6.24.2010

拍手を送った思い出、胸を熱くした記憶が色あせていく・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 力士が用いる感謝の表現は普通、「ごっつぁん」である。元横綱大鵬の納谷幸喜さんはこの言葉が嫌いで、部屋の若い者に使わせなかった。「ありがとう」と言え、と。自伝『巨人、大鵬、卵焼き』(日本経済新聞社)に書いている

 相撲部屋という特殊な世界に閉じこもることなく、社会常識を身につけた力士たれ――との教えであったろう。娘婿として大鵬部屋を受け継いだその人は、心も受け継いでいたかどうか

 元関脇貴闘力(たかとうりき)の大嶽(おおたけ)親方(42)が警視庁の事情聴取に野球賭博への関与を認めたという。暴力団の資金源とも言われる賭博に手を染めていた人に、社会常識の在処(ありか)を問うのもむなしい

 多くの人が10年前の春場所を記憶にとどめていよう。幕内の最下位、負け越せば十両陥落どころか引退必至の瀬戸際で貴闘力関は悲願の賜杯を手にし、史上初の“幕尻優勝”にファンは喝采(かっさい)した。謹慎中の琴光喜関(34)が3年前、年6場所制のもとでは最年長の31歳で大関に昇進したときも、遅咲きの大輪に心から拍手を送った思い出がある

 ひとつ、またひとつ…テレビ桟敷で胸を熱くした記憶が色あせていく。

 6月18日付 編集手帳 読売新聞
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