川柳作家、岸本水府に戦時下の一句がある。〈今日も無事重い蒲団(ふとん)に口伏せて〉。自由にものを言えない苦しみが「口伏せて」ににじむ
重い蒲団に口を伏せる世に別れを告げて久しいが、近隣にはまだ現実で通る国もある。民主化を求める市民の声を政府が銃と装甲車で弾圧した中国の「天安門事件」から満20年を迎えた
人にはものを「食う口」と「言う口」がある。経済成長で「食う口」を満たしつつ、強権支配で「言う口」を封じてきた歳月である。言論の受難は続き、チベット族などへの人権侵害はやむことがない
中国政府は民心の暴発を恐れている。「日本には歴史問題を永遠に言い続けよ」とは11年前、江沢民国家主席(当時)が会議で語ったとされる言葉だが、国民の不満の矛先をそらす代理の“標的”役にされるのでは、こちらとしては迷惑な話である
テレビに流れた北京市民の声か、当時の歌がある。〈戒厳軍の残忍を語り一語加ふ「日本軍もかくはせざりき」 竹山広〉。その市民もいまは蒲団に口を伏せていよう。経済の針は進み、政治の針は止まり、中国の時計は奇妙にゆがんでいる。
6月4日付 編集手帳 読売新聞
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