代表格として評判の悪いダムにも、例外がないではない。国土交通省が群馬県に建設中の八ッ場(やんば)ダムは、流域の1都5県が利水・治水の要として完成を待ちかねている

 建設中止を公約に衆院選を戦った民主党には思案のしどころだろう。工事継続を新政権が検討しても、メンツにこだわらない「変化」を有権者は褒めこそすれ、「変節」とはみなすまい

 工事を中止すればしたで、支出済みの自治体負担分は国が返還しなくてはならず、国庫は相当に傷む。税金の無駄をなくすはずが、あとあと、〈本改革はいかなる作用もありません〉でした…と説明書が付くようでもいけない。

 9月4日付 編集手帳 読売新聞
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9.03.2009

駆け込み「天下り」政権交代を後押ししたのは官僚不信の猛火・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 その昔、東京・浅草に味(み)噌(そ)を商う店があり、いまで言えばシャッターにあたる大戸をいつも半開きにして営業していた。中は薄暗く、店側も客も不自由したことだろう

 先代のときに火事を出し、息子に店を譲ったあとも、息子一代の間は謹慎の心をこめて半開きの営業をつづけさせたのだという。劇作家の高田保が「火の用心」という随筆に書いている

 政権交代を後押ししたのは官僚不信の猛火であり、火元をたどれば年金の社会保険庁とともに事故米の農水省に行き当たる。業者の不正を告げる情報を握りながら大甘の検査で見過ごした無気力な仕事ぶりに、あきれた方は多かろう

 昨年9月に引責辞任した農水省の前次官が、省所管の社団法人会長に就任した。味噌屋さんを見習えとは言わないが、謹慎の心はどこへやら、民主党政権が発足する前に駆け込みで天下りとは、もらい火で焼け落ちた自民党もなめられたものである

 戯(ざ)れ唄(うた)に〈小言聞くときゃ頭をお下げ 下げりゃ意見が通り越す〉とある。通り越したと読んだのであれば了見違いだろう。霞が関の受ける荒療治がもっと手荒くなるだけである。

 9月3日付 編集手帳 読売新聞
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9.02.2009

首相指名選挙「征途の感」国のためにするべきこと・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 流罪に等しい左遷の処分を受けた人にして、この気魄(きはく)はどうだろう。アヘンの害毒を除くべく果敢な措置を講じたことを逆に咎(とが)められ、清国皇帝から大臣の職を解任された林則徐(りんそくじょ)は、任地・新疆に向かう旅で詩を残している

 〈我の来たるは別に征途の感あり/衰齢の為(ため)に賜環(しかん)をのぞまず〉。「賜環」とは罪を許されることを言う。失意の旅ではなく、国のために新しい戦場へ赴くような心地がする。老齢を理由に赦免など望みはしない、と

 するべきことをして皇帝に嫌われたその人と、するべきことをしないで有権者に嫌われた自民党と、左遷の経緯は似ても似つかないが、せめて旅立つ心組みぐらいは似せてほしいものである

 自民党は総裁選を今月末に先送りするという。特別国会の首相指名選挙では、辞意を表明している現総裁の麻生首相を形ばかり推挙するつもりらしい。あれこれ理由はつけても、歴史的惨敗の放心状態が少し薄れるまでは、新しい戦場に出向くのは勘弁して――ということだろう

 この期に及んで麻生さんに1票を投じる集団に、「征途の感」はどうやら無い物ねだりのようである。

 9月2日付 編集手帳 読売新聞
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9.01.2009

新人143人「チルドレン」世間にしっかり顔を見せ、声を聞かせて欲しい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈逢(あ)いたくて 逢いたくて/星空に呼んでみるのだけど…〉。小沢一郎さんに恋慕の情は抱いてはいないが、衆院選で民主党を歴史的な大勝利に導いたお祝いに、昔、園まりさんの歌った「逢いたくて逢いたくて」を贈る

 民主党の当選議員308人のなかには新人が143人いる。その多くが小沢代表代行(選挙担当)の手で公認候補に選ばれ、資金と戦術を授けられた、いわば“小沢チルドレン”である

 すでにして党内最大勢力の小沢グループがさらに膨張するのは確かで、首相のいすに座る鳩山由紀夫代表も小沢氏の意に反する政権運営はむずかしかろう

 現在の代表代行職には定例の記者会見をひらく義務もない。党内はおろか国政をも動かせる「数」を握った人には閣内であれ、閣外であれ、世間にしっかり顔を見せ、声を聞かせるポストに就いてもらうとしよう。「逢いたくて逢いたくて」である

 万が一にも二重権力だ、黒幕だ、闇将軍だといった風評を招いては、民主党自慢の透明度に曇りが生じる。「逢いたくて…」の詞を借りれば、1票を託した人々も〈せつなくて涙がでてきちゃう〉だろう。

 9月1日付 編集手帳 読売新聞
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