11.13.2009

変わらぬ逃亡者の耳よ、整形の前と後、人相の異なる2枚の写真・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 フレデリック・フォーサイスの小説「アヴェンジャー」に捜査官が暗黒街のボスを追跡する場面がある。相手は整形手術で顔を変えている

〈しかし、マクブライド(捜査官)はいつか教えられたことがある。人間の身体で耳だけは、指紋のように、個々人によって明確に姿形が異なり、手術をして変えることはできないのだという〉(篠原慎訳、角川書店)。なるほど整形の前と後、人相の異なる2枚の写真を比べると、耳の形だけはよく似ている

千葉県市川市のマンションで英会話学校講師の英国人女性が遺体で見つかった事件は、知人の市橋達也容疑者(30)がシ体遺棄容疑で全国に指名手配されて2年8か月になる

捜査本部は一昨日、整形後の顔写真を公開した。この顔から、さらに人相を一変させるような手術はさすがに出来まい。ねぐらを求めるとき、食料を手に入れるとき、必ずや誰かと接触するはずである。あなたかも知れない。顔写真に目を凝らそう

事件当時と変わらぬ逃亡者の耳よ――父母と離れた異郷で、たった22年で生を断ち切られたリンゼイさんの、生前の声がよみがえる時もあるか。

11月7日付 編集手帳 読売新聞
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