6.26.2008

「そうしましょう…」 編集手帳 八葉蓮華

酔っぱらいが街灯を用いるように、政治家は有識者を用いる。「照明としてではなく、支えのために」。米国の社会学者アレクサンダー・レートンの言葉にある◆後期高齢者医療制度の導入で、この4月から新しい診療報酬として「終末期相談支援料」が創設されたが、政府は実施わずか3か月で運用を凍結するという。朝令暮改のお粗末は“ねじれ国会”の産物としても、首をかしげたことがある◆相談支援料を創設したい、という舛添要一厚生労働相の諮問に、中央社会保険医療協議会は「そうしましょう」と答申した。ちょっと評判が芳しくないので凍結したい、という諮問にも「そうしましょう」と答申した◆諮問機関というものは役所の思惑を離れ、広い視野から政策の隅々に見識の光をあててくれる街灯であると、世人は思っている。役所が進みたい時に青信号を、止まりたい時に赤信号を出す“支え”役であることを印象づけた一件は、協議会の名誉になるまい◆俳人、渡辺白泉に街灯の佳句があった。<街燈は夜霧にぬれるためにある>。千鳥足の政治に寄りかかられた街灯が、深い霧にぬれている。

6月26日付 編集手帳 読売新聞

八葉蓮華、Hachiyorenge