9.15.2009

「モモ」緊密な連携が馴れ合いに堕するならば人心は離れていく・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 ミヒャエル・エンデの童話「モモ」に、人間の世界から時間を盗み取る秘密結社が登場する。少女モモが〈灰色の男たち〉と呼ばれる時間泥棒に戦いを挑む物語である

 農水省の「ヤミ専従」問題も、時間泥棒の物語であることに変わりはない。正規の勤務時間を盗み取って組合活動に充て、前秘書課長が偽造文書まで用いて実態を隠す労使馴(な)れ合いの秘密結社ぶりは、世間を驚かせた

 石破茂農相は刑事告発を見送るという。形の上では第三者委員会の意見を尊重したものだが、〈灰色の男たち〉がクロかシロかを判断するのは司法であり、「すでに処分を受けている」と農水省が情状を酌量するのは筋違いだろう。社会保険庁のヤミ専従を告発した厚生労働省に比べ、身内に甘い体質が透けて見える

 官僚をやみくもに敵視するのではなく、上手に使いこなすのが政治の仕事だが、緊密な連携が馴れ合いに堕するならば人心は離れていく。自民党が衆院選に惨敗した一因もそこにあろう

 労働組合をも支持勢力にもつ民主党政権がまもなく発足する。自民党政治の置き土産が「モモになれますか?」と問うている。

 9月12日付 編集手帳 読売新聞
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