「事務所」という言葉は鳩山和夫の発明という。1882年(明治15年)に法律事務所を開業したときのことであると、中国文学者、高島俊男さんのエッセー「披露宴、事務所ことはじめ」に教えられた
和夫は一郎・元首相の父にあたる。政権奪取に向けて鼻息の荒い曽孫(ひまご)の由紀夫・民主党代表には、鳩山家ゆかりの言葉が頭痛の種になりそうな気配である
検察側は冒頭陳述で、公共事業の落札業者を指名する“天の声”が「小沢事務所」から出ていたと主張した。西松建設から小沢一郎氏側に渡った違法献金を巡る裁判の初公判である。西松の落札分は4件59億円にのぼるという
検察の言い分とはいえ、小沢氏は民主党代表代行の要職にある。言葉というものを蔑視(べっし)しているのか、身に降る火の粉を誠実な説明によって振り払おうともしない姿は異様である。党内も公然とは追及しにくい空気で、ひそひそ話がやっと、と聞く
世相史の年表によれば、事務所第1号が生まれた年の流行語に「雪隠(せっちん)演説」がある。こそこそ交わす政談を指す。政権を目指す政党が、「事務所」疑惑で「雪隠演説」は情けない。
6月20日付 編集手帳 読売新聞
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