12.30.2009

「君は君 我は我なり されど仲良き」言い分が対立しても、友好の絆は保つ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 武者小路実篤が好んで色紙に書いた言葉に、〈君は君 我は我なり されど仲良き〉がある。人づきあいはかくあるべし、という人生の知恵だが、外交、とりわけ領土がからむ外交の要諦(ようてい)にも通じる

 「君」の主張には耳を傾けるが、「我」の主張は譲らない。言い分が対立しても、友好の絆(きずな)は保つ――それが外交だろう。鳩山政権の「我」が心もとない

 文部科学省が高校地理の新学習指導要領の解説書で、日本の領土である「竹島」に言及しなかった。領有権を主張する韓国世論に遠慮したか、鳩山首相の最終的な判断にもとづくという

 竹島に限らず、中国との尖閣諸島もロシアとの北方領土も、静止しているように見えてじつは、ぴんと張った綱引きの“綱の静止”にすぎない。「我」の声を少しでも手控えたらどうなるかは、綱引きで綱を握る手を緩めた時を想像してみればいい

 対米関係がぎくしゃくしている今、東アジア諸国と友情を深めて外交の得点を稼ぎたい思惑も分からぬではない。特例会見や領土を手みやげにして友情を乞(こ)うことはよもやあるまいとは思うが、念のためにクギを刺しておく。

 12月26日付 編集手帳 読売新聞
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12.29.2009

格差是正の先頭に立つべき人が、格差の象徴になってしまったところが情けない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 落語は冬の噺(はなし)に名作が多い――立川談春さんが著書「赤めだか」に書いている。〈寒さはビン乏を際立たせ、共感させ、少々無理なシチュエーション(場面設定)までをも納得させる力を持っているからだろう〉と

 『芝浜』『夢金』『富久』…金銭を軸に物語の運ぶ冬の噺が幾つか思い浮かぶ。冬はヒン富というものに目が向く季節である

 昼食代を50円節約するのに苦心している人から見れば、母親から12億円もらったのを「知らなかった」人は別世界の住人だろう。格差是正の先頭に立つべき人が、格差の象徴になってしまったところが情けない

 談春さんの著書のタイトル「赤めだか」とは、師匠の談志さんが飼っている金魚のことだという。餌をやっても、いっこうに成長しない。弟子たちいわく、「これは金魚じゃない、赤いメダカだろう」。師匠を金魚に、その芸域に近づけぬ自分たちをメダカに喩(たと)えての表題らしい

 名のある金魚の孫という触れ込みが、金銭音痴ぶり、外交音痴ぶりが暴露され、赤めだか説もちらほら聞こえてくる。同じ金魚鉢のピラニアに食べられてしまわないか、心配である。

 12月25日付 編集手帳 読売新聞
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12.25.2009

「国際的地位は未定」大陸へ大陸へとなびいている・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「アイサツ」「カンジョウ(勘定)」「マゼマゼ(混ぜ混ぜ)」―台湾で今も使われている日本語の一部だ。戦後64年を経ても、台湾では日本文化が息づいている

 台北に住む日本人の旅行作家、片倉佳史さん(40)が、島内各地で拾い集めた台湾語など地元の言葉になった日本語を紹介した『台湾に生きている「日本」』(祥伝社新書)を読むと、その豊富さに改めて驚かされる

 台湾の親日家として知られる蔡焜燦(さいこんさん)さん(82)は、昭和10年に小学校で使った神話や唱歌を載せた副読本を私費で復刻し、日本人に配っている。台北で会った蔡さんに「皇后さまの誕生日を言えますか」と問われ、詰まってしまった

 そんな台湾も親中国の馬英九・国民党政権が誕生してから、徐々に状況が変化している。最近、日本の対台湾窓口機関の台北駐在代表(大使)が「台湾の国際的地位は未定」と語ったことがもとで当局から嫌われ、辞任に追い込まれた

 馬政権は昇竜・中国との経済協力枠組み協定の調印を目指すなど、大陸へ大陸へとなびいている。台湾の親日家が肩身の狭い思いをする日が、再び来るのかもしれない。

 12月21日付 編集手帳 読売新聞
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12.19.2009

迎える賓客に、“真ん中の国”も“隅っこの国”もない、けど・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 東洋大学が今年1月に発表した「現代学生百人一首」に、忘れがたい歌がある。〈神様は誰も隅っこに行かせないように地球を丸くしたんだ〉(沖縄県立小禄高校 高橋秀)

 迎える賓客に、“真ん中の国”も“隅っこの国”もない。1か月前までに申請があれば、国の大小や政治的な重要度で差別はしない。天皇陛下と外国要人の会見で守られてきたルールには、歌の心に通じるものがある

 中国の習近平・国家副主席の場合はルールを逸脱した申請にもかかわらず、鳩山首相が宮内庁に会見実現を強く指示した。「本当に大事な方」ゆえの特例と、首相は語っている

 外国からの賓客にルール無用の「本当に大事な方」と、ルールを厳守してもらう「あまり大事でない方」があるならば、後者の国名を一つでも二つでも挙げてみよ――そう問われたら、首相は答えに窮するだろう。ルールを曲げてまで中国政府に便宜を図ることで生じたその問いは、これまで公平を旨として公務にあたられてきた天皇陛下にとってもつらいものに違いない

 お隣の国である。今回の会見は見送り、改めてお招きすればいいだろう。

 12月15日付 編集手帳 読売新聞
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12.09.2009

紙切れ「デノミネーション」通貨政策も人々を搾る「締め木」になる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 1万円札を1枚刷るのにかかる費用は17円ほどという。取材したのは十数年前だが、現在もそう変わってはいまい。いわば紙切れが紙幣としての価値をもつのは、政府に寄せる信頼があればこそである

 〈一ひらの紙の黄金に代れるも誠ある世のしるしなりけり 林信立〉(石井研堂「明治事物起原」より)。明治政府の財務官僚が詠んだ歌にある「誠」とは、発行する政府と国民の間に成り立つ信頼関係のことだろう

 北朝鮮が抜き打ちでデノミネーション(通貨単位の切り下げ)を実施した。旧100ウォンは新1ウォンと交換される

 1人あたりの交換額は制限され、「タンス預金」の多くは紙くずになる。インフレ抑止と不正蓄財のあぶり出しが狙いというが、生活防衛の“虎の子”を強奪された国民が政府に信頼の「誠」を寄せるはずもない。デノミ実施後も北朝鮮ウォンの威信が回復することはないだろう

 無慈悲な為政者の手にかかれば、通貨政策も人々を搾る「締め木」になる。食料や医薬品の確保に充てられるべき金は弾道ミサイルに姿を変えている。国家に名を借りた拷問部屋が、海を隔ててそこにある。

 12月4日付 編集手帳 読売新聞
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12.07.2009

名月や銭金いはぬ世が恋し「金」がうごめく永田町は別世界・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 拾ってきた財布の中身を亭主がぶちまける。二分金で50両、女房が驚いて言う。「お前さん、これは銭じゃないよ。金(かね)じゃないか」。落語『芝浜』である。クスグリと勘違いして笑う客もいるという

 随筆家、京須偕充(きょうすともみつ)さんの著書「みんな芸の虫」(青蛙房)によれば、江戸の昔は金(両、分、朱)と銭(貫、文)の区別があり、女房は事実を述べたまでで、笑うところではないという

 金と銭の区別がない現代は…と書きかけて、ためらうものがある。昼食で50円、100円の「銭」を節約するのに苦心している人から見れば、偽装献金でケタの違う「金」がうごめく永田町は別世界かも知れない

 大阪のたこ焼き店が従業員にボーナスの一部を10円玉で支給した、という記事をヨミウリ・オンラインで読んだ。「不況で厳しいぶん、せめて重みだけでも」というシャレを利かせた話題づくりというが、時節柄、“銭派”の庶民が“金派”の政界を風刺した図と映らなくもない

 デフレに円高と、いつになく金銭のことが脳裏にちらつく師走である。今宵(こよい)は満月、〈名月や銭金(ぜにかね)いはぬ世が恋し〉の古句が心にしみる。

 12月2日付 編集手帳 読売新聞
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12.04.2009

党名変更を求める声、名前からまず嫌がられて話を聞いてもらえない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈アキノ政権で与党だった「フィリピン民主の闘い」(LDP)が党名変更を決めた。略称が日本の自由民主党(リベラル・デモクラティック・パーティー)と同じで印象が悪いとの声が強まったため〉

 今の話ではない。1992年末、マニラ発の外電記事だ。当時、ヤミ献金事件などに端を発した自民党の退潮ぶりが海外でも大きく報じられていた。政権交代の前夜である

 この不名誉なニュースに自民党幹部はどう反応したのか、残念ながら続報が見あたらない。たぶん苦笑いするしかなかっただろう。翌年に下野が現実のものになると、当の自民党内からも一時、出直しのために党名変更を求める声が出ている

 同じような状況を迎えて今、自民党は再び党名見直しを検討するそうだ。「名前からまず嫌がられて有権者に話を聞いてもらえない」というのが現状らしい。何とも涙を誘う話である

 本当に看板を変えるなら、目指す方向を明確に示す斬新な党名がよろしかろう。それからさて、英語表記はどうなりますか。略称が一致する外国の政党から、また迷惑顔をされることなど努々(ゆめゆめ)ありませぬように。

 11月29日付 編集手帳 読売新聞
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12.03.2009

鬱陶しい雨「フルかなァ」雨がいつあがるかに世の関心は集まりつつある・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 作家の獅子文六に、元実業家の伯父さんが心配そうな顔で「フルかなァ」と言った。雨のことかと思って聞き返すと、「いや、インフルか、フラんかということさ」、そう答えたと『へなへな随筆』(文芸春秋新社)に書いている

 戦前、昭和10年代の話という。お金の価値が下がり、物の値段が上がるインフレにはどこか燃え上がるイメージがあり、鬱陶(うっとう)しい雨はむしろデフレだろう

 政府は日本経済がデフレ状態にあることを公式に認めている。「デフルか、デフラんか」の時はすでに過ぎ、雨がいつあがるかに世の関心は集まりつつある

 デフレはローンを抱えた人たちを鞭(むち)打つ。お金の価値が低いときにこしらえた借金を、価値の高いお金で返済しなくてはならないからである。公共事業を削ることに熱心な鳩山内閣だが、一時的には志と逆向きに、舟でいえばデフレ退治の“逆櫓(さかろ)”を漕(こ)ぐ判断も必要になるだろう

 ミゼラブル(悲惨な)という英単語を見て、ミゾレフル――霙(みぞれ)の降る冬の情景を思い浮かべたのは徳富蘆花『思出の記』の主人公だった。デフレの雨も、無策がつづけば冷たいミゾレに変わる。

 11月28日付 編集手帳 読売新聞
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12.02.2009

息子もいろいろ「前略おふくろ様」私の知らないところで何が行われていたのか・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 東京で板前をしている三郎(萩原健一)が、郷里の母親に手紙を書いている。ボーナスから三万円を送ります――書きかけて、しばし思案に沈み、決然と「三」に縦棒2本を足して「五」に増額した…

 往年の人気テレビドラマ『前略おふくろ様』のひとこまである。30年も昔に放送された一場面が記憶に残っているのは、ほどなくして社会に出て、同じ思案を経験したせいかも知れない

 金融危機の余燼(よじん)にデフレと円高が重なり、冬のボーナスは業種を問わず、どこも厳しいという。母の顔を思い浮かべつつ明細を睨(にら)んでは、心のなかで「三」に縦棒を足したり消したりしている方もあろう

 そうかと思えば、母親に送るどころか逆に、母親から多額のお金をもらい、「私の知らないところで何が行われていたのか」と、ひとごとのように語る息子もいる。ポケットに紛れ込んだ10円玉ではあるまいし、5年間で9億円の入金に、どうすれば気づかずにいられるのだろう

 「三」万円の縦棒に悩んだ三郎君から見れば夢のような、というべきか、嘘(うそ)のような、というべきか。息子もいろいろ、世間は広いものである。

 11月27日付 編集手帳 読売新聞
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