6.06.2009

年寄りからひったくり強盗「どろぼう警官」世は逆さまと成りにけり・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 明治期の漢詩人、成島柳北は目立って面長であったらしい。馬にまたがって花見に出かける柳北を見て、同行した劇作家、福地桜痴(おうち)の詠んだ狂歌がある。〈さてもさても/世は逆さまと成りにけり/乗りたる人より馬は丸顔〉

 なんぼなんでも誇張だろうが、目をこすっては馬と人とを見比べている桜痴居士の姿を想像すると愉(たの)しい。丸顔の馬はともかくも、本当かしらと目をこすって読み直し、〈さてもさても…〉と溜(た)め息をつく記事もある

 岡山市内の路上で女性(75)の財布をひったくった男を、通りかかった男子高校生2人が追いかけて取り押さえた。男は愛媛県警松山南署の巡査部長(29)で、窃盗事件などの捜査を担当する盗犯係の主任という

 市民を犯罪から守る立場の人が盗みを働く。あまつさえ、本業の追いかけっこで高校生に負ける。丸顔の馬にも劣らぬ〈世は逆さまと成りにけり〉である

 お手柄の高校生は「世も末だな」、あきれ顔で語ったとか。なんのなんの、「どろぼう」という女性の叫び声に勇気凛々(りんりん)、行動で応えた君たちのような若者がいる。世はいまだ末ならず…と、ひとりうなずく。

 6月6日付 編集手帳 読売新聞
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