6.30.2009

時代を画した新開発の象徴「ウォークマン」30年が過ぎ、山あり、谷あり・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 マイクル・クライトンの空想科学小説「ジュラシック・パーク」はご存じの通り、“恐竜動物園”の物語である。その一節に、「ソニーのウォークマン」が登場する

 バイオテクノロジー(生命工学)の米欧企業が娯楽・レジャー分野の開拓競争にしのぎを削り、「(そうした企業は)“ソニーのウォークマンに相当するバイオ製品は何か?”と問いかけた」(ハヤカワ文庫)とある

 問いかけて得た答えが恐竜動物園であり、携帯音楽プレーヤー「ソニーのウォークマン」は時代を画した新開発の象徴として語られている。発売は1979年(昭和54年)の7月1日、あすで満30歳を迎える

 〈朝、僕は定期券とステレオをポケットに入れて家を出た〉。刺激に満ちた当時の広告コピーは30年が過ぎ、どこの家庭でも見られる普通の光景になった

 慧眼(けいがん)の作家から画期的新製品のお墨付きを得た「ウォークマン」も、だが今は、パソコンを用いて自宅の音楽コレクションを丸ごと持ち運べる米アップルの「iPod」に抜かれて、追う立場にいる。三十路の坂に至る道は人生と同じく、山あり、谷ありであるらしい。

 6月30日付 編集手帳 読売新聞
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6.29.2009

「実学と教養とのバランス」人間の深い洞察力は古典教養を通じてこそ培われる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 17世紀の恋愛小説「クレーヴの奥方」が、最近フランスで政治的抵抗のシンボルになっている。この作品についての設問が公務員試験に出題され、サルコジ大統領が、何の意味があるのかと疑問を呈したことが発端だった

古典や教養を重んじる知識人たちは強く異議を唱えた。大統領が進める成果主義を重視した大学改革への反発もあったようだ。学生や教員が各地で開いた抗議集会では、いわば“よろめき”を描いた「クレーヴの奥方」が朗読された

たたき上げから米国の鉄鋼王の地位を築き上げたカーネギーはその昔、大学でシェークスピアやホメロスを学ぶのは時間の浪費だと批判した。実学と教養とのバランスは、古くて新しいテーマでもある

経済学者の猪木武徳さんは、近著「大学の反省」(NTT出版)で本格的な教養教育の復活を提唱している。専門教育は重要だが、人間の深い洞察力は古典教養を通じてこそ培われるのだ、と

実用研究が奨励される最近の大学では、人文系の研究者が育たないとも憂える。思えば、日本が世界に誇る恋愛小説「源氏物語」も世界の人々を魅了しつづけている。

6月29日付 編集手帳 読売新聞
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6.28.2009

林芙美子「放浪記」市井に生きる人々に優しく接し、慕われていたらしい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 林芙美子の「放浪記」第三部は、読売新聞に送った詩が「長くて載せられぬ」との理由で送り返されてきた、と憤慨するくだりから始まる。大正期の無名時代だが、小紙ももったいないことをした

 それでもその後、読売新聞が依頼した仕事を快く引き受けてくれたようである。昭和の初めにパリ滞在記を書いたり、取材用飛行機のお披露目に上空からの眺めを連載したりもしている

 1951年(昭和26年)のきょう、47歳で急逝した。半生にもとづく「放浪記」が森光子さん主演の舞台で上演2000回を数えたことは、ご存じの通り 

 命日が男女共同参画週間(23~29日)に重なるのは偶然ながら、ふさわしい気もする。後進の女性作家の足を引っ張ったと批判され、葬儀では川端康成が「故人を許してやってください」とあいさつしているが、それほどにあの時代、男に伍(ご)していくのが容易でなかったのだろう

 貧乏を肌身に刻んだ苦労人は、市井に生きる人々に優しく接し、慕われていたらしい。近所のおかみさんが200人ほども、子供をおんぶし、あるいは買い物かごをさげて霊柩(れいきゅう)車を見送ったという。

 6月28日付 編集手帳 読売新聞
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6.27.2009

あまりに早すぎる「奇妙な錯覚」歌い踊るスーパースター・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 群馬県高崎市で5歳の幼稚園児が誘拐され、い体で見つかったのは1987年(昭和62年)の9月16日である

 テレビのニュースで聞き及んだのだろう。その5日後、来日していたマイケル・ジャクソンさんは兵庫県・西宮球場での公演で、この男の子のしを悼み、「できればご両親のもとに出向き、お悔やみの言葉をささげたい」と観衆に語っている

 宇宙から来た異星人のように歌い踊る若きスーパースターは当時29歳、社会面の短い記事を読み、優しい心に感じ入った覚えがある。奇行の噂(うわさ)と、醜聞と、孤独の影を身にまとうのは40代を迎えてである

 急逝の知らせを聞く。50歳という。〈人生でいちばん危険なことは、かなえられるはずのない夢が、かなえられてしまうことなんだよ…〉。富と名声を極め尽くし、傍目(はため)には生きていく愉(たの)しみを見つけあぐねて苦しんでいるようにも映った後半生を思うとき、ミヒャエル・エンデの童話「モモ」の一節が浮かぶ

 あまりに早すぎる――と書きかけて、ためらうものがある。痛ましいほどに長く生きてしまった人を見ているような、奇妙な錯覚が脳裏を去らない。

 6月27日付 編集手帳 読売新聞
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6.26.2009

「空騒ぎ」虫歯は一刻も早く治療し、健康な歯はさらに念を入れて磨く・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 シチリア島の町メッシーナの知事が言う。〈歯の痛みに耐えられた哲学者はいない〉と。シェークスピアの「空騒ぎ」第5幕のせりふだが、虫歯とは厄介なものである

 宮崎県の知事が言う。「私を総裁候補にするなら、衆院選に自民党から出馬してもいい」。要請した自民党も昔ならば苦笑いで済んだのだろうが、口じゅう虫歯だらけの今はその余裕もない。知事の浴びせた冷水一滴に「痛い、痛い」と跳び上がる

 党の血液(体質)を入れ替えよ、とも東国原英夫知事は述べている。人気ブランドの化粧水を買うつもりが、「その顔で? 整形して出直しておいで」と追い払われた。軽率な要請で恥をさらしたと、党内には責任論の波風も立つ

 日本郵政の社長人事をめぐる筋違いの裁き、後を絶たない官製談合、“アニメの殿堂”金117億円也(なり)に代表される意義のあいまいな支出…と、麻生政権の虫歯はいくつもあるが、外交政策や安全保障政策のようにまずまず丈夫な歯もないではない

 虫歯は一刻も早く治療し、健康な歯はさらに念を入れて磨く。戯曲の題名そのままの「空騒ぎ」が残した教訓だろう。

 6月26日付 編集手帳 読売新聞
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6.25.2009

50年前、1959年プロ野球で初の天覧試合・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 その日、球場職員が朝から総出で廊下をぴかぴかに磨き上げた。午後、宮内庁の下見があり、「磨きすぎだ」という。滑って危ない、と

 困った球場側は投手用のロージンバッグを大量に破り、粉を廊下に撒(ま)いたという挿話が残っている。プロ野球で初の天覧試合、巨人―阪神戦が後楽園球場で行われたのは50年前、1959年(昭和34年)の今夜である

 作家の今日出海(こんひでみ)さんが観戦記に綴(つづ)ったように、〈作家がいて筋書きを書いたよう〉な試合は、九回裏、長嶋茂雄選手が村山実投手からサヨナラ本塁打を放って巨人が劇的な勝利を収めた

 その年の4月にはいまの天皇、皇后両陛下のご成婚を祝い、5月には東京五輪開催決定の朗報を聞き、6月には平和の象徴でもある白球を追って列島が酔う。「磨きすぎ」のこぼれ話にも、浮き立つ世情がしのばれる

 長男の真司さん(46)によれば村山投手はその夜、宿舎に帰って恩賜のたばこを1本吸い、無念を紫煙にまぎらせた。生まれて初めて口にするたばこであったという。長嶋の華麗、村山の悲壮――筋書きのみならず、野球の神様は配役も見事というほかはない。

 6月25日付 編集手帳 読売新聞
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6.24.2009

幸せに暮らすか、枯れて落ちるか「道行き」の結末を書くのは有権者・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 柳家三亀松がよく高座で聴かせた都々逸がある。〈目から火の出る所帯を持てど/火事さえ出さなきゃ水入らず〉。家計は火の車でも水入らずだよ――と、のろけている

 芝居で駆け落ちの場面を「道行き」というが、都々逸のご両人は幸せになったようである。支持率に目から火を出しつつも、手に手を取って「社長続投」の道行きに旅立つ麻生太郎、西川善文両氏の場合はどうだろう

 「かんぽの宿」という国民共有の財産を二束三文で叩(たた)き売ろうとした日本郵政のでたらめを“未遂”で食い止め、その経営責任を厳しく問うた鳩山邦夫前総務相は大臣の職を追われている。対する西川社長は、30%・3か月の報酬返上で放免という

 推定3000万円の年収が200万円ほど減るだけの話で、国民の財産が粗末に扱われることは首相にとってその程度の不始末であるらしい。税金を納める側としては心強い限りである

 こういう都々逸もある。〈こぼれ松葉をあれ見やしゃんせ/枯れて落ちてもふたり連れ〉。水入らずで幸せに暮らすか、ともども枯れて落ちるか、道行きの結末に脚本を書くのは有権者である。

 6月24日付 編集手帳 読売新聞
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6.23.2009

人が考えることをとめだてはできん。ただし、声に出して考えないことだ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 結婚披露宴で司会者が、「ただいまから新婦は衣替えをいたします」と述べた話を、俳人の楠本憲吉さんが著書で紹介していた。「お色直し」の誤りだが、そういうこともあるかなと想像のつく言い間違いではある

 横山ノックさんがある喜劇人の法要で「私が黙祷(もくとう)の音頭をとりますので…」と挨拶(あいさつ)した話が、愉快な人柄のしのばれる挿話として残っている。黙祷に音頭は変だが、これもありそうな言い間違いで想像の範囲内だろう

 麻生首相が東京都議選の自民党候補を激励し、「必勝を期して」を「惜敗を期して」と言い間違えたという

 「赤飯で祝杯」を略してセキハイでもなし、こればかりは想像に余る。「総選挙は麻生首相で」と野党に人気の絶大な首相のこと、胸に秘めた弱気がうっかり口をついたのかも知れない

 言い間違えた翌日、首相は電子辞書を購入したそうだが、アリステア・マクリーンの海洋冒険小説「女王陛下のユリシーズ号」(早川書房)に辞書よりも役に立ちそうなせりふがあったので贈る。〈人が考えることをとめだてはできん。ただし、声に出して考えないことだ〉(村上博基訳)

 6月23日付 編集手帳 読売新聞
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6.22.2009

使えるうちに買い替え「エコひいき」ゴミの削減、中古品の再利用、資源のリサイクル・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 エアコンは10・3年、冷蔵庫は9・9年、カラーテレビは9・2年…という。2008年度に家電製品を買った家庭が、買い替え前の製品を使った年数である

 家電のいわば「寿命」だが、耐用年数とは違う。エアコンとテレビはほぼ2台に1台が、冷蔵庫も3台に1台がまだ使えるうちに買い替えられた。「寿命」は前年度より短くなって、今年度はさらに縮むかもしれない

 国がポイントを還元して省エネ家電への買い替えを促すエコポイント制度が始まった。省エネでいわゆる“環境に優しいエコロジー”を進める狙いだが、少々もったいない気もする

 江戸の人々は着古した浴衣をおしめ、ぞうきんに仕立て直し、最後はほぐして土壁の材料に混ぜた。徹底した使い切りには、ゴミのリデュース(削減)、中古品のリユース(再利用)、資源のリサイクルという「三つのR」の精神が生きていた。学ぶべき点が多い

 エコポイントやエコカーの購入補助には、消費を刺激して経済(エコノミー)を支える二つ目の「エコ」の顔もある。でも「R」と違って三つ目はない方がいい。特定業種の「エコひいき」は。

 6月22日付 編集手帳 読売新聞
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6.20.2009

ひそひそ話「雪隠演説」党内も公然とは追及しにくい空気・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「事務所」という言葉は鳩山和夫の発明という。1882年(明治15年)に法律事務所を開業したときのことであると、中国文学者、高島俊男さんのエッセー「披露宴、事務所ことはじめ」に教えられた

 和夫は一郎・元首相の父にあたる。政権奪取に向けて鼻息の荒い曽孫(ひまご)の由紀夫・民主党代表には、鳩山家ゆかりの言葉が頭痛の種になりそうな気配である

 検察側は冒頭陳述で、公共事業の落札業者を指名する“天の声”が「小沢事務所」から出ていたと主張した。西松建設から小沢一郎氏側に渡った違法献金を巡る裁判の初公判である。西松の落札分は4件59億円にのぼるという

 検察の言い分とはいえ、小沢氏は民主党代表代行の要職にある。言葉というものを蔑視(べっし)しているのか、身に降る火の粉を誠実な説明によって振り払おうともしない姿は異様である。党内も公然とは追及しにくい空気で、ひそひそ話がやっと、と聞く

 世相史の年表によれば、事務所第1号が生まれた年の流行語に「雪隠(せっちん)演説」がある。こそこそ交わす政談を指す。政権を目指す政党が、「事務所」疑惑で「雪隠演説」は情けない。

 6月20日付 編集手帳 読売新聞
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6.19.2009

「感受性のツノ」暗と明のあいだを振幅激しく揺れ惑う・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 北原白秋の詩「まいまいつぶろ」は、生まれたばかりのカタツムリをうたう。ツノはまだ若く、頼りなく、触れたら壊れてしまいそう。〈雨、雨、やめよ、/まだ雨痛い〉

 「桜桃忌」はいつも梅雨のなかである。太宰治の誕生日であり、東京・三鷹で入水自●をして遺体の見つかった日でもある6月19日を迎えるたび、雨に打たれるカタツムリの詩が浮かぶ

 世間という名の雨、対人関係という名の雨を、人並み外れて柔らかい感受性のツノに浴びて生きた人だろう。きょうで生誕100年になる

 「● のうと思っていた」(葉)と語り、「さらば読者よ…元気で行こう。絶望するな」(津軽)と語る。暗と明のあいだを振幅激しく揺れ惑うのが青春期であり、〈雨痛い〉魂の千鳥足に共感する読者によって太宰文学は読み継がれてきたのだろう

 中学時代、「人間失格」を食事ももどかしくむさぼり読んだ記憶がある。先日、何十年かぶりに再読を試みたが、どうにも気持ちが入らずに退屈し、読み通せないで降参した。感受性のツノに処世の知恵で防水加工を施した身に、その人はもう何も語ってくれぬらしい。

 6月19日付 編集手帳 読売新聞
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6.18.2009

どうせ他人の金「お宝」そう悪いことをしたとも感じていないらしい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 刑務所内の多彩な人間模様を活写した安部譲二さんの「塀の中の懲りない面々」(文芸春秋)に、“忠さん”という役所専門の泥棒が出てくる

 中央官庁から県立病院、国公立大学まで軒並み荒らし、警察署と法務省だけは量刑が重くなると困るので敬遠したという人である。忠さんが安部さんに語ったことには、役所相手の稼業は楽だという。〈役所はお宝の扱いがまるで雑なんだ。どうせ他人の金って気なんだろうよ〉

 金品の扱いがいまも雑かどうかは知らないが、時は金なり、「時間」の扱いが雑な役所は確かにある

 農林水産省の出先機関でこの3年間に少なくとも1400回の組合集会が、国家公務員法の禁じた勤務時間中に開かれていたという。「国家公務員法に触れるような組合活動については、あるともないとも言えない」。組合側のやけに堂々とした談話を読む限りは、そう悪いことをしたとも感じていないらしい

 その給料は国民が額に汗し、ときに苦しいやりくりをして支払った「お宝」の税金から出ている。忠さん、あなたの言った通りでした。〈どうせ他人の金って気なんだろうよ…〉

 6月18日付 編集手帳 読売新聞
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6.17.2009

どっちに転んでも敗者は私、良心と欲望が互いにしのぎを削っている・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 浮気心と、妻に済まないと思う心のはざまで男は疲れ、ひとりつぶやく。「私の生活は、良心と欲望が互いにしのぎを削っている時間が多すぎる。いずれが勝っても、敗者は私なのだ」

 ディック・フランシスの競馬ミステリー「罰金」(早川書房)の一節だが、麻生首相のぼやきを聞くようでもある。日本郵政の社長人事を巡って鳩山邦夫前総務相を更迭したことが痛手となり、内閣支持率が急落した

 国民の共有財産を二束三文で叩(たた)き売ろうとした不祥事に、きちんと筋を通すのは為政者の「良心」である。筋を通せば、しかし、党内が騒ぎ出す。“反・麻生”の動きを封じたい「欲望」に首相は負けたと、世間の目には映ったのだろう

 鳩山氏に味方して西川善文社長の経営責任を厳しく問えば、党内の“麻生降ろし”に足を引っ張られる。鳩山氏を切れば切ったで、世論に足を引っ張られる。どっちに転んでも敗者は私――としても、「良心」に殉じるほうがまだしも救いがあった

 選挙を前に、堂々、世論の逆を張る。人物の器が大きいのか、並の器で空洞だけが大きいのか、この人ばかりは分からない。

 6月17日付 編集手帳 読売新聞
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6.16.2009

世の安寧という「同じ高嶺の月」がいまほど切実に恋しい時もない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 古い道歌にある。〈分け登るふもとの道は多けれど同じ高嶺(たかね)の月を見るかな〉。宗派(道)は違っても、仏教のめざす真理(月)は一つであると。その記事を読みつつ、一首を口ずさむ

 天台宗総本山・比叡山延暦寺(滋賀県大津市)の座主がきのう、高野山真言宗総本山・金剛峯寺(和歌山県高野町)を公式に参拝した。両宗の約1200年におよぶ歴史で初めてという

 真言宗の開祖・空海と天台宗の開祖・最澄はともに唐で仏教を学んだ仲だが、晩年は交流が途絶えた。書物から学ぶ「筆授」にも重きをおく最澄と「修行」を絶対とする空海と、〈分け登るふもとの道…〉の行き違いが両宗の長き疎遠を生んだ一因とも伝えられる

 交流の途絶える前、最澄が空海のもとに寄せた書簡(国宝、奈良国立博物館所蔵)がある。「久隔清音」(久シク清音ヲ隔テ=長いこと、ご無沙汰(ぶさた)で…)とはじまる。両宗の間でもこれを機に、「清音」(澄んだ声)の語らいが持たれることだろう

 顧みれば国内といわず、東アジアといわず、中東といわず、世の安寧という〈同じ高嶺の月〉がいまほど切実に恋しい時もない。

 6月16日付 編集手帳 読売新聞
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6.14.2009

パルテノン神殿を思わせる壮麗な列柱建築「三井本館」開館80周年・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 巨大な金庫の扉は、日本橋を渡るには重すぎて通行が許可されず、搬入に苦労したらしい。三井銀行などが入るそのビルが落成したのは1929年(昭和4年)、世界恐慌が起きた年だった

 東京・日本橋にある「三井本館」は、経済界のシンボルの一つと言っていいだろう。パルテノン神殿を思わせる壮麗な列柱建築だ。隣接する日本銀行本店が、かなり控えめに映る

 建物が還暦を迎えた1989年(平成元年)発行の記念誌に、わが国の経済発展を見続けてきたビルのエピソードが記されている。当時、三井グループの重鎮だった江戸英雄さんは「今や日本経済は未曽有の大発展…」というくだりで回想を締めくくっていた。日経平均株価が史上最高値を記録した年である

 さらに20年。壁面に掲げられた銀行の金看板は、幾度となく名前を書き換えている。ビルは金融の合併・再編にも立ち会い続けた

 この不況は世界恐慌の再来とも、未曽有の危機とも言われる。株価は1万円を回復したものの、視界は晴れない。日本経済の岐路にそのつど節目の時を迎えてきた三井本館は、明日が開館80周年という。

 6月14日付 編集手帳 読売新聞
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6.13.2009

大臣、退陣「グズグズ」濁点ひとつで趣が変わる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 絹の糸を垂らしたような春の雨が〈しとしと〉ならば、梅雨どきのそれは汗がまとわりつく〈じとじと〉だろう。濁点ひとつで趣が変わるのは、雨に限ったことではない

 麻生首相は就任した当座、漢字の読みを間違えて世間の失笑〈クスクス〉を誘った。褒められたことではないが、ご愛嬌(あいきょう)と言えなくもない。当節の〈グズグズ〉よりは、まだましである

 西川善文社長の続投に強く反対していた鳩山邦夫総務相が辞任することで、「日本郵政」の人事を巡る紛糾はひとまず収まった。首相がようやくにして下した決断である

 「かんぽの宿」という国民の財産を叩(たた)き売ろうとした経営責任は厳しく問われて然(しか)るべし、という鳩山氏の主張には一理も二理もある。首相は半月近くもグズグズ火種を放置し、混迷を印象づけ、野党に得点を稼がせた揚げ句、一理に目をつむった

 ボヤを大火にする人が経済や外交の荒ぶる炎を消せるものやら、世人が不安を感じたとしても不思議はない。そもそも〈総理退陣〉とは…おっとっと、濁点をひとつ忘れた。〈総理大臣〉とは、機を逃さずに断を下してナンボの人である。

 6月13日付 編集手帳 読売新聞
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6.12.2009

慕われた「ぬしさん」オタマジャクシが空から降ってきた・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 昔、東京・本郷で魚が降った。「不忍池のぬし、鯉(こい)が昇天した」。人々はそう噂(うわさ)したと、古今亭志ん生の回想にある。演芸評論家の大西信行さんが「落語無頼語録」(角川文庫)に書いている

 ぬしさん、待っておくんなまし、池の魚が慕って尾ひれにすがる。何百メートルてェとこまで昇ると、修業を積んでない小魚をそれ以上は連れていけない。ぬしはピュッと尾を振って小魚を払い落とす。あったんですよ、昔は。ほんとうにあった、うん…

 見てきたような「昇天」説はともかくも石川県ではいま、「鳥が吐きだした」説あり、「突風が巻き上げた」説あり、謎解きでにぎやかという

 七尾市の駐車場にオタマジャクシが100匹ほど、雨模様の空から降ってきた。白山市の駐車場でも数十匹、中能登町の民家では小魚13尾が見つかっている。今月4~9日にかけてのことで、人々は首をかしげている

 科学の目で謎が解かれるまでは志ん生流の空想に遊ぶのもいいだろう。ずいぶん慕われた「ぬしさん」のようだね。人間の世界にはそういう指導者がなかなかいなくてさ…と、オタマ君の霊に愚痴を聞いてもらう。

 6月12日付 編集手帳 読売新聞
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6.11.2009

梅雨入り、突然の雨に“ぬかり”はないぞと得意顔・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 作家の山口瞳さんは折りたたみ式の傘を持たなかった。突然の雨に、やおら鞄(かばん)から取り出し、どうだ、準備万端ぬかりはないぞ、と得意顔をする人が嫌で、自分もそういう顔をしたくないので持たなかったという

 山口さんの随筆集「旦那の意見」(中公文庫)の解説で長男の正介さんが回想している。折りたたみ傘をひらく自分の姿を鏡に映したことはないが、得意とはいかずとも、ひと安心の気分は顔に出ているかも知れない

 関東甲信から北陸、東北南部もきのう、梅雨入りした。お説にそむくようですが、“ぬかり”だらけの人生、せめて雨の用心ぐらいは自慢させてくださいな――と内心つぶやきつつ、傘を鞄につめる

 「父の日」に傘の贈り物をもらうお父さんもあろう。「どうだ、わが子のセンスは」という得意顔ならば、泉下の山口さんもうなずいてくれるに違いない

 傘もなく、走りもせず、濡(ぬ)れるに任せて歩く若い人をときに見かける。ずぶ濡れがわびしさではなく、たくましさ、りりしさを包む衣装になる、そういう年齢があるらしい。得意になったり、軽い嫉妬(しっと)を覚えたり、傘の下も忙しい。

 6月11日付 編集手帳 読売新聞
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6.10.2009

巌流島決戦「時の記念日」時計を読むのが苦手な人たち・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 佐々木小次郎と立ち合う巌流島に、宮本武蔵はわざと遅れて行く。約束は「辰(たつ)の上刻」(午前7時ごろ)で、吉川英治「宮本武蔵」に従えば武蔵が到着したのは3時間半後、「巳(み)の刻過ぎ」であったという

 丸谷才一さんは「遅刻論」というエッセーに書いている。相手を極力じらしたいが、待たせすぎて相手が帰ってしまえば、「臆病風に吹かれて武蔵は来なかった」と悪評が立つ。じらし、かつ、帰さない。ほどよく待たせた計算能力が見事であると

 日本郵政の社長人事を裁かない麻生首相の場合は、この計算能力がいささか怪しい。早すぎる御出座は首相の“貫目”にかかわるとしても、混迷がここまで深まれば遅刻も限度を超えていよう

 少し前には、定額給付金の所得制限論議が首相の遅参で迷走した。これしきの事柄に断を下せないで、いざという時に大丈夫かしら――と世間は思う。きょうは「時の記念日」、麻生さんは遅刻癖を省みていいだろう

 国政の巌流島決戦はいずれ訪れる。燕(つばめ)返しか、鳩(はと)返しか、待ち受ける白刃が何であれ、時計を読むのが苦手な武蔵に肩入れする人たちも楽ではない。

 6月10日付 編集手帳 読売新聞
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6.09.2009

感嘆の吐息「天から降る」と評された独特の美しい音色に織っていく・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 1年ほど前、日本経済新聞の文化欄で、ある盲学校の先生が寄稿した一文を読んだ。生徒による短歌コンクールの話で、紹介されていた歌が忘れがたい。〈分からない色の黄色は分からない黄色い声は弾んでいるね〉

 作者は全盲の高校生という。こまやかな想像力と、みずみずしい表現力の結晶した一首である。音色に結晶させた人もいる

 世界的な演奏家を数多く輩出してきた「バン・クライバーン国際ピアノコンクール」で東京都在住の大学生、辻井伸行さん(20)が優勝した。生まれたときから全盲のピアニストである

 普通は譜面を見て覚える曲を辻井さんは録音テープを聴いて学ぶという。見えない鍵盤をたたいては「天から降る」と評された独特の美しい音色に織っていく。天才や奇跡という安手の形容は寄せつけず、努力や鍛錬というありきたりの言葉では足りず、感嘆の吐息をもってしか語ることのできない人生もある

 音楽に、文学に、その他の分野に、視覚障害を乗り越えて自分の道を歩む少年少女がたくさんいる。きのうは海の向こうから届いた朗報に、「黄色い声」を弾ませたことだろう。

 6月9日付 編集手帳 読売新聞
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6.08.2009

若者パワーを求める「田舎ごこち」田舎に居場所を見つけた輝き・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 夢心地や乗り心地などと言うように、「心地」は何かをした時の気持ちを表す。様々な心地がある中で、「田舎ごこち」とは耳慣れないだろう。島根県庁の若手職員たちが、そんなタイトルの本を出版した

 映画「男はつらいよ」の「寅次郎恋やつれ」で、吉永小百合さんがマドンナ役を務めた舞台が島根県だ。風光明媚(めいび)な海岸線など美しい自然は変わらないが、人口の減少が止まらず、高齢者の割合が高いことが悩みのタネである

 それでも都会からのUターンやIターンで、農林水産業に就いた20~40代がいる。「鄙(ひな)びと」を自称する職員たちが、挑戦する同世代の生活を追いかけた

 予備知識ゼロから専業農家になったフリーター、養鶏業に転身したIT企業営業マン、岩カキの生産に取り組むシステム開発者――歩む道は違うけれど、田舎に居場所を見つけた輝きがある。彼らに続く後輩を誘うガイドでもあろう

 島根県の県魚は「アゴ」と呼ばれるトビウオだ。海面に飛び出し、胸びれを広げて滑空する。その飛び心地にあやかり、地域の勢いに弾みがつけば、若者パワーを求める他県のヒントにもなる。

 6月8日付 編集手帳 読売新聞
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6.07.2009

「落とした財布」盗まれたと思い込んだことに自己嫌悪・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 東京の高尾山で財布をなくし、途方に暮れていた女性の携帯電話に、家族から連絡が入った。山の案内所に落とし物として届けられた後、中の診察券を手がかりに、かかりつけの医院へ、自宅へと問い合わせがリレーされたらしい

 ご本人が昨年末、東京本社版の読者欄に感謝の投書を寄せていた。「カードを使われたらどうしよう、などと悪用されるとばかり考えていた自分を恥ずかしく思いました」ともあった

 同様の投書を今年初めの大阪本社版でも読んだ。JR奈良駅で盗まれたと思った財布は、実はベンチの下に落としていて、JRの関係者が見つけてくれたそうだ。こちらも感謝とともに「盗まれたと思い込んだことに自己嫌悪」と告白していた

 昨年、全国の警察に届けられた落とし物は1733万点あり、前年より36%も増えたという。現金は141億円が拾得され、97億円が落とし主に返った

 本来、100%戻って来るのが理想ではあろう。でも、落とした財布はかなりの確率で届けられる。それに感謝して、世間を疑った自分を恥じる人がいる。日本もまだまだ捨てたもんじゃないね、と思う。

 6月7日付 編集手帳 読売新聞
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6.06.2009

年寄りからひったくり強盗「どろぼう警官」世は逆さまと成りにけり・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 明治期の漢詩人、成島柳北は目立って面長であったらしい。馬にまたがって花見に出かける柳北を見て、同行した劇作家、福地桜痴(おうち)の詠んだ狂歌がある。〈さてもさても/世は逆さまと成りにけり/乗りたる人より馬は丸顔〉

 なんぼなんでも誇張だろうが、目をこすっては馬と人とを見比べている桜痴居士の姿を想像すると愉(たの)しい。丸顔の馬はともかくも、本当かしらと目をこすって読み直し、〈さてもさても…〉と溜(た)め息をつく記事もある

 岡山市内の路上で女性(75)の財布をひったくった男を、通りかかった男子高校生2人が追いかけて取り押さえた。男は愛媛県警松山南署の巡査部長(29)で、窃盗事件などの捜査を担当する盗犯係の主任という

 市民を犯罪から守る立場の人が盗みを働く。あまつさえ、本業の追いかけっこで高校生に負ける。丸顔の馬にも劣らぬ〈世は逆さまと成りにけり〉である

 お手柄の高校生は「世も末だな」、あきれ顔で語ったとか。なんのなんの、「どろぼう」という女性の叫び声に勇気凛々(りんりん)、行動で応えた君たちのような若者がいる。世はいまだ末ならず…と、ひとりうなずく。

 6月6日付 編集手帳 読売新聞
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6.05.2009

民営化の象徴「三顧の礼」経営責任の説明もなしに再任の流れ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「横」というのはかわいそうな字で、横領、横流し、横恋慕…好ましからざる言葉に縁がある。日本郵政の人事をめぐる鳩山邦夫総務相と西川善文社長の確執も、「横」の押しつけ合いと言えなくもない

 重い不祥事にけじめをつけないまま続投の意思を固めた西川氏を鳩山氏は「横暴」の人と見、認可権限を盾に人事に口を差し挟む鳩山氏を西川氏は「横車」の押し手と見ているのだろう

 経営責任の説明もなしに再任の流れが出来上がったのは多くの国民に納得のいきかねるところで、筋論では鳩山氏の押す車に相応の理がある

 与党内の続投擁護論も分かりにくい。「三顧の礼で迎えた人をクビにできない」という。神聖にして侵すべからざる経営者というのも珍しい。「“民営化の象徴”西川氏が去れば、民営化路線が崩壊してしまう」という。一人転べば皆転ぶとは、何とも頼りがいのある路線である

 鳩山氏は大臣の職を賭す覚悟という。麻生首相はこれまで、「総務相が適切に判断すると思う」と涼しい顔をしていた。混迷の根は「横暴」や「横車」ではなく、首相の「横着」にあったのかも知れない。

 6月5日付 編集手帳 読売新聞
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6.04.2009

満20年「天安門事件」経済の針は進み、政治の針は止まり・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 川柳作家、岸本水府に戦時下の一句がある。〈今日も無事重い蒲団(ふとん)に口伏せて〉。自由にものを言えない苦しみが「口伏せて」ににじむ

 重い蒲団に口を伏せる世に別れを告げて久しいが、近隣にはまだ現実で通る国もある。民主化を求める市民の声を政府が銃と装甲車で弾圧した中国の「天安門事件」から満20年を迎えた

 人にはものを「食う口」と「言う口」がある。経済成長で「食う口」を満たしつつ、強権支配で「言う口」を封じてきた歳月である。言論の受難は続き、チベット族などへの人権侵害はやむことがない

 中国政府は民心の暴発を恐れている。「日本には歴史問題を永遠に言い続けよ」とは11年前、江沢民国家主席(当時)が会議で語ったとされる言葉だが、国民の不満の矛先をそらす代理の“標的”役にされるのでは、こちらとしては迷惑な話である

 テレビに流れた北京市民の声か、当時の歌がある。〈戒厳軍の残忍を語り一語加ふ「日本軍もかくはせざりき」 竹山広〉。その市民もいまは蒲団に口を伏せていよう。経済の針は進み、政治の針は止まり、中国の時計は奇妙にゆがんでいる。

 6月4日付 編集手帳 読売新聞
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6.03.2009

ブラジルに渡り、歯を食いしばって根を張った日系移民・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 棺(ひつぎ)はない。肋膜炎(ろくまくえん)で死んだ生後3か月の男児を日章旗でくるみ、錘(おもり)をつけて海に沈めた。移民船でブラジルに渡る人々を描いた石川達三「蒼氓(そうぼう)」の一場面である

 赤痢、皮膚病、「まるで病院船のよう」な船内で人々は、別れを告げた故郷の歌を披露し合う。〈能代春慶、檜山(ひやま)納豆、大館曲げわっぱ〉と秋田音頭を、〈四角四面のやぐらの上でエ〉と八木節を、〈安来名物、荷物にゃならぬ〉と安来節を歌った

 悲しみと不安を忘れさせてくれるものは歌だけだったのだろう。そのようにしてブラジルに渡り、貧困や差別に歯を食いしばって根を張った日系移民の人々も、いまは孫、ひ孫の世代である

 祖父母が心の支えにした日本の歌を、どうか一緒に――と、作曲家の船村徹さんを特別顧問にして「歌の使節団」が9月にサンパウロ市を訪問し、日系移民と交歓の時をもつ。使節団のメンバーは一般から募るという

 〈節榑(ふしくれ)立ったあの手と怒り肩/想い出すんだ 武骨な我が祖父を…〉。もず唄平作詞、船村徹作曲「みかえり富士」にある。祖父母がつらい涙でうたった歌を、追慕の涙で口ずさむ人もいるだろう。

 6月3日付 編集手帳 読売新聞
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6.02.2009

GM連邦破産法の適用を申請、怖くて切るに切れない腐れ縁・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「米国の国花は何?」。国土が広く多様な植生の国で、特定の国花はなかったような…。「答えはカーネーション(クルマ国家)」――阿川弘之さんの随筆集「エレガントな象」(文芸春秋)で教わったなぞなぞである

 車なくしては暮らせない生活様式が茎ならば、自動車産業の王座に君臨してきたゼネラル・モーターズ(GM)は花びらであったろう。GMが連邦破産法の適用を申請し、経営破綻(はたん)した

 事実上の国有企業となって再建の道を歩むという。元社長でアイゼンハワー政権の国防長官だったチャールズ・ウィルソン氏は「GMに良いことは我が国に良いことだ」という有名な言葉を残したが、国家と企業の共栄を誇示したそのせりふもいまでは、共倒れが怖くて切るに切れない腐れ縁の嘆きに聞こえる

 賃金の安い海外で生産を増やせば、「外国の労働者を税金で養うのか」と世間の批判を浴びる。さりとて、高賃金の国内生産にばかり頼れば競争力は保てない。親方日の丸ならぬ“親方星条旗”にも泣きどころはある

 返り咲きはいつごろか、一度散ったカーネーションの再開花予想はむずかしい。

 6月2日付 編集手帳 読売新聞
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6.01.2009

国際社会との“ずれ”天災ではなく人災で振り回される・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 雨や風など大気に生じる現象を総称して「気象」という。その名を冠した気象庁が、大気現象ではない地震観測をも手がけるようになったのには、いわれがある

 明治新政府で最初に気象観測にあたったのは、もともと新橋―横浜間に鉄道を建設するために雇われた英国人の技師である。地震で測量点にずれが生じてはいけないと、イタリア製の地震計を持ち込んで東京気象台に据えたのが始まりという

 気象と地震の本格観測が同時に産声を上げたのも地震国ゆえだろう。1875年(明治8年)6月1日のことで、きょうは気象記念日である

 いまでは地震計の数も4000を超えて世界第一の監視網を誇り、先日の北朝鮮の地下核実験でも震源を15分でぴたりと割り出した。3年前の最初の核実験では確認に1時間半もかかったことを思えば、腕前の向上は心強い限りだが、天災ではなく人災で振り回されるのはやはり腹立たしい

 北の技師たちはすでに各種の観測データを分析し、「3度目」に向けた準備を始めているのかも知れない。監視網とともに、国際社会との途方もない“ずれ”を直す包囲網が要る。

 6月1日付 編集手帳 読売新聞
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