3.25.2009

「あすの真珠たちに幸あれ」過ちと悔いを核にして「痛み」のなかから成長する・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 通勤の道すがら、中学生の男の子がいる家の前を通る。ここ数日、ガラス戸に立てかけて野球のグラブが置いてある。中にボールを収め、指の部分をゴムひもで結んでいる

 遠い少年の昔、母親の靴下留めを借り、おろしたてのグラブに使いやすく型をなじませたことを懐かしく思い出した。その家の前を通るたび、何かに似ている…と感じつつ、真珠を抱く貝の姿だと気づいたのは、きのう、テレビ桟敷でのことである

 あれほど苦しみ、のたうつイチロー選手を知らない。第2回WBCの開幕以来、幾度も好機で凡退する姿には誰しも目を疑っただろう。その人が決勝の韓国戦で“ここぞ”の決定打を放ち、日本連覇の偉業を成し遂げる立役者の一人となった

 痛める貝にのみ真珠は宿る、といわれる。体内に入った異物を核にして、真珠は育つ。天才と呼ばれる人でさえ、過ちと悔いを核にして「痛み」のなかから成長することを、赤く潤んだイチロー選手の目に教えられた

 きょうもどこかの空の下で、「へたくそ」の声に傷つき、歯を食いしばって球拾いをする少年がいるだろう。あすの真珠たちに幸あれ。

3月25日付 編集手帳 読売新聞
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