7.06.2010

おびえるほどの緊張と、運の非情と、それがPK戦らしい・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 サッカーのPK戦をめぐる印象深い挿話がある。20年前のW杯イタリア大会、イビチャ・オシム監督率いるユーゴ代表の対アルゼンチン戦である。退場者とゴールキーパーを除く9人の中からPKを蹴(け)る5人を選ぶとき、7人が監督に申し出たという。「私を外して」

 蹴る5人を決めると、オシム監督はプレーを見ずにロッカールームへ消えた。「(PK戦は)クジ引きみたいなものだから」。そう語ったと、木村元彦氏の著書『オシムの言葉』にある

 おびえるほどの緊張と、運の非情と、それがPK戦らしい。南アフリカ大会の8強入りをかけたパラグアイ戦で女神は日本に微(ほほ)笑(え)まなかった

 敗退の瞬間、不運にもPKを外した駒野友一選手が泣きじゃくり、その肩をこれも涙の松井大輔選手が抱き、岡田武史監督が抱いた。開幕前は酷評もされた彼らには、寄り添う互いの体温だけを頼りに風の冷たさに耐えた日もあったろう。勝利より深く胸を刺す敗北の情景もある

 戦争にまつわる用語をスポーツに持ち込むのは趣味に反するが、「戦友」という言葉がこれほど似合う集団をほかに知らない。ありがとう。

 7月1日付 編集手帳 読売新聞
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