昔、東京・本郷で魚が降った。「不忍池のぬし、鯉(こい)が昇天した」。人々はそう噂(うわさ)したと、古今亭志ん生の回想にある。演芸評論家の大西信行さんが「落語無頼語録」(角川文庫)に書いている
ぬしさん、待っておくんなまし、池の魚が慕って尾ひれにすがる。何百メートルてェとこまで昇ると、修業を積んでない小魚をそれ以上は連れていけない。ぬしはピュッと尾を振って小魚を払い落とす。あったんですよ、昔は。ほんとうにあった、うん…
見てきたような「昇天」説はともかくも石川県ではいま、「鳥が吐きだした」説あり、「突風が巻き上げた」説あり、謎解きでにぎやかという
七尾市の駐車場にオタマジャクシが100匹ほど、雨模様の空から降ってきた。白山市の駐車場でも数十匹、中能登町の民家では小魚13尾が見つかっている。今月4~9日にかけてのことで、人々は首をかしげている
科学の目で謎が解かれるまでは志ん生流の空想に遊ぶのもいいだろう。ずいぶん慕われた「ぬしさん」のようだね。人間の世界にはそういう指導者がなかなかいなくてさ…と、オタマ君の霊に愚痴を聞いてもらう。
6月12日付 編集手帳 読売新聞
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