7.31.2010

「グラス・シーリング」キャリア・アップを目指す女性に立ちはだかる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 脆(もろ)くみえるガラスでも、たたき割れない強化ガラスがあるだろう。「グラス・シーリング」(ガラスの天井)は、米国などで長年、キャリア・アップを目指す女性に立ちはだかる壁に例えられてきた

 そんな天井を突き抜けた先駆者がいる。代表がヒューレット・パッカード(HP)のカーリー・フィオリーナ元最高経営責任者(CEO)とインターネット競売大手イーベイのメグ・ホイットマン元CEOだろう

 「最強の女性経営者」と評されたフィオリーナさんは秋の米中間選挙で、カリフォルニア州の上院選に共和党候補として名乗りを上げた。ホイットマンさんは、シュワルツェネッガー同州知事の後任の共和党候補だ

 もたつく米国経済は、全米最大のカリフォルニアの復調に左右される。巨額赤字を抱える政府と、同州の財政再建も難問である。青い空が似合うカリフォルニアに暗雲がたれ込める

 「人生は選択肢だらけ。何かを選ぶために何かを捨てる。でも後悔しない」。フィオリーナさんの人生哲学だ。実業界の経験をアピールするカーリー&メグ旋風は、民主党オバマ政権に脅威となりかねない。

 7月26日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

7.30.2010

学校教育の情報化、総合学習の時間を使い、命の大切さを考える授業・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「白血病です。5年生存率は3割」。そう医師に告げられた新潟県長岡市の小学校教師水谷徹平さん(33)は、入院先の無菌病室と担任だった5年生の教室をテレビ電話システムでつないで授業をした

 闘病体験や命の大切さへの思い、みんなの手紙に励まされていることなどを話した。教室のスクリーンに大写しされる先生の姿を子供たちは真剣な表情で見つめた。快方に向かい、学校に戻れたのは奇跡と言えるだろう

 総合学習の時間を使い、水谷さんは命の大切さを考える授業を始めた。誕生と成長の過程を調べて自分史を作らせたり、稲作体験や食物連鎖の学習で「いただく命」を考えさせたり、緩和ケアに携わる医師に「生とシ」を語ってもらったり

 「命や生き方に対する子供たちの考え方が根本的に変わったと感じます」。3年にわたった「いのちの授業」の実践で、水谷さんは第59回読売教育賞を受けた

 テレビ電話授業は「学校にパソコンやプロジェクター、校内ネットワークがあったからできた」と水谷さん。学校教育の情報化が進む。無機的なハイテク機材が人と人の心をつなぐこともある。

 7月25日付 編集手帳 読売新聞
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7.29.2010

猛暑にはいつも厄介「ドッグデイズ」乗り切っていくしかあるまい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「土用」を英語で「ドッグデイズ」と言い表すことは、以前に和英辞典を引いて知っていた。どうして、“犬の日々”なのだろう

 きのう、所用があって東京モノレールの線路沿いに羽田空港の近辺を炎天下、ひと駅ぶんほど歩いた。整備工場らしき建物が並ぶのみで、身を寄せる日陰はなし、のどを潤す店も自動販売機もなし、いつしか舌を出して息をしているわが身を顧みて、英単語の成り立ちを想像した

 きょうは芥川龍之介の忌日にあたる。「あんまり暑いので、腹を立ててシんだのだろう」と述べたのは作家の内田百だが、芥川がみずから命を絶った83年前の気温は35~36度とか。午前中に各地で37度を超す今年は、それをもしのごう

 屋内にいても熱中症には油断ができず、海や川には事故の危険がつきまとい、猛暑にはいつも厄介な道連れがいる。飲む水、浴びる水と上手に付き合って、乗り切っていくしかあるまい

 われとわが身に気合を入れる号令がわりに、中村草田男の一句を。〈炎熱や勝利の如き地の明るさ〉。からだに障りさえしなければ、犬の物まねを競う夏らしい夏もいいものである。

 7月24日付 編集手帳 読売新聞
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7.28.2010

政権交代から【1年】365回の失望から成る期間『アクマの辞典』・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 皮肉屋のアンブローズ・ビアスは『アクマの辞典』で「知人」を定義して言う。〈【知人】金を借りるほどには親しいが、金を貸すほどには親しくない間柄の人〉。金銭に限らず、何の貸し借りにも間柄の親疎が影響する

 中国にとって、自民党政権下の日本は「知人」であったろう。こちらから円借款などを供与することはあっても、ここぞという場面で、あちらから力を貸してもらった記憶はあまりない

 民主党政権になって「知人」から「友人」に格上げされたか、と感じたのは昨年12月である。小沢一郎幹事長(当時)率いる総勢600人の“超特大”訪中団は破格の厚遇を受けた

 北朝鮮の後見役、中国の力を借りて拉致事件で圧力をかける――民主党政権が「友人」中国から拝借すべきは本来、そういう助力であり、一緒に記念撮影をしてもらう国家主席のお時間ではなかろう。新しい情報が得られなかった元北朝鮮工作員の日本訪問を実現させただけでは、仕事をしたことにはならない

 夏がゆけば政権交代から1年になる。拉致問題では辞典の言葉を忘れまい。〈【1年】365回の失望から成る期間〉

 7月23日付 編集手帳 読売新聞
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7.27.2010

“内助の功”男は女房にやりこめられて、いっそう強く見える・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 米連邦政府の特別捜査官を40年間にわたって務めた“強い男”ヘルツが、自宅に客を招いた席で、夫人にぽんぽんやりこめられる。マイケル・シェイボンの推理小説『ユダヤ警官同盟』(新潮文庫)の一場面である

 人間心理の機微をついた一節がつづく。〈冷酷非情な仕事人だった老人が、友人知人の前で古女房に頭があがらないところを見せる。おかげでヘルツは、なぜかいっそう強い男であるように見えた…〉(黒原敏行訳)

 働き盛りの菅首相は老人ではないし、伸子夫人も古女房呼ばわりは気の毒な若々しい女性とお見受けするが、ヘルツ夫妻式と呼んでいいだろう

 首相に辛口の論評をつづった伸子夫人の新著が話題になっている。「この人が総理大臣でよいのだろうか…」「(所信表明演説には)身内でも合格点をあげられなかった」等々。世間の目に夫の姿をより大きく強く映らせるための、これも技巧を凝らした“内助の功”に違いない

 家の外で強い男は女房にやりこめられて、いっそう強く見える。夫人にひとつ誤算があったとすれば、最近の菅さんが家の外であまり強そうでないことである。

 7月22日付 編集手帳 読売新聞
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7.24.2010

耳に痛い「国民負担」若い世代にツケを回すわけにいかない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 世論は自ら痛みが伴うことへの実感が薄いと「エコは大事」程度の印象論で物事を判断しやすい。元通産官僚の澤昭裕氏が新著「エコ亡国論」で二つの世論調査のデータをもとに指摘している

 麻生政権の温室効果ガス「15%削減」目標について、A社の調査では「妥当」との回答が49%にのぼったが、設問で1世帯あたり年間7万円超の負担増になることに言及したB社の調査では、「厳し過ぎる」が58%と出た

 だからこそ政治家には、耳に痛い内容でも国民にきちんと説明する義務がある。澤氏はこう指摘し、「25%削減」目標を掲げる民主党が国民にどの程度の負担を強いることになるか、いまだ説明しないことを「国民負担を隠すほうが政治的に好都合、と考えているのか」と批判する

 これは消費税問題にもあてはまる。菅首相は「増税することで経済が成長する」などと、増税への反発をかわす意図が透ける発言を繰り返すより、「負担が増えても若い世代にツケを回すわけにいかない」と率直に語りかけるべきではないか

 民主党に求められるのは「国民負担を隠すほうが…」式の発想からの脱却だ。

 7月19日付 編集手帳 読売新聞
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7.22.2010

救いようがない「おはせしか」などと敬語を使いたくもない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈先生が瓜盗人(うりぬすっと)でおはせしか〉(高浜虚子)。瓜どろぼうを捕らえてみれば、「先生、あなたでしたか…」。つかまった先生のしょっぱい顔が浮かんできて、おかしい

 俳人の夏井いつきさんは著書『絶滅寸前季語辞典』(東京堂出版)に書いている。〈「瓜」なら盗んでいいとは言わないが、俳句にすらならないことをやってしまってはお仕舞(しま)いだ。「先生が暴行犯でおわせしか」では救いようがない〉と。その救いようのない先生が現実にいる

 先生が連続強カン(ごうかん)致傷犯で…いや、「おはせしか」などと敬語を使いたくもない

 東京・多摩地区で小学生の女児など5人が襲われた暴行事件は、東京都稲城市の市立小学校に勤務している男性教諭(29)の犯行であったという。警視庁の取り調べに対し、「4、5年前から、東京都内と神奈川県内で十数件やった」と供述している

 英文学者の外山滋比古(とやましげひこ)さんは小学生のころ、先生を神様のように思い、「先生もオシッコをするさ」と言う友達とけんかしたという。神様とは言わずとも、この教師も児童の目には仰ぎ見る存在だったろう。裏切られた児童も被ガイ者である。

 7月17日付 編集手帳 読売新聞
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7.21.2010

この世の名残に思い浮かべ、耳に残した音は、5歳の子・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 詩人まど・みちおさんに『まわって あそぼう』という一編がある。〈いそいで まわろう/ぐるぐる ぐるぐる/いそげば けしきも/おおいそぎ/ぐるぐる ぐるぐる/めもまわる〉

 遊園地のメリーゴーラウンドはいつも、幼い歓声に包まれている。日曜日の公園に行けば、お父さんやお母さんに抱き上げられ、ヘリコプターのプロペラのようにまわっている子がいる。「まわる」ことは子供たちにとって至福の時間のはずである

 その子もまわった。木馬の上でも、親が差し上げた腕の上でもない。洗濯機のなかである

 福岡県久留米市で、5歳の女の子、萌音(もね)ちゃんが母親に首を絞められてシ亡した。逮捕された母親(34)は、手足をひもで縛って洗濯槽に座らせるギャク待をしていたと供述し、「洗濯槽に水を入れてふたを閉め、スイッチを入れて回転させたことも何度か、あった」という。しつけのためだった、そう供述している

 シぬ間際、萌音ちゃんがこの世の名残に思い浮かべた景色は何だったろう。耳に残した音は何だったろう。洗濯槽の壁か。あの振動音か。どうか、ほかのものであってほしい。

 7月16日付 編集手帳 読売新聞
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7.19.2010

明日いかにならむは知らず今日の身の今日するわざにわがいのちあり・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 “残り時間”の過ごし方を綴(つづ)って忘れがたい文章がある。〈「いのち」の終りに三日下さい/母とひなかざり/貴方(あなた)と観覧車に/子供達に茶碗蒸(ちゃわんむ)しを〉(高知県・下元政代)。日本一短い手紙『一筆啓上賞』の秀作集にある

 残り時間が無情にも区切られるのは「いのち」だけではない。「ひかり」のときもある。いつ失明しても不思議でない――医師からそう宣告されたとき、人は何をするのだろう。その人は土俵に立つことを選んでいる

 この名古屋場所に力士としてデビューした大相撲の序ノ口西29枚目、「徳島」(15)(本名・田中司さん、香川県出身、式秀(しきひで)部屋)の記事を読んだ

 まだ有効な治療法のない目の難病、レーベル病によって徐々に失われた視力は現在、左目0・01、右目0・3、「目が見える限り、土俵に立ちたい」という。歴史学者、津田左右吉(そうきち)の歌を思い出す。〈明日いかにならむは知らず今日の身の今日するわざにわがいのちあり〉。その人には今日の突き一つ、押し一つが“わがいのち”に違いない

 今場所は中止でもいい、と考えたことがある。開催されてよかったと、いまは思う。

 7月14日付 編集手帳 読売新聞
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7.18.2010

傲りは厳禁“ねじれ国会”もっと謙虚におなりなさい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 深海魚のからだは海底の大きな圧力に耐えられるようにできている。それがいきなり海面に浮上すると、外側の圧力が急に減るために、内臓が口から出てきたり、眼球が飛び出したり、悲惨な様相を呈するという

 “お天気博士”倉嶋厚さんの『季節おもしろ事典』(東京堂出版)に教えられた。長い野党暮らしから一夜にして政権与党に躍り出た政党も、海面に急浮上した深海魚に似ているだろう

 下積みの圧力から解放されて体内から飛び出すのは、内臓や眼球ではない。「傲(おご)り」である。秘書らが3人も逮捕・起訴されながら、党幹事長の要職にあった人がただの一度も国会の場で釈明していない事実ひとつにも傲りは見てとれた

 ああ、そうか、権力を持ち慣れない政党は、手にした権力をこんなふうに使うのか。もっと謙虚におなりなさい――それが参院選の民主党大敗に示された民意だろう。野党に協力を仰いで“ねじれ国会”を乗り切るつもりならば、傲りは厳禁である

 〈何となく自分をえらい人のやうに/思ひてゐたりき/子供なりしかな〉(石川啄木)。そろそろ、深海魚の子供は卒業していい。

 7月13日付 編集手帳 読売新聞
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7.17.2010

発言のブレ「下知、下知」有権者の不安が透けて見える・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 芝居の敵役に梶原景時(かげとき)がいる。嫌われる虫ゲジゲジは「下知(げじ)、下知」(命令、命令)と、彼が源氏の威光を背に威張り散らしたことに由来する、ともいう

 同じ源氏方に憎まれ役の景時がいたおかげで源義経がいっそう颯爽(さっそう)と映る。味方に引き立て役がいることの効用はかつて、小泉元首相が自民党内「抵抗勢力」を敵役にして人気を得たことでも分かる

 菅首相の引き立て役は小沢一郎氏だろう。政治資金疑惑で世の反発を買った氏と距離を置き、発足当初の菅政権は支持を集めた。“景時効果”である

 昨夜の開票結果を見れば、しかし、「颯爽」の賞味期限は短かったらしい。消費税発言のブレだけが原因ではあるまい。衆院の数の力を背に民主党は、国会での疑惑解明を望む世間の声を突っぱねた。このうえ参院でも数を握ることになれば政権が傲(おご)り、どんな無理難題の「下知、下知」が降ってくるか知れたものでない――有権者の不安が透けて見える

 小沢氏と距離を置いた末に選挙で苦戦した首相には、小沢グループからの風圧が強まろう。余談ながら義経は、引き立て役の景時に足を引っ張られて失脚している。

 7月12日付 編集手帳 読売新聞
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7.16.2010

失墜した信頼を取り戻せるか、明と暗も次々中継される・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 きょう夕刻から半日で三つの「戦(いくさ)」に臨む心境と言えば大げさか。野球にたとえれば「ダブルヘッダー」ならぬ「トリプルヘッダー」であろう。陣取る場所はテレビの前。酒肴(しゅこう)の準備も抜かりなく

 いきなり初戦の大相撲名古屋場所で出端(ではな)をくじかれそうである。取組数が減るのも痛いが、仕切りや花道での表情、呼び出しの声などが削られたダイジェスト番組はなんとも味気ない。お次は参院選の開票速報

 こちらは日本の未来や明日の生活を票に託した候補者に審判が下る。当落判定や開票状況が驚きの速さで伝えられ、現場の明と暗も次々中継されるから見ていて飽きない。気がつけば、欧州の強豪同士がW杯を争う決勝戦の笛

 米大リーグには最後のトリプルヘッダーとして1920年のパイレーツ、レッズ戦が記録されている。ラジオ放送は翌年からだから、1日3戦を生で味わったのは球場に足を運び、通しで見た熱心なファンのみである

 賭博絡みの八百長で8選手が永久追放になった「ブラックソックス事件」はその前の年。失墜した信頼を取り戻せるか、どこか名古屋場所に似たシーズンだった。

 7月11日付 編集手帳 読売新聞
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7.15.2010

能力を超えて千客万来を唱えても、不信感のほかには何も残らない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 歌舞伎の初代中村吉右衛門は、何ごとにも神経の行き届いた人であったらしい。大切な手紙はポストに入れた後、相手宅に届く頃合いを見計らい、無事に着いたかどうかの確認に使いを出した、という挿話が残っている

 苦労性の播磨屋いまありせば、気をもみすぎて胃が痛くなったに違いない。日本郵政グループの宅配便「ゆうパック」で大幅な配達の遅れが起きて10日、混乱はようやく収まりつつある

 今月1日に日本通運のペリカン便と統合したのに伴い、慣れない情報処理端末で操作ミスが多発したのが原因という

 お中元の繁忙期に統合した判断は良かったか、遅配の発生から発表まで数日かかったのはなぜか、「顧客第一」の視点が欠けていなかったか…検証すべきことは多々あろう。お中元やお歳暮は、もらった相手のほころぶ顔を思い浮かべつつ品を選び、贈るものである。あとで弁償してもらっても、傷んだ食品に鼻をつまんだり、眉(まゆ)をひそめたりする顔を想像するのはつらい

 江戸川柳に〈千客万来みな来ると困る也(なり)〉とある。能力を超えて千客万来を唱えても、不信感のほかには何も残らない。

 7月10日付 編集手帳 読売新聞
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7.14.2010

子供たちの未来を左右する「負うた子」が教えてくれる道・・・ 編集手帳 八葉蓮華

三車火宅の八葉蓮華 「創価学会 仏壇」
7月9日付 編集手帳 読売新聞

 自分より未熟なものに教えられることもある、という意味で〈負うた子に教えられて浅瀬を渡る〉〈負うた子に道を教えられる〉という

 「なぜ、大タコが道を…?」。大学の先生に質問する学生がいたと、俳人の楠本憲吉さんがある対談で語っていた。浅瀬や道はともかくも、サッカーの勝敗を教えてくれるタコはいるらしい。ドイツの水族館にいる「パウル君」が話題になっている

 国旗を付けた二つの容器のうち、どちらの餌を選ぶか――その方法で、W杯南アフリカ大会のドイツの試合、6試合すべての勝敗を的中させた

 準決勝・対スペイン戦での敗退も見事に当ててしまったため、「サメが入った水槽に送れ」「パエリアにしろ」などと、八つ当たりの非難を一身に浴びているとか。予言者の受難だろう

 「スペイン―オランダ」の決勝戦がある11日(現地時間)は参院選の投票日にあたる。社会保障といい、財政再建といい、子供たちの未来を左右する1票になる。小さなお子さんのいる方はおんぶしてみるのもいい。背中に伝わる鼓動で、体温で、「負うた子」が教えてくれる道があるかも知れない。

 7月9日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

7.13.2010

野球賭博で揺れる名古屋場所「中継」すべてを引っくるめて大相撲・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 第38代横綱・照国は〈桜色の音楽〉と評された。仕切りを重ねるにつれて紅潮していく肌のことである

 テレビ放送が始まる直前に引退しているので、会場で観戦した人たちが口伝えに広めた異名だろう。高画質のカラー受像機が普及した今は、桜色に染まっていく肌の変化をテレビ桟敷にいて眺めることができる

 仕切りの時間も、土俵入りの化粧まわしも、場内のざわめきも、すべてを引っくるめて大相撲の楽しみとしてきたファンには残念だろう。野球賭博で揺れる名古屋場所をNHKが中継放送しないことを決めた

 警視庁は相撲部屋などを捜索し、野球賭博と暴力団の関係解明を急いでいる。「理事長代行」職に外部から人材を受け入れる人事に日本相撲協会が最後まで抵抗したように、事ここに至っても親方衆が本気で角界を浄化する意思があるのか疑わしい。公共放送として中継の中止はやむを得ない判断であったろう

 当代にも横綱・白鵬関や大関・把瑠都関のように、染まりゆく肌の美しい人がいる。〈桜色の音楽〉とはお別れになる。「しばしの…」か「永(なが)の…」かは、協会の心がけ次第である。

 7月8日付 編集手帳 読売新聞
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7.11.2010

バクチはよしなよ。名前の通り、大相撲が朽ち果てる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 どこからか、年代物の太鼓を仕入れてきた道具屋に、口うるさい女房が悪態をつく。「おお汚い、そんな太鼓が売れるものかい。まったく、お前さんときた日にゃ…」。落語『火焔(かえん)太鼓』である

 黙って受け流し、太鼓に積もったほこりを払おうとする亭主に、女房から二の矢が飛ぶ。「およしよ、ほこりがなくなりゃ、太鼓もなくなっちまうよ…」

 落語の女房ならば、言っただろう。「ウミを出し切りゃ、日本相撲協会がなくなっちまうよ…」。リンチあり、大麻あり、暴力団に特別席をあてがう親方あり、野球賭博の大関あり――角界の一部にウミがあるのではなく、角界とはそもそもウミで出来ているのではないか、そう思ったのは一度や二度ではない

 きのう、開催が一時は危ぶまれた名古屋場所の番付が発表された。解雇された大関琴光喜のほか、謹慎によって休場する力士は幕内・十両で10人を数える。面白い土俵の望みようがない

 落語『三枚起(さんまいき)請(しょう)』で、棟梁(とうりょう)が若い衆に言う。「バクチはよしなよ。名前の通り、場で朽ちるっていうぜ」。“次”は個々の親方、力士で済まない。大相撲が朽ち果てる。

 7月6日付 編集手帳 読売新聞
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7.10.2010

監督が毎年交代する有り様「世界を驚かす」外交も見てみたい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 一流のサッカーの魅力は芸術的な個人技と知的な組織力の融合だろう。競技規則は17条しかない。ルールが単純で、プレーの自由度が高い分だけ、戦術と技術の独創性が勝負を分ける

 国を背負って、個人と組織の総合力で戦う点では、外交も共通している。日常の社交はパス回しに徹すれば良いが、ギリギリの交渉では、体を張ったプレーが求められる

 外交がサッカーと違うのは、妥協が付き物なことだ。9対1や8対2でなく、6対4の勝利を目指す。ベテラン外交官は「双方が『6対4で得をした』と自国に説明できる合意が理想」と語る。そこが戦争と決定的に異なる

 2002年の小泉訪朝では、解決が困難と見られていた日本人拉致問題を、交渉の土俵を広げ、「将来の経済協力」を取引材料にする「独創性」によって打開した。同様の手法が、解の見えない米軍普天間飛行場の移設や北方領土の問題に応用できるのかどうか

 日本外交は近年、監督が毎年交代する有り様で、存在感が薄い。選手も「待ちの姿勢」が目立つ。だが、そろそろ反転攻勢に転じる時だ。「世界を驚かす」外交も見てみたい。

 7月5日付 編集手帳 読売新聞
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7.08.2010

「横に走る涙」どんなときに、もう若くないという感じを抱きましたか・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 女優の吉永小百合さんはある対談で、「どんなときに、もう若くないという感じを抱きましたか」という質問を受けて、答えたという。「涙が真っすぐに流れないで、横に走ったときです…」と

 歌人の河野裕子さんが『横に走る涙』と題するエッセーに、〈女優でなければできない表現だろう〉と書いている(砂子屋書房、『河野裕子歌集』所収)

 当方は女性ではないが、この答えにはうなずく。いつ頃からだろう。顔の造形上の変化なのか何なのか、言われてみると、読書やスポーツ観戦の折々に催す涙は確かに横に走っている

 マウスのオスは涙でメスを口説くらしい。オスの涙腺から分泌される「ESP1」という物質がメスの脳を刺激して交尾を促進することが、東原和成・東京大学教授(応用生命化学)などの研究で明らかになった。オスが仕掛けても10回に9回は断るメスが、この物質を与えると2回に1回は受け入れたという

 「横に走る涙でも、まだ使えるかしら?」と身を乗り出したあなた、残念でした。人間にはESP1の遺伝子がないので、縦でも横でも“泣き損”という。念のため。

 7月3日付 編集手帳 読売新聞
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7.07.2010

「文月」うるはしくかきもかかずも文字はただ読みやすく・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 志ん朝、談志、円楽といった面々がのちに巣立っていく『若手落語会』などを企画し、“天才プロデューサー”とも呼ばれた湯浅喜久治(きくじ)は繊細な美意識をもつ人だったらしい。悪筆をめぐる挿話を、作家の安藤鶴夫が『巷談(こうだん) 本牧亭』(河出文庫)に書き留めている

 へたな自分の字を見るのが我慢ならず、字のうまい友人をまめに訪問してはメモを読み上げ、自分の手帳に自分のスケジュールを書き入れてもらっていたというから、相当なものだろう

 書き始めた手紙を途中で読み返し、お粗末な字を恥じてペンを投げ出す――悪筆を口実に不義理を重ねてきた身を省みて、湯浅氏に共感を覚えぬでもない

 陰暦7月の異称「文月(ふみづき)」は一説に、七夕の竹に付ける文(ふみ)が語源という。手紙にゆかりの深い月である。夏休みを前に行楽の日程を立てはじめた方もおられるに違いない。自分のことを棚に上げて申すなら、旅先から絵はがきを出す用意に、住所録を旅装に加えるのもよろしかろう

 〈うるはしくかきもかかずも文字はただ読みやすくこそあらまほしけれ〉。明治天皇の作と聞く。小欄推奨“今月の歌”である。

 7月2日付 編集手帳 読売新聞
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7.06.2010

おびえるほどの緊張と、運の非情と、それがPK戦らしい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 サッカーのPK戦をめぐる印象深い挿話がある。20年前のW杯イタリア大会、イビチャ・オシム監督率いるユーゴ代表の対アルゼンチン戦である。退場者とゴールキーパーを除く9人の中からPKを蹴(け)る5人を選ぶとき、7人が監督に申し出たという。「私を外して」

 蹴る5人を決めると、オシム監督はプレーを見ずにロッカールームへ消えた。「(PK戦は)クジ引きみたいなものだから」。そう語ったと、木村元彦氏の著書『オシムの言葉』にある

 おびえるほどの緊張と、運の非情と、それがPK戦らしい。南アフリカ大会の8強入りをかけたパラグアイ戦で女神は日本に微(ほほ)笑(え)まなかった

 敗退の瞬間、不運にもPKを外した駒野友一選手が泣きじゃくり、その肩をこれも涙の松井大輔選手が抱き、岡田武史監督が抱いた。開幕前は酷評もされた彼らには、寄り添う互いの体温だけを頼りに風の冷たさに耐えた日もあったろう。勝利より深く胸を刺す敗北の情景もある

 戦争にまつわる用語をスポーツに持ち込むのは趣味に反するが、「戦友」という言葉がこれほど似合う集団をほかに知らない。ありがとう。

 7月1日付 編集手帳 読売新聞
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7.05.2010

蒙御免「ごめんこうむる」相撲協会を信じては裏切られてきた・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 大相撲の番付には〈蒙御免〉と書いてある。「ごめんこうむる」と読み、許可を得た、の意味になる。お奉行の許可なしには興行ができなかった昔の名残という

 「蒙昧(もうまい)」という言葉があるように、「蒙」の字には「こうむる」以外に、「おろか」の意味もある。野球賭博事件が発覚した当初、厳重注意で済まそうとした日本相撲協会である。名古屋場所の番付に載る〈蒙御免〉は「おろかで、ごめんね」という謝罪文に読めるかも知れない

 相撲協会は、外部の調査委員会が「名古屋場所(7月11日初日)開催の条件」として提示した勧告の受け入れを決めた

 幕内だけでも7人の力士が休場し、大嶽(おおたけ)親方(元関脇・貴闘力(たかとうりき))は解雇か除名、武蔵川理事長を含む親方12人が謹慎――これだけの不祥事を「厳重注意」で幕が引けると考えた相撲協会の“常識欠損病”は重篤である

 リンチ事件でもう懲りたかと思い、大麻事件で自覚したかと思い、暴力団の絡んだ「維持員席」事件で反省したかと思い、そのたびに相撲協会を信じては裏切られてきた。大相撲が滅んでから、「おろかで、ごめんね」と謝られても遅い。

 6月29日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

7.03.2010

普段は至難の業でも、心の浮き立つ目的があれば楽々やってのける・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 和歌山県に伝わる民謡という。〈思(おも)て通えば五尺の雪も/えらい霜じやと/言(ゆ)て通ふ〉(岩波新書『折々のうた7』)。惚(ほ)れた相手のもとに通う道ならば、背丈ほどの積雪も苦にならない。「すごい霜だわね」と

 人は現金なもので、普段は至難の業でも、心の浮き立つ目的があれば楽々やってのける。きのうは朝まだきにパチッと目覚め、「毎朝こうなら、学校に遅刻しないのに…」と、お母さんをあきれさせた人もいただろう

 午前3時半のキックオフで平均視聴率30・5%、瞬間最高は午前4時58分の41・3%という

 サッカーのワールドカップ南アフリカ大会で、日本はデンマークを破り、決勝トーナメント進出を決めた。本田圭佑、遠藤保仁両選手の芸術的なフリーキックに、相手の猛攻を防ぐ守備陣の体を張ったプレーに、誰もが睡魔の忍び寄るスキもない至福の時間を過ごしたはずである

 強豪のひしめく決勝トーナメントで、岡田武史監督が目標に掲げるベスト4入りは仰ぎ見る高峰に違いない。29日のパラグアイ戦を前にしての景気づけに、「えらい地べたの出っ張りじゃ…」とつぶやいてみる。

 6月26日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge

7.02.2010

ことばは考えるために役立つが、人々を考えなくさせるためにも役立つ・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 よく見聞きする「目からウロコが落ちる」という表現は新約聖書に由来する。日常語として定着したのはそう昔ではなく、戦後のことという

 「魚類や爬虫類(はちゅうるい)ではあるまいし、人間に、ましてや目に、ウロコがあってたまるものか」と、言語学者の田中克彦さんはこの表現になじめなかったらしい

 皆が使い慣れ、聞き慣れた今、ウロコを詮索(せんさく)する人はいない。聞き慣れた言葉には注意せよと、田中さんは言う。〈ことばは考えるために役立つが、人々を考えなくさせるためにも役立つ〉と(岩波現代文庫『法廷にたつ言語』)

 思考を妨げる言葉の一例はスローガンだろう。民主党が圧勝した昨年衆院選の「政権交代」は分かりやすい反面、有権者が公約の中身を一つひとつ吟味するのを邪魔したうらみもなしとしない。参院選が公示された。勇ましいスローガンは消え、「消費税」「普天間」「政治とカネ」などを争点に、与党野党が政見の中身を競う。耳をすまし、考える、本来の国政選挙らしい選挙になりそうな気配である

 日本には今、何が必要か。有権者の目から積年のウロコが落ちるような舌戦を待つ。

 6月25日付 編集手帳 読売新聞
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