6.17.2009

どっちに転んでも敗者は私、良心と欲望が互いにしのぎを削っている・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 浮気心と、妻に済まないと思う心のはざまで男は疲れ、ひとりつぶやく。「私の生活は、良心と欲望が互いにしのぎを削っている時間が多すぎる。いずれが勝っても、敗者は私なのだ」

 ディック・フランシスの競馬ミステリー「罰金」(早川書房)の一節だが、麻生首相のぼやきを聞くようでもある。日本郵政の社長人事を巡って鳩山邦夫前総務相を更迭したことが痛手となり、内閣支持率が急落した

 国民の共有財産を二束三文で叩(たた)き売ろうとした不祥事に、きちんと筋を通すのは為政者の「良心」である。筋を通せば、しかし、党内が騒ぎ出す。“反・麻生”の動きを封じたい「欲望」に首相は負けたと、世間の目には映ったのだろう

 鳩山氏に味方して西川善文社長の経営責任を厳しく問えば、党内の“麻生降ろし”に足を引っ張られる。鳩山氏を切れば切ったで、世論に足を引っ張られる。どっちに転んでも敗者は私――としても、「良心」に殉じるほうがまだしも救いがあった

 選挙を前に、堂々、世論の逆を張る。人物の器が大きいのか、並の器で空洞だけが大きいのか、この人ばかりは分からない。

 6月17日付 編集手帳 読売新聞
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