12.30.2009

「君は君 我は我なり されど仲良き」言い分が対立しても、友好の絆は保つ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 武者小路実篤が好んで色紙に書いた言葉に、〈君は君 我は我なり されど仲良き〉がある。人づきあいはかくあるべし、という人生の知恵だが、外交、とりわけ領土がからむ外交の要諦(ようてい)にも通じる

 「君」の主張には耳を傾けるが、「我」の主張は譲らない。言い分が対立しても、友好の絆(きずな)は保つ――それが外交だろう。鳩山政権の「我」が心もとない

 文部科学省が高校地理の新学習指導要領の解説書で、日本の領土である「竹島」に言及しなかった。領有権を主張する韓国世論に遠慮したか、鳩山首相の最終的な判断にもとづくという

 竹島に限らず、中国との尖閣諸島もロシアとの北方領土も、静止しているように見えてじつは、ぴんと張った綱引きの“綱の静止”にすぎない。「我」の声を少しでも手控えたらどうなるかは、綱引きで綱を握る手を緩めた時を想像してみればいい

 対米関係がぎくしゃくしている今、東アジア諸国と友情を深めて外交の得点を稼ぎたい思惑も分からぬではない。特例会見や領土を手みやげにして友情を乞(こ)うことはよもやあるまいとは思うが、念のためにクギを刺しておく。

 12月26日付 編集手帳 読売新聞
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