6.29.2008

「明日の神話…」 編集手帳 八葉蓮華

縦5・5メートル、横30メートルの大壁画である。中央に描かれているのは、閃光(せんこう)の中で燃え上がる骸骨(がいこつ)。左右に連なる不気味なキノコ雲。真っ赤な炎の下に第五福竜丸――。東京都現代美術館に岡本太郎の大作「明日の神話」が展示されている◆原爆の惨禍を描きながらも、未来へ向かうエネルギーがほとばしる。作者は「人類が自ら招いた不幸を乗り越え、運命を切り開く」との思いを込めたという◆1960年代末にメキシコ市で制作された後、長く行方不明に。郊外の資材置き場で、傷ついた状態で見つかり、日本に運ばれてきたのは3年前◆1年がかりの修復でよみがえったものの、巨大ゆえに展示できる場所はそうない。汐留の日本テレビ広場、都現代美術館と、“仮住まい”を続けながら、恒久的な設置場所を選定していた。渋谷駅と近隣ビルを結ぶ空中通路に、この大作がぴったり納まる壁面があったのは偶然だろうか。作者がかつてアトリエを構えた場所に近い◆美術館での公開はきょう29日で終了。だが、見逃した人も残念がることはない。遠からず、岡本のメッセージは若者の街に舞台を移して発信される。

6月29日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge