7.27.2010

“内助の功”男は女房にやりこめられて、いっそう強く見える・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 米連邦政府の特別捜査官を40年間にわたって務めた“強い男”ヘルツが、自宅に客を招いた席で、夫人にぽんぽんやりこめられる。マイケル・シェイボンの推理小説『ユダヤ警官同盟』(新潮文庫)の一場面である

 人間心理の機微をついた一節がつづく。〈冷酷非情な仕事人だった老人が、友人知人の前で古女房に頭があがらないところを見せる。おかげでヘルツは、なぜかいっそう強い男であるように見えた…〉(黒原敏行訳)

 働き盛りの菅首相は老人ではないし、伸子夫人も古女房呼ばわりは気の毒な若々しい女性とお見受けするが、ヘルツ夫妻式と呼んでいいだろう

 首相に辛口の論評をつづった伸子夫人の新著が話題になっている。「この人が総理大臣でよいのだろうか…」「(所信表明演説には)身内でも合格点をあげられなかった」等々。世間の目に夫の姿をより大きく強く映らせるための、これも技巧を凝らした“内助の功”に違いない

 家の外で強い男は女房にやりこめられて、いっそう強く見える。夫人にひとつ誤算があったとすれば、最近の菅さんが家の外であまり強そうでないことである。

 7月22日付 編集手帳 読売新聞
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