10.22.2009

「なに言うてんねん」犠牲者の無念と遺族の悲しみを思えば・・・ 編集手帳 八葉蓮華

 自動券売機が普及し、厚紙の乗車券が身の回りから姿を消して久しい。歌人の小池光さんに一首がある。〈厚紙の切符のころは耳に挟み眠れる人もゐたり夜汽車に〉(現代短歌文庫「続・小池光歌集」)

 旧国鉄の改札を通るとき、ハサミを入れる人の握力が伝わってくる「パッチン」という音と、切符の刻み目に触れた指の感触と、ともに懐かしい。昔の厚紙、今いずこ――と見渡せば、JR西日本の経営陣が“面の皮”として受け継いだようである

 福知山線の脱線事故を巡って旧国鉄OBなど4人に対し、国の事故調査委員会が開く意見聴取会の「公述人」に応募するよう働きかけ、うち2人には資料代として10万円ずつ謝礼を支払ったという

 犠牲者106人の無念と遺族の悲しみを思えば、買収じみた工作は恥ずかしくて普通はできない。厚顔のなせるわざだろう

 読売歌壇で読んだ歌がある。〈たそがれの電車の響きは繰り返す「なに言うてんねん、なに言うてんねん」〉(武富純一)。JR西の電車でガタンゴトンがどう聞こえるかは想像がつく。「遺族がなに言うてんねん、世間がなに言うてんねん」

 10月16日付 編集手帳 読売新聞
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