6.10.2009

巌流島決戦「時の記念日」時計を読むのが苦手な人たち・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 佐々木小次郎と立ち合う巌流島に、宮本武蔵はわざと遅れて行く。約束は「辰(たつ)の上刻」(午前7時ごろ)で、吉川英治「宮本武蔵」に従えば武蔵が到着したのは3時間半後、「巳(み)の刻過ぎ」であったという

 丸谷才一さんは「遅刻論」というエッセーに書いている。相手を極力じらしたいが、待たせすぎて相手が帰ってしまえば、「臆病風に吹かれて武蔵は来なかった」と悪評が立つ。じらし、かつ、帰さない。ほどよく待たせた計算能力が見事であると

 日本郵政の社長人事を裁かない麻生首相の場合は、この計算能力がいささか怪しい。早すぎる御出座は首相の“貫目”にかかわるとしても、混迷がここまで深まれば遅刻も限度を超えていよう

 少し前には、定額給付金の所得制限論議が首相の遅参で迷走した。これしきの事柄に断を下せないで、いざという時に大丈夫かしら――と世間は思う。きょうは「時の記念日」、麻生さんは遅刻癖を省みていいだろう

 国政の巌流島決戦はいずれ訪れる。燕(つばめ)返しか、鳩(はと)返しか、待ち受ける白刃が何であれ、時計を読むのが苦手な武蔵に肩入れする人たちも楽ではない。

 6月10日付 編集手帳 読売新聞
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