7.21.2010

この世の名残に思い浮かべ、耳に残した音は、5歳の子・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 詩人まど・みちおさんに『まわって あそぼう』という一編がある。〈いそいで まわろう/ぐるぐる ぐるぐる/いそげば けしきも/おおいそぎ/ぐるぐる ぐるぐる/めもまわる〉

 遊園地のメリーゴーラウンドはいつも、幼い歓声に包まれている。日曜日の公園に行けば、お父さんやお母さんに抱き上げられ、ヘリコプターのプロペラのようにまわっている子がいる。「まわる」ことは子供たちにとって至福の時間のはずである

 その子もまわった。木馬の上でも、親が差し上げた腕の上でもない。洗濯機のなかである

 福岡県久留米市で、5歳の女の子、萌音(もね)ちゃんが母親に首を絞められてシ亡した。逮捕された母親(34)は、手足をひもで縛って洗濯槽に座らせるギャク待をしていたと供述し、「洗濯槽に水を入れてふたを閉め、スイッチを入れて回転させたことも何度か、あった」という。しつけのためだった、そう供述している

 シぬ間際、萌音ちゃんがこの世の名残に思い浮かべた景色は何だったろう。耳に残した音は何だったろう。洗濯槽の壁か。あの振動音か。どうか、ほかのものであってほしい。

 7月16日付 編集手帳 読売新聞
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