目がくらむほど高い木の上で作業を終えた植木職人が、軒先ほどの高さに下りてきた。黙って見ていた親方が、にわかに声を上げた。「あやまちすな。心して降りよ」
徒然草にある「高名の木登り」という話である。事故は大抵、もう大丈夫という油断で起きるから注意せよとの教訓だ。これは昔も今も変わらない
ある調査によると、長時間の運転中に起きた交通事故の半数は、出発地から目的地までの8割以上を走り終えた後に発生した。運転で、「あと少し」の緩みは大敵だが、スポーツ観戦を盛り上げる効用はある。相撲の土俵際や野球の九回裏に起きた大逆転のいくつかは、「心のスキ」という名の演出家が観客を楽しませたのだろう
油断は楽しめない逆転劇も演出する。バブルの傷が癒えたと早とちりした橋本内閣は、緊縮財政で好況を金融不況に変えた。2000年に日銀が強行したゼロ金利政策の解除は、治りかけのデフレを悪化させた
日銀はいま、金融危機で始めた企業金融支援の打ち切りを検討している。危ない状況を脱したと見ているようだが、くれぐれも「あやまちすな。心して…」
10月26日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge