8.10.2010

真夏の娯楽、野球の季節、テレビを見て、涼をとる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 2人の刑事(志村喬、三船敏郎)が大観衆で埋まった後楽園球場で拳銃の密売犯を追う。黒沢明監督の映画『野良犬』である。脚本に「炎熱にとろけたアスファルト」とあるように真夏の物語である

 セ・パに分かれる前の1リーグ時代、巨人―南海戦を舞台に緊迫した捜査の合間合間、白熱した好カードに酔う観衆の上気した顔をカメラがとらえている。映画を見るたびに、野球観戦は真夏の娯楽だとしみじみ思う

 “球夏”という言葉は聞かないが、プロ野球ではセ・リーグで巨人と阪神が熾烈(しれつ)な首位争いを演じている。高校野球では甲子園大会の組み合わせが決まった。野球の季節である

 思えば、「カネ」と「普天間」で政治が迷走を極めた頃はサッカーの岡田ジャパンにずいぶん慰められた。所在不明の高齢者に母親の育児放棄と心ふさぐことの多い今、しばらくは野球のお世話になるのかも知れない

 江戸の狂歌師、唐(から)衣橘洲(ごろもきっしゅう)の歌がある。〈涼しさはあたらし畳 青簾(あおすだれ) 妻子の留守にひとり見る月〉。家族を田舎に送り出し、ひとりきりの夏休みを月ならぬテレビを見て、涼をとるお父さんもいるだろう。

 8月5日付 編集手帳 読売新聞
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