6.12.2010

すべての都道府県名が常用漢字で書けるようになる摩訶不思議な区分け・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 〈星と月以外、何物をも持たぬ沙漠(さばく)の夜…〉は、井上靖の詩『漆胡樽(しっこそん)』の書き出しである。井上文学に現れる「さばく」はほとんどが「沙漠」であって、「砂漠」ではない。「砂漠」よりも感じとして粒子の細かい「沙漠」の手触りを作家は愛したか

 〈唄(うた)のほうが歌よりも軽く小さく、どこか投げやりで、その分哀(かな)しい〉。著書『マイ・ラスト・ソング』(文芸春秋)で「歌」と「唄」の手触りを語ったのは作家の久世光彦さんである

 日本語のもつ豊かさも、ひとつには、この微妙で陰翳(いんえい)に富んだ“手触り”にあるのだろう

 文化審議会が「俺(おれ)」や「鬱(うつ)」など196文字を常用漢字表に追加するよう、文部科学相に答申した。「沙」や「唄」も晴れて常用漢字の仲間入りをする。とはいえ、〈串(くし)といふ字を蒲焼(かばやき)と無筆(むひつ)よみ〉と江戸川柳にあるように、読めないと昔は笑われた「串」の字がようやく追加されることを思えば、常用漢字の門戸開放は遅々たる歩みだろう

 「岡(おか)」「熊(くま)」「阪(さか)」などが今回追加され、すべての都道府県名が常用漢字で書けるようになるそうな。常用漢字とは摩訶(まか)不思議な区分けではある。

 6月8日付 編集手帳 読売新聞
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