11.08.2009

20年「ベルリンの壁崩壊」どんな小さな変革にも、翻弄される人々がいる・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 「本省の課長だった部下は、職業再教育を受け続けている。大使をしていた同僚は、列車の検札業務にやっとありついた。私は今も失業中ですが」

 昔、東ドイツと呼ばれた国があった。五輪で多くの金メダルを獲得し、スポーツ大国として知られた。その国の外務省高官が、祖国が消えた後に見せた失意の表情を、今もはっきりと思い出す

 辛酸をなめたのは、社会科教師も同様だった。「対ファシズム防御壁」と教えていたものが崩れ、壁が守ろうとした体制自体が悪と断罪されたからだ。ある女性教師は「昨日までと正反対のことを教えるのはつらかった」と語った

 東西ドイツを一つにし、冷戦を終わらせる契機となった「ベルリンの壁崩壊」から、まもなく20年を迎える。壁を壊した一つの力は、ライプチヒなどで市民が続けた平和的なデモだった。「市民革命」「無血革命」とも言われるゆえんである

 鳩山首相は所信表明演説で、自らの仕事を「無血の平成維新」と呼んだ。「維新」を「革命」と比ぶべくもないが、どんな小さな変革にも、翻弄(ほんろう)される人々がいる。それだけは忘れないでほしいと思う。

 11月1日付 編集手帳 読売新聞
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