3.28.2009

歳月と風土が育てた言葉の魅力「津軽弁」標準語で適宜補足する・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「奥の細道」の旅で芭蕉は青森県に寄らず、岩手県でUターンした。「言葉が通じにくいので」とは弘前市出身のタレント伊奈かっぺいさんの説だそうで、永六輔さんが「おしゃべり文化」(講談社)で紹介している

 津軽弁はむずかしい。太宰治の作品「ダスゲマイネ」は「ンダスケ、マイネ」(=だから駄目なんだ)という津軽弁をドイツ語風の題名にしたといわれるが、こういう遊びができるのも難解さゆえだろう

 警察の取調室でも方言は使われる。供述調書にそのまま記せば、県外出身の転勤族で裁判員に選ばれた人は戸惑うかも知れず、さりとて、標準語に直せば供述の生々しさが損なわれる。青森県警も頭を悩ませたらしい

 方言はそのままに、標準語で適宜補足することに落ち着きそうだ、という記事を読んだ。「うんでもいでまるど」には「腕をもいでしまうぞ」と注釈がつくようである

 容疑者の脅し文句にさえ、風雪の音が響く。国を挙げての大騒動の割に意義のあいまいな裁判員制度だが、歳月と風土が育てた言葉の魅力に触れる機会となるならば、転勤族には制度のささやかな功徳だろう。

3月28日付 編集手帳 読売新聞
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