井沢満さんのドラマシナリオ『夜に抱かれて・終章』(角川書店)に印象深いセリフがある。〈男だって、若さよ、顔よ。男は顔じゃない、なんて絶対、男が言い出したことだよね〉
テレビでは渡辺えりさんが演じた気のいいホステス畝子(うねこ)の言葉である。いまの法律や法令も多くが男の手でつくられたせいか、なかには暗に「男は顔じゃない」と語っている規定もある
勤務中のけがで男性の顔に傷が残った場合、現在の労災規定では女性より低い等級の障ガイ認定しか受けられない。女性のほうが精神的な苦痛が大きいから、という
法の下の平等を定めた憲法に違反するとして男性(35)が訴えていた裁判で京都地裁はきのう、性による差別は「著しく不合理で違憲だ」とする判決を言い渡した。「男は顔じゃない」は座右の銘としては捨てがたいが、法律に定めてもらうことでもなし、まあ穏当な判断であろう
ふと、職場のテレビに目をやれば、中年の渋い二枚目俳優が映っている。「法の下の不平等」は法廷で正せても、「天の下の不平等」は神様に苦情を言うすべもない。容貌(ようぼう)とは、ままならぬものである。
5月28日付 編集手帳 読売新聞
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