6.27.2008

「転落は一瞬…」 編集手帳 八葉蓮華

江戸川柳に、〈小判は口のふたにするかたち也(なり)〉とある。いまで言う「口止め料」を詠んだものだろう。なるほど、口の蓋(ふた)には都合のいい形をしている◆口の蓋を考える暇があれば、消費者が舌鼓を打つ口もとだけを胸に描いていればいいものを。中国産ウナギの蒲焼(かばや)きを国産と偽っていた販売業者「魚秀」(大阪市)は、納入先である卸売会社の担当者に1000万円の口止め料を渡していたという◆中国製冷凍ギョーザによる中毒事件のあおりで中国産品全体の売れ行きが落ちたことから、魚秀は産地偽装に手を染めたというが、架空の会社を介在させての隠蔽(いんぺい)工作といい、口止め料といい、悪質というほかはない◆口の形をした小判を縦に置けば、「0」に似ている。0とは不思議な数字で、1を10にも100にも増やせる反面、うかつに掛け算をすると、どれほど大きな数字もすべては無に帰る。指を折ってみれば、愚かな掛け算をした会社の何と多いことか◆ウナギの蒲焼きは俗に、〈裂きは3年、蒸し8年、焼きは一生〉という。企業が信用を築くのにも長い歳月が必要だろう。〈転落は一瞬〉である。

6月27日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge