人生は一冊の本にたとえられる。英国の詩人ジョン・クレアは過去を悔いる気持ちを、「人生に第2版があれば校正をしたい」と言い表した。「人生の一ページ」という耳慣れた言い回しもある
胸に深く刻まれる出来事は「栞(しおり)」かも知れない。卒業、初恋…過去を顧みるたび、そのページがきまって開かれる栞を、誰もが自分だけの本に挟んでいる
災害や事件のように、同時代の空気を吸った人々が共有する栞もある。美しい栞を7年後の子供たちに贈れなかったのが残念でならない。2016年夏季五輪の招致に、「東京」が敗れた
敗戦の焦土から立ち上がり、平和の祭典に臨む。45年前の東京五輪のような、国民の心を束ねる糸がないまま、招致の熱が沸点に達しなかった印象も残る
多くの人が足し算をしたはずである。自分はいま何歳、子供は何歳、7を足してそれぞれ何歳、生活は、世の中はどう変わっているだろう…。今日を生きるのに心せかれるご時世に、少し遠くを見つめる時間をもてたことは無駄ではあるまい。栞の幻影を追いつつ九分九厘は負け惜しみで、残る一厘は心から、そう思う。
10月4日 編集手帳 読売新聞
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