一読しただけでは意味の分からない、判じ物のような歌がある。〈六円(まる)く四八は瓜子(うりざね)五と七は卵形にて九ツは針〉。いかがでしょう
明るさの変化に連れて刻々と姿を変える猫の瞳孔から時刻を割り出す、そのコツを詠んだ歌という。四ツ、八ツ、九ツといった数字はそれぞれ時刻を指し、針や卵形は瞳孔の開き具合を表す。江戸期の作であるらしい
その昔、豊臣秀吉の朝鮮出兵には猫が時計代わりに連れて行かれたと伝えられる。従軍した猫たちにすればいい迷惑だったに違いないが、古今東西を見渡せば、あの宝石のような目はこの世で最も美しい時計だろう
せせこましい暮らしをしている身ゆえ、「時の記念日」にはいつも、人をせかせるように動く時計の秒針に目がいく。今年に限って猫の時計が思い出されるのは、その目のように発言内容がくるくる変わる首相を見送って間もないせいかも知れない
朝、駅に向かう途中の駐車場に顔見知りの家なし猫がいる。時計を見せてもらおうと近づいたら、さっと車の下に隠れた。美しい時計の持ち主は、するりと逃げるのが巧みである。時の流れにも似て。
6月10日付 編集手帳 読売新聞
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge