ドイツの思想家、ゲオルク・リヒテンベルクは著書『雑記帳』に書いている。〈蠅(はえ)は叩(たた)かれたくなければ蠅叩きの上にとまるのが安全である〉と。日本でも知恵のまわる蚊は能楽師の鼓を持つ手ではなく、打つほうの手にとまるとか
蠅や蚊を例に引くのが礼を失しているならば、黄金虫でもいい。小沢一郎氏からは「下種(げす)の勘ぐり」とお叱(しか)りを受けるのは覚悟の上で、民主党代表選に出馬する意思を固めたほんとうの心を尋ねてみたいところである
政治資金事件で検察審査会が今秋にも下す議決次第で、小沢氏は強制起訴となる可能性がある
その時に氏が首相の座にあれば、憲法の規定により起訴を免れる。政治の信頼は、しかし、地に落ちるだろう。国政を混迷に導く議決をしてよいものか、どうか――検察審査会のメンバーは、おそらく悩むに違いない。小沢氏が議決に一切介入をしなくても、“小沢首相”の存在自体が圧力になる。わが身を叩くかも知れない司法の手の上に、政治家はとまってはいけない
同じ虫ならば、円高・株安の闇に明かりをともす蛍(ほたる)となって時節を待つ道もあったはずである。
8月27日付 編集手帳 読売新聞
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