7.03.2010

普段は至難の業でも、心の浮き立つ目的があれば楽々やってのける・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 和歌山県に伝わる民謡という。〈思(おも)て通えば五尺の雪も/えらい霜じやと/言(ゆ)て通ふ〉(岩波新書『折々のうた7』)。惚(ほ)れた相手のもとに通う道ならば、背丈ほどの積雪も苦にならない。「すごい霜だわね」と

 人は現金なもので、普段は至難の業でも、心の浮き立つ目的があれば楽々やってのける。きのうは朝まだきにパチッと目覚め、「毎朝こうなら、学校に遅刻しないのに…」と、お母さんをあきれさせた人もいただろう

 午前3時半のキックオフで平均視聴率30・5%、瞬間最高は午前4時58分の41・3%という

 サッカーのワールドカップ南アフリカ大会で、日本はデンマークを破り、決勝トーナメント進出を決めた。本田圭佑、遠藤保仁両選手の芸術的なフリーキックに、相手の猛攻を防ぐ守備陣の体を張ったプレーに、誰もが睡魔の忍び寄るスキもない至福の時間を過ごしたはずである

 強豪のひしめく決勝トーナメントで、岡田武史監督が目標に掲げるベスト4入りは仰ぎ見る高峰に違いない。29日のパラグアイ戦を前にしての景気づけに、「えらい地べたの出っ張りじゃ…」とつぶやいてみる。

 6月26日付 編集手帳 読売新聞
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