〈僕の家は貧乏で、山元村の中でもいちばんぐらい貧乏です〉。作文を書いたのは中学2年生、江口江一さんである。父はとうに亡く、今また大黒柱の母を亡くした。弟と妹は親類にもらわれていき、自分は祖母と家に残る。一家離散が題材である
母は家族にも村の人にもめったに笑顔を見せない人だった。笑わない母が臨終の病床でにこりとした。〈それは「泣くかわりに笑ったのだ」というような気が今になってします〉とある
無着成恭さんが教鞭(きょうべん)をとった“山びこ学校”の舞台、山形県上山市の山元小中学校がこの春限りで休校になる。一昨日の卒業式で最後の生徒3人が巣立った。若い彼らには遥(はる)かなる先輩、昭和20年代半ばに在籍した生徒たちの作文を岩波文庫「山びこ学校」で読み返している
少年は作文の結びで、家業の炭焼きを手伝って学校に通えない友の身を案じている。〈僕たちの学級には、僕よりもっと不幸な敏雄君がいます。僕たちがもっと力を合わせれば、敏雄君をもっとしあわせにすることができるのではないだろうか〉と
この歳月、私たちは何を手にし、何をなくしたのだろう。
3月17日付 編集手帳 読売新聞
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