若き貴族院議員の近衛文麿が中国の革命家、孫文から激励を受けたというエピソードがある。第1次世界大戦後のパリ講和会議に向かう日本全権団の随員として、近衛が寄港地の上海に立ち寄った時のことだった
近衛は当時、英米両国が唱える平和主義は「持てる国」の利益を正当化するものだと批判する雑誌論文を発表していた。孫文はその英訳を読み、深い感銘を受けたという
英米と距離を置くべきだとする論文の主張は20年後に、近衛内閣の東亜新秩序構想として形をなす。しかし、英米を頼る中国・蒋介石政権との溝は深まり、日中戦争は泥沼化していった
民主党の鳩山代表の論文が米国内で波紋を広げている。米国の「覇権」が衰える中で東アジア統合が重要になるといった主張が、反米的と受け止められた。米国では全文が伝えられておらず、鳩山代表としては不本意だったにちがいない
だが、「脱米入亜」の方向を模索しているとも読める点で鳩山論文は近衛論文と似通っている。どのような理想を掲げるにせよ、国際情勢を見誤れば国を危うくする。そうした歴史の教訓を忘れてはなるまい。
9月7日付 編集手帳 読売新聞
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