プロ棋士にとって、意地でも負けられない一局とは何だろう。タイトル戦でも、昇段のかかる一番でもないと、将棋の永世棋聖、米長邦雄さんは言う
語録にある。〈勝ち負けが自分には影響がなく、だが、対戦相手にはこの上なく重い意味をもつ一局、そういう勝負こそ全身全霊で勝たねばならない〉と
どうせ勝ったところで…と手を抜けば、勝負師たるおのれを否定することになる。「意識の外に自分を消し去り、相手を消し去り、盤上だけが残ったときに神が降りてくる。イチロー選手の上に降りてきたように、ね」。引用の正確を期すべく確認すると、米長さんは電話口で付言してくださった
「負けられぬ一局」を相撲に例えれば、自分はすでに負け越しが決まって、勝ち越せるかどうか瀬戸際の相手を迎えた取組がそうだろう。残念ながら一方的な無気力相撲もときにはある
週刊誌の「八百長」報道をめぐる名誉棄損訴訟はきのう、東京地裁で力士側勝訴の判決が言い渡されたが、無気力相撲にはこれからも疑惑の目が向けられよう。春場所も終盤、土俵上に神の降りてくる相撲が見たいものである。
3月27日付 編集手帳 読売新聞
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