3.18.2009

「真相報道」誤報に至った経緯の詳しい説明がないままに・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 詩人、土井晩翠の飼い犬がどこからか蝦蟇口(がまぐち)を拾ってきた。銀貨が2枚入っていた。晩翠は警察署に届けた

 署員はどういう茶目(ちゃめ)っ気でか、「犬が自分で警察署を訪れ、くわえた蝦蟇口を署員に渡した」と面白おかしく新聞記者に話し、数紙にそのまま載った。随筆「名犬の由来」にある

 記事には飼い主晩翠の名前もあり、裏付け取材はその気になれば容易であったろう。骨惜しみと、「面白いから、まあいいか」という甘えと、報道に携わる者には“永遠の敵”である。岐阜県庁の裏金をめぐって報道番組が誤報を流した責任を取り、日本テレビの社長が辞任した

 腑(ふ)に落ちないのは、誤報に至った経緯の詳しい説明がないままに最も重い処分がなされたことである。洗いざらいを明かした上での辞任ならば潔い進退にもなっただろうに、何か隠された裏があるのでは――との疑念がいまは先に立つ。「職を辞したことがすべての説明」という言葉に納得した視聴者はいまい

 飼い主と名犬がともども苦笑いして終わった誤報とは、誤報の重みが違う。綿密な検証なくしては、番組に冠した「真相報道」が泣こう。

3月18日付 編集手帳 読売新聞
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