評論家で小児科医の松田道雄さんが『病気とまじない』という随筆に書いている。〈医学とまじないが違うのは医学には誇りがあることだ。人間の苦しみは人間の力で治すしかほかはない〉と
名医を古い言葉で「国手(こくしゅ)」という。もとは「国を医する名手の意」(広辞苑)ならば、政治家も誇り高き医者だろう。鳩山首相が思いやりの深い人柄であるのは認める。今更ながら、医者よりも祈祷師(きとうし)に近い資質が玉に瑕(きず)として惜しまれてならない
普天間飛行場を最低でも県外に移して沖縄の負担を和らげ、移設先の地元も快く受け入れ、米国も満足して日米の絆(きずな)は揺るぎもない…
その願いは申し分ないとして、かなえるために首相は何をしただろう。目を凝らした精密検査もせず、投薬の処方も知らず、事態を切り開くメスをみずから執らず、「そうなればいいな」と祈っていただけのように映る。本物の医者を呼べ――の声が世に充満し、退陣という形で病室を追われたのは致し方ない
難問の普天間移設は鳩山氏のもとで「超」難問に姿を変え、宿題として次の首相に引き継がれる。まじない政治の罪の重さよ。
6月3日付 編集手帳 読売新聞
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