6.29.2010

総額開示で事足りる「そねむ心」を煽られて溜め息をつくぐらいなら・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 堀口大学に『座右銘』という詩がある。〈暮しは分(ぶん)が大事です/気楽が何より薬です/そねむ心は自分より/以外のものは傷つけぬ〉

 株主ではなし、株を持つ予定があるでもなし、その会社にかかわりのない身で気分がふと沈むのは「そねむ心」のせいなりや? …と、詩人に問うてみる

 報酬1億円以上の役員の氏名や報酬額を開示するよう、金融庁が上場企業に義務付けたのを受けて、ぽつぽつと公表が始まっている。日産自動車カルロス・ゴーン社長の場合は8億9000万円だとか。そもそも、個人名まで明かさせる必要がどこにあるのだろう

 株主の利益を損なうほど高い報酬をもらっていないか、そのチェックならば個別開示ではなく、従来の総額開示で事足りる。嫉妬心(しっとしん)はときに「正義」の仮面をつけて現れるというが、情報開示の徹底という金融庁の正義にも仮面の下の顔がないかどうか。旦那(だんな)、のぞいてみたら面白いよ――“のぞき窓”の前に立たされ、心卑しい客として扱われているようで愉快ではない

 「そねむ心」を煽(あお)られて溜(た)め息をつくぐらいなら、知らずにいるのが幸せなこともある。

 6月24日付 編集手帳 読売新聞
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