1年ほど前、日本経済新聞の文化欄で、ある盲学校の先生が寄稿した一文を読んだ。生徒による短歌コンクールの話で、紹介されていた歌が忘れがたい。〈分からない色の黄色は分からない黄色い声は弾んでいるね〉
作者は全盲の高校生という。こまやかな想像力と、みずみずしい表現力の結晶した一首である。音色に結晶させた人もいる
世界的な演奏家を数多く輩出してきた「バン・クライバーン国際ピアノコンクール」で東京都在住の大学生、辻井伸行さん(20)が優勝した。生まれたときから全盲のピアニストである
普通は譜面を見て覚える曲を辻井さんは録音テープを聴いて学ぶという。見えない鍵盤をたたいては「天から降る」と評された独特の美しい音色に織っていく。天才や奇跡という安手の形容は寄せつけず、努力や鍛錬というありきたりの言葉では足りず、感嘆の吐息をもってしか語ることのできない人生もある
音楽に、文学に、その他の分野に、視覚障害を乗り越えて自分の道を歩む少年少女がたくさんいる。きのうは海の向こうから届いた朗報に、「黄色い声」を弾ませたことだろう。
6月9日付 編集手帳 読売新聞
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