7.15.2010

能力を超えて千客万来を唱えても、不信感のほかには何も残らない・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 歌舞伎の初代中村吉右衛門は、何ごとにも神経の行き届いた人であったらしい。大切な手紙はポストに入れた後、相手宅に届く頃合いを見計らい、無事に着いたかどうかの確認に使いを出した、という挿話が残っている

 苦労性の播磨屋いまありせば、気をもみすぎて胃が痛くなったに違いない。日本郵政グループの宅配便「ゆうパック」で大幅な配達の遅れが起きて10日、混乱はようやく収まりつつある

 今月1日に日本通運のペリカン便と統合したのに伴い、慣れない情報処理端末で操作ミスが多発したのが原因という

 お中元の繁忙期に統合した判断は良かったか、遅配の発生から発表まで数日かかったのはなぜか、「顧客第一」の視点が欠けていなかったか…検証すべきことは多々あろう。お中元やお歳暮は、もらった相手のほころぶ顔を思い浮かべつつ品を選び、贈るものである。あとで弁償してもらっても、傷んだ食品に鼻をつまんだり、眉(まゆ)をひそめたりする顔を想像するのはつらい

 江戸川柳に〈千客万来みな来ると困る也(なり)〉とある。能力を超えて千客万来を唱えても、不信感のほかには何も残らない。

 7月10日付 編集手帳 読売新聞
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