6.21.2008

「我こそは」 編集手帳 八葉蓮華

月光仮面は控えめな人である。〈正義の味方よ善い人よ…〉。正義に味方はしても「我こそは正義だ」とは言わない◆「われわれ凡俗は正義そのものになれっこないから、せめて正義の手助けをしよう、と」。今年4月に88歳で死去した生みの親、川内康範さんは回想録で語っている。「我こそは」の正義に酔う危うさを知っていたのだろう◆環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」の幹部ら2人が窃盗などの容疑で逮捕された。調査捕鯨船の乗組員がクジラ肉を横領していると睨(にら)み、証拠立てるべく、乗組員が自宅に送った肉を宅配便会社から持ち去った疑いである◆横領を告発する目的は「善」だから、不法な手段には目をつむれ。その言い分が通れば、誰かを拉致、監禁、脅迫して犯罪行為を自白させることも許されるだろう。ついでながら、横領容疑で告発された乗組員は「嫌疑なし」で不起訴となり、独りよがりの正義は空振りに終わっている◆月光仮面の名は奈良・薬師寺の月光菩薩(がっこうぼさつ)に由来する。薬師如来の脇に侍(じ)した仏さまである。「我こそは」の人々も脇に一歩、身を控える謙虚さを学んでいい。

6月21日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge