永井荷風が東京・銀座の洋食店に入ると、先客に子供連れの一家がいた。躾(しつ)けがなっていない。1933年(昭和8年)の日記にある
〈子供は猿の如(ごと)く、室内を靴音高く走りまはり、食卓の上に飾りたる果物草花を取り、またはナイフにて壁を叩(たた)く〉。親は周囲の迷惑顔もどこ吹く風、叱(しか)りもしない。荷風は嘆いた。〈今の世の親たちは小児のしつけ方には全く頓着せざるが如し〉
してよいこと、悪いことのけじめを教わらなかった子供は、どうなっただろう。おそらくはロクな大人に育たず、親を泣かせたに違いない
趣旨が「反日」であれ、何であれ、デモはしてよいことである。暴徒化し、日系企業を襲撃するのは、して悪いことである。そのけじめを教えず、実行犯を本気で摘発しようとしない中国当局は洋食店の親と変わらない。暴徒の標的が党本部や官庁に移ってから躾けを始めて間に合うとでも思っているのか。乱暴狼藉(ろうぜき)の放置は、市民に政権転覆の予行演習をさせているのと同じであることに気づいていい
俗に〈三つ叱って五つ褒め七つ教えて子は育つ〉。叱らずに、最後に泣くのは親である。
10月19日付 編集手帳 読売新聞
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