11.22.2009

「イッタカキタカ」どこに向かうのか、何をしようというのか見当がつかず・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 東北地方の独立国を舞台にした井上ひさしさんの小説「吉里吉里人(きりきりじん)」に、頭の二つある犬が登場する。名前を〈イッタカキタカ号〉という

 吉里吉里国の誇る科学技術の象徴として、動脈、静脈、脊髄(せきずい)神経などの接合手術によって2匹の犬から作り出したもので、しっぽがあるべき側にも頭がある。前後どちらにも歩くことができ、あちらへ行ったかと思えば、そのままこちらに来ることがあり、名前もそこに由来する

 そういう犬が実際にいれば、どこに向かうのか、何をしようというのか見当がつかず、見ていて神経がまいるだろう。「普天間」の鳩山内閣がそうである

 きのう午前、首相は東京の公邸前で、「日米合意を前提にしない」と語った。同じ日の昼、岡田外相は那覇市内で記者会見し、「日米合意はある程度、前提にせざるを得ない」と語った。東京と那覇にそれぞれ別個の頭をもつ胴体の長~い犬を見ているかのようである。迷走と呼ぶのはおそらく褒めすぎだろう。迷走は少なくとも動きが目で追える。現状は迷走以前である

 〈イッタカキタカ内閣〉というのは、あまり名誉な愛称ではない。

 11月17日付 編集手帳 読売新聞
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